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そんなもの


「おお、凄い……どの刃物を見ても一目で違うって分かる……!」

「ネフライト様はこういったものに興味がおありで?」

「うん、やっぱりこういうのを見ると楽しいんだよね。……あと、様付けはやめて欲しいな」

「どのようにお呼びすればよいのでしょうか」

「うーん、呼び捨てか、さんか、ちゃん付けとか?」

「承りました、ネフライトちゃん様」

「うん、それは違う」


 まだ調査時間までには時間があるということで、ネフライトさんはブライさんの作った武器や日常生活で使う包丁などの刃物を、グレイと会話をしながら改めて見ていた。

 錬金魔法、つまりは創る者としてこういった技術の集大成に興味があるようである。

 そういえば彼女の錬金魔法の腕前はどの程度なのだろう。ルートによって腕前にも差があったため、少々判断がし辛い。今は……師匠に及ばずとも注目を浴びる程度、なのだろうか。


「男爵。鍛冶師は男爵秘書と……に、夢中なようで、彼女も向こうとの会話に混ざっているようだから、一つ言いたいことがある」

「言いたい事ですか?」

「ああ」


 今のは彼なりに最大限に今の様子を遠回しに言った結果だろうか。

 少し場所を離れた3人がこちらの会話を聞いていないことを確認し、外に出るよう促してくる。

 俺は多少の面倒な予感を感じつつも、小さく頷き静かに外に出る。

 3人共俺達に気付く様子はない。

 外に出て扉を閉めると、先程までの動揺は微塵も見せず、変わらず仏頂面で俺へと向き直る。


「男爵。貴方は昨日の様子や俺のために武器の交渉をしてくれたことから、善良な人であると私は思いたい」

「はぁ、ありがとうございます?」


 思いたいが、思っているわけではない。

 早い話が会ったばかりでまだ判断が付かないが、良い人だと思いたい、といった感じなのだろうか。だとしても、もう少しいい言葉回しは無かったのだろうか。


「だからこそ貴方があの女に囚われている、という事実が許せない」


 …………成程。シャトルーズが言いたいことはよく分かった。つまりこういうことだな?


「ヴァイオレット・バレンタイン。アイツには心を許すな。アイツは――貴方に破滅しかもたらさない」


 よっし、喧嘩売っているんだな。高く買うぞこの野郎。


「何故そのように思うのですか、シャトルーズ卿」


 俺はあくまでも笑顔で対応すると、シャトルーズは表情はあまり変えないが、腰に携えている納められた刀の柄に手をやり、憎々し気に強く握る。

 まるで過去を思い出して、その過去が許せないというかのように。


「アイツの行為はあまりにも目に余る。貴方も殿下と婚約していた公爵家の女が嫁いできた以上、アイツの事情は知ってはいるだろう」

「多少は」

「だが仔細は知らぬ筈だ。アイツは――殿下に巣食う癌だ」


 具体的な行動を口には出さないが、シャトルーズは簡潔にヴァイオレットさんの所業をあげる。騎士を目指す者が陰口を……なんて言うつもりはないが、彼がこのように言う程には彼はヴァイオレットさんを嫌っているのだろう。

 人が人を嫌うにはいくつか原因が考えられる。

 例えば期待していたのに裏切られた。嫌がらせをされた。小さな不満が積み重なった結果。美醜の価値観によるもの。生理的嫌悪感。

 ……そして、好きな対象()を貶めたなど。


「シャトルーズ卿、ご忠告痛み入ります。ですが私は昨日言った通り、ヴァイオレットさんを好ましく思っています」

「……昨日の言葉は、本気だと?」

「はい」

「貴方はあの女の過去を知ってなお、受け入れるというのか……!」

「私も元々綺麗な過去という訳ではありませんからね。むしろこっちが受け入れてもらえるか不安な位なのですよ」


 こちらの言葉にシャトルーズは信じられないものを――と言うよりは、知らぬ者を憐れむような視線を向けられる。

 生憎とそのような感情を向けられる筋合いはない。ああ、いや、シキの馬鹿共が外で被害を出したとか言う時には憐れまれても良いだろうけど。


「何故だ」

「はい?」

「そう思うには理由があるだろう、何故あの女を好ましく思う?」


 何故?

 何故か……俺だって初めは突然の結婚で、前世と今の親のせいで結婚には良いイメージがあまりなかったのもあり、成り行き任せの所はあったのは認める。それにヴァイオレットさんを見ようとしていなかったのも事実だ。


『私は、どうすればいいんだ……なにをすればいいか、もう分からないんだ……』


 だけどあの表情を見た時に。彼女を一人にさせたくないとも思ったのも本当だ。

 自分が気付かなかっただけで、小さな良さに気付いた時でもあった。

 きっかけなんてそれで充分だろう。


「貴方に話すつもりはありませんよ。彼女を嫌う人間に、彼女の好きな所を説くほど俺は大人ではないもので」


 だからこそ俺は明確にシャトルーズに敵対の意思を告げた。

 彼が厚意で注意をしているのも、知らぬだろうからと心配で忠告しているのも分かりはする。不器用ながらも悪を許せないという気持ちは嘘偽りない性格(キャラ)なのも知っている。

 だが、過去のヴァイオレットさんのしてきた事が彼にとって許せない事であっても、今の俺にとっての彼女は大切な人だ。それを譲ることは出来ない。


「あ、居た二人共。急に居なくなったから慌てちゃったよ」


 なにか言い返そうとするシャトルーズよりも早く、ネフライトさんが見終わったのか鍛冶場の中から現れ、俺達の会話を打ち切った。

 ネフライトさんの前でこの話をするべきではないと思ったのか、シャトルーズはそれ以上は追及して来ずに俺に背を向けた。


「……なにかありました?」

「いえ、なにもありませんよ」


 ネフライトさんは疑問に思ったようだがそれ以上は追及しては来ず、俺達を交互に見て不安そうな表情になっていた。

 俺はこれ以上ここに居るべきではないと思い、二人を促して教会に戻ろう――とした所で、ネフライトさんに話しかけられた。


「あ、それと領主さん。昨日の事なんですけど」

「はい?」

「ヴァイオレットちゃんに会うことって、できますか?」


 ……しまった、こちらを忘れていた。

 どうしようか。シャトルーズは明らかにヴァイオレットさんを許していないし、敵意を向けている。恐らくだがアッシュも同様だろう。

 そんな中で二人が会うとなっては護衛のために二人は着いてきそうだし、二人は敵意を隠そうともしないだろう。今の言葉にもシャトルーズはこちらに視線は向けずとも反応しているし。

 それに例え1対1でも会わせるのは避けたい。どのような状況に陥るのかも想像がつかない。


「ヴァイオレットさんは、現在領主の業務をしていまして。会うのは難しいかと」


 なので苦し紛れではあるが、会うのは難しいとだけ伝える。その程度でネフライトさんが諦める筈もないと分かってはいるが……ん、視界の端に映ったアレは――


「無理を言っているのは分かっています。ですけどこの調査中に会いたくて。会えるタイミングはありませんか?」

「少なくとも今日は無理ですね。今日は……空を飛んで哨戒予定ですので」

「……え? い、いや適当なことを言わないで。……ください。空を飛ぶなんて飛行船とかモンスターに乗らない限りは――」


 そこまで言った所で、対象と言えるヤツが近付いて来たので、これ幸いと紹介することにした。

 ヤツはどうもブライさんに新しい素材を届けに来たところらしい。上空からゴゴゴゴ、と滑空しながらゆっくりと俺達の前に着陸する。


「ヤァ、オハヨウゴザイマス、皆サン。今日モ、ヨイ天気デスネ」


 人型失われた(ロスト)技術(テクノロジー)の集大成であるロボはにこやかに俺達に挨拶をした。

 うん、おはよう。今日もいい天気だ。相変わらず未来(オーバー)に生きているな。


「ご紹介します、ロボです。今日はロボに乗って空を飛ぶ予定です。まだ彼女は乗ったことなかったので、慣れさせようかと」

「ハイ? マァトリアエズ、ハジメマシテ。オ近付キノフィナンシェ(financier)デス」


 何故フィナンシェ。無駄に発音良かったし。


「……あはは、世界って、広いなぁ」


 ロボを見て、ネフライトさんは少し遠い目をした。

 シャトルーズは理解できないかのように武器を構えていた。


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