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役に立つは逃げること(:菫)


View.ヴァイオレット



「つまり我が瞳は魔眼であったのだ!」

「な、なんですって!」

「…………」


 私はなにをやっているのだろう。

 正直今は会いたくない相手がシキに訪れ、明日からどうするべきかとグルグルと思考が回り吐き気があったが、今は屋敷でグレイとシアンさんと共にアプリコットのよく分からない話を聞いている。


「ほほう、コットちゃん。魔を含むものなら私が浄化しないとねぇ」

「ふっ、我が魔眼は浄化程度で晴れるものではないのだよ」


 アプリコットは何故かしている右眼の眼帯に手をかざし、ふっふっふっと怪しく笑う。

 最近は彼女の話も少しだけ分かるようになってきた。所謂呪われた力のようなものを含んでいるのを格好良いと思っていて、実際に呪われているわけではないんだろう。


「【最大浄化魔法(サンクチュアリー)】」

「い、いやぁあああああ! いきなり本気出してきたぁああ!?」

「アプリコット様!? なんだか身体がキラキラしてきています!?」


 え、アンデッドや悪魔などしか効かない浄化魔法を受けて本当にキラキラしている……!?

 アプリコットは本当に魔を含んで――


「大丈夫、イオちゃん。単にオーくんに貰った魔の力を一時的に身体に纏う道具を使ってただけ。害はないし元々時間経過で失うヤツだよ」

「そ、そうなのか……って、待ってくれ。そんなもの作れるオーキッドは何者なんだ」

「さぁ?」


 さぁで済ませて良い問題ではない気がするのだが。

 でもあの人はシキの領民に慕われているし、駄目なことは駄目とキチンと叱るので良い人ではあると分かりはするのだが……


「くっ、水属性の癖に何故か最大浄化魔法を普通に使える修道女(ノーブル・ブルー)め。我が昏き力を浄化するなど、それでも神に仕える者なのか!」


 神に仕える者として間違ったことはしていないと思うが。


「アプリコット様、身体からプスプスと煙が出ていますが大丈夫なのですか?」

「ふっ、我でなければ即死であったが、我であるからこそこの程度で済んでいるのだぞ、我が弟子よ」

「さすがですアプリコット様!」


 グレイは変わらずキラキラとした視線で褒め称える。

 変な影響を受けないか心配ではあるが、クロ殿も余程でない限りは楽しそうだから見守ってあげましょうと言っているし、余程が無ければ見ているのが良いのだろうか。それに私はやはり人に指摘を……いや、気にするべきではない、のか……?

 それに彼女らがこのようにいつもよりテンションをあげ、馬鹿騒ぎをしている理由は分かっている。私に気を使ってくれているのだろう。

 詳細は知らずとも、私が学園でなにかをしてしまったというのは聞いてはいるだろう。だから気にはさせまいと――


「ただいま」

「あ、クロ殿。……おかえり」


 クロ殿が家に帰ってくると、私はシキに来てからよく言うようになった出迎えの言葉を掛ける。見ると少々疲れているように見えるが、なにかあったのだろうか。

 ……まさか学園の者になにか私関連でされたのだろうか。だとしたら謝らなければ――


「おかえりー。遅いぞークロ」

「すまん、ちょっと馬鹿を送り届けていた」

「カー君か。教会に正面突破しようとした?」

「しようとした所をぶん殴った」


 今の会話で何故分かるのだろうか。

 でも私には分からない会話をする二人が、少し羨ましい。


「じゃあヴァイオレットさん、そして皆」


 クロ殿はここに居るメンバーを確認し、全員がクロ殿の方を見ていることを確認すると、ドン、と手に持っていた袋から飲み物が入った瓶を取り出し、机に置く。


「飲みましょうか」

「……はい?」







 宴会が始まった。

 クロ殿が持ってきたお酒を開けてから唐突に始まり、医者であるアイボリーが大量のアルコール類飲料を持ってきて少し遅れてやってきて今では6人で飲みあっている。

 私はアルコールの類はあまり好んでは飲んだことは無い。社交場では成人すれば飲む機会があるので、多少飲む練習や味を知るくらいには飲んではいるのだが。後はアルコールは思考を鈍らせるので父にあまり飲まれないようにと注意を……いや、今は関係ないか。


「ひゃっはー! イオちゃん、飲んでるー!?」

「え、ええ」


 シスターであるシアンさんが飲まれているのだが、神職の末端として大丈夫なのだろうか。しかも絡み酒なので割と面倒くさい。私も言われて少しは飲んでいる。一定以上飲もうとするとクロ殿がシアンさんを諫めてくれているのだが。


「ほれ、痴女修道女。お前の好きな酒のお替りだ」

「ありがとー……ブハッ!? これ、な、なに……!?」

「アルコールが96度の酒だ。意外と旨いぞ。俺もよく飲んでいる」


 それは多分酒じゃなくて酒の名を騙った別のなにかではないのだろうか……ああ、アイボリーが一気にいっている!? 医者というか人がそんなに飲んで大丈夫なのだろうか……?


「アイボリーはいくら飲んでも殆ど酔いませんし、オーキッドから酔いが一瞬で覚める薬も常備しているんで大丈夫ですよ」

「そ、そうか……待ってくれ、そんなもの作れるオーキッドは何者なんだ」

「さぁ?」


 さぁで済ましていいモノじゃない。って、もしかしてクロ殿も酔っているのか?

 急に酒を飲むなど(らしくないこと)もしだしたし、元から酔っていたのでは……?


「むー……クロ様達だけズルいです。私めも一口位お酒を飲んでみたいです」


 そしてグレイは飲めないことに不満そうに頬を膨らませ、ノンアルコールのシャンパンを飲んでいた。

 流石に未成年に酒を飲ませるわけにはいかない。そこを分かってもらおうとグレイに話しかけようとしたが、私よりも早く近くに居たアプリコットがグレイの肩を叩いて言葉をかけた。


「駄目だぞ、我が弟子。(われ)達人族はお酒は成人(15)になってから。多くのお酒は20以上にならなければ飲んではならない。この法律は生物の成長を妨げないようにする法律だ。弟子も健康に背丈は伸ばしたいだろう?」

「そうですが……むぅ」

「背伸びした行為は子供であることの証左だ。ほら、我特製の檸檬を(ビー)の蜜につけ炭酸で割ったモノだ。美味しいから一緒に飲もう」

「はい……あ、美味しいです。さすがアプリコット様」


 誰だこの子。

 い、いや、アプリコットなのは分かるのだが普段の様子と比べると様子が違うというか、彼女ならば同じように羨ましがってこっそりとお酒を飲むくらいしそうであったのだが。


「ふっ、それに酔っていないからこそ楽しめる方法もある」

「それは?」

「クロさん達は酔っている。ならば我が料理作成クリエイターズ・ギフトの腕前を見せてやろう、酒に酔っていては舌がバカになるからな。心して待つが良い!」

「おー、コットちゃんがおつまみ作ってくれるの?」

「ええ、数分でできてお酒(ネクタル)共に相応しいモノも提供して見せよう。という訳で台所をお借りしよう! ――そしてこれが既にできたものだ!」

「はやっ!? ていうかもう出来てたんじゃないの。そして美味しい! さすがコットちゃん!」


 本当に誰だこの子。

 えっ、この中で一番料理が上手いのはアプリコット? 一人暮らしをしていて、自分のことは自分で成してこそ真の魔法使い? ……あ、本当に美味しい。今度作り方を教えてもらおう……かな。

 と、違う。そうじゃない。

 料理も美味しいし、クロ殿やアイボリーが持ってきたお酒も意外と美味しい。だが私がすべきことはこんな事じゃないはずだ。


「クロ殿」

「はいー」


 クロ殿に呼びかけると、いつもより気の抜けた返事をされる。やはり酔っているのだろうか。

 このような状態でクロ殿の今回の真意を聴けるかは分からないが、聞くだけ聞いてみなければ。


「私に気を使っているのかもしれないが、このようなことをしなくても私は」

「ヴァイオレットさん、過去は変えられません」


 だがクロ殿は思ったよりも真剣な声色で、私に答えを返してくれた。


「俺達だってシキとは別の場所で色々失敗をしました。ですけど皆楽しく今を生きようとしています。罪は背負うべきですが、一人で戦う必要はないんです」

「…………」

「ですから、後ろ向き(ネガティブ)な時は全てを忘れてしまうのも偶には良いですよ。えーっとあれです。共和制国家かどっかの言葉でいう、逃げるは恥だが役に立つ、的なヤツです」


 逃げるは恥だが役に立つ。つまりは自分の戦う所は選べ、というやつか。

 過去のやらかしと戦うのも大切であるが、戦う相手を見誤らずに、


「シキに居る味方も居るんですから、一人で抱え込まなくていいんですよ」


 今の味方も見て欲しい、とクロ殿は言いたいのだろう。

 私はそれを聞いて騒いでいるグレイたちを見る。

 ……そうだな、まだ吹っ切れてはいないが、今くらいならなにも考えず()と過ごすくらいいいだろう。


「ちなみにその諺は今の環境から逃げても良い、っていう意味でもあるぞ」

「マジですか!? え、違います、そういう意味じゃなくって、いや、囚われないでって意味ではあっているのか……!?」

「ふふ、分かっているよ、クロ殿」


 私は慌てるクロ殿に微笑むと、注がれていた酒を一気に飲む。

 ふぅ、飲まれはいけないし、酔って変なことをするのも良くないが、楽しむくらいは良いだろう。

 弱くて悪いか、殿下の言葉を忘れられなくて悪かったな、殿下が好きなあの子を心の中で悪態つく位別に良いだろう、もしも殿下と対面する機会があったとしたらどうせ狼狽えるだろう、アルコールが抜けたら今の事を後悔しているかもしれない。


「さぁ、飲もうクロ殿! 父やアッシュやシャトルーズの言葉なんて今日は関係ないぞ!」

「おお、良い飲みっぷりですヴァイオレットさん! どんどん行きますか!」

「だが、私達が法律に反している酒は駄目だ。クロ殿も未成年の悪い飲み見本にならないようにしよう」

「あ、はい」


 うん、そこは弁えなくては。シアンさんのようになるのも駄目である。

 すると屋敷のチャイムが鳴らされ、扉が開かれ中に人(?)が入ってくる。


「ヤア、遅レマシタ、クロクンタチ。オ誘イアリガトウゴザイマス」

「お前も誘われたのかロボ。ほれ駆け付けに一杯」

「アリガトウゴザイマス、アイボリークン。……フゥ、身体ニ染ミマスネ」


 ……待て。ロボさんはその状態でどうやって酒を飲んでいるんだ。



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