権力が集合しつつある
「――くしゅっ」
我が屋敷にて昼食を食べ終え、後片付けをしていると寒さの影響なのかふとくしゃみが出た。別に寒くは無いし、風邪の心配もないがなんとなく体調に気を使おうと思いつつ、後片付けを進める。
――そういや、くしゃみは噂をされている証というのを聞くな。
漫画とか迷信とかでよくある話ではあるが、俺がされる噂なんて大抵碌でも無い事だろう。
ヴァイオレットさんが俺の事を噂してくれているのならば良いが、当のヴァイオレットさんは、先程まで一緒に昼食をお互いに食べさせ合っていたので噂などしまい。今頃少し行き過ぎてしまった事に顔を覆いながら教会に行きながら顔を真っ赤にさせている最中だろうし。……思い出したら俺も顔が熱くなって来たな。水で冷やそう。
「グレイとアプリコット、試験うまくやってるだろうか」
俺は意識を逸らすために今頃首都で試験をやっているだろうグレイ達の事を思う。
俺やヴァイオレットさんの時と同じならば、今頃学問と魔法試験を終えて昼休憩に入り、実技試験といった所だろうか。
変に気負わず、俺達の評判関連で周囲と問題さえ起こしていなければ月組には入れるだろうから、問題が無い事を祈ろう。
……先程のくしゃみが、その予兆であった、という事が無い事を祈ろう。微妙に嫌な予感もしたし。
でもなんだろうか。グレイ関連の嫌な予感でもあるのだが、俺関連の嫌な予感でもあった気がする。なんというか、こう……掘り起こされたくない、過去の所業について掘り起こされるカウントダウンが始まりそうな感覚で――
「ふべーぁーー!!」
「おうっ!?」
と、なんだか俺の隠しておきたい過去が暴かれるカウントダウンが始まった感覚を覚えていると、玄関の方からなにやら奇声らしき女性の声と、扉になにかをぶつけるような大きな音が聞こえて来た。……皿洗い中とかで、皿を落として割らなくて良かった。
扉だけならばシアン辺りが突撃した可能性もあるが、奇声の方は聞いた事が無い女性の声であった。少し遠いので確定ではないのだが。
「……新たな住民か?」
お客か、この間の騒動の件の使者か、あるいはシキに滞在して色々と楽しんでいるどこかの王子と王女を引き取りに来た使者か。
俺としては最後が一番ありがたいのだが、奇声をあげたのを考えるとどうも新たな住民でも来たのではないかと言う思いが強い。今回は突撃奇声愛好家でも来たのかもしれない。
「グレ――と、俺だけか」
先にグレイに出て貰おうとして、俺しかいない事に気付く。……駄目だな。早くなれないと駄目なのに、子離れできなくてどうする。
ともかく、ヴァイオレットさんもいないし、誰かが来たのならば早く対応しなくては。後ついでに扉が凹んだら修繕費を要求しなくては。
そう思いつつ、俺は軽く身なりを整え、手櫛で軽く髪をセットしながら玄関の方へと急ぐ。
「スカイ、大丈夫か? 怪我は……外傷はないが少しでも不調があったらいてくれ」
「は、はい大丈夫です! 申し訳ありません、私がこのような無様を晒すとは……! かくなる上は腹を切って詫びましょう」
「東の国に居るという蛮族かなにかなのかい、君は。生きて私を守って欲しい」
「なんという寛大な……はい! わが身をもって守り通してごらんに入れましょう!」
「……あまり家の前で騒ぐものではありませんよ。迷惑を掛けてしまいます」
「はい、申し訳ありません、ロー……ラン様!」
「……真面目なのは良いのですがね。身なりを整えたら入りますよ」
玄関の扉を開ける前に息を整え、出る準備をしていると、そのような会話が聞こえて来た。
爽やかな男性の声に、静かな話し方をするくぐもった女性の声。そして恐らく先程の奇声の主であろう、真面目そうな女性の声。
三人組だろうか? 他にも居るような気もするが……なんだろう、気配を消しているというか、もっと遠くに居るような感じがする。
ともかく、この屋敷に来客であるようだ。真面目そうな女性が従者のような話し方であるから……多少なりとも身分が高い方々だろうか。
「いや、どうやら既に騒ぎを聞きつけて誰か来ているようだ」
俺がチャイムを鳴らされるまで待とうかどうか悩んでいると、男性が俺の気配に気づいて扉越しに声をかける。
……気配に気づかれるという事は、多少なりとも腕に覚えがあるのだろうか。ともかく、気付かれたのならば素直に開けるとするか。
「失礼いたしました。我が屋敷の前にて音が聞こえたので来ていたのですが……不快な思いをなさったのならば申し訳ありません」
俺は相手が身分が上と想定して聞き耳を立てていたと疑われる可能性も含め、謝罪の言葉を、扉をゆっくりと開けてから述べる。
そして軽く一礼をしてから顔をあげる。相手の身分が上と確定しているのならばこのまま言われるまで頭を下げ続けるべきなのだろうが、領主という立場と相手はまだ名乗っていないのでまずは相手の情報を入れるべきだと判断した。
「いや、構わない。あのような大きな音と声があれば何事かと思うのも訳は無いからね」
そして、俺は目の前にいる相手を見て、対客用の笑顔のまま表情を固まらせた。
「こちらのスカイが雪で足を滑らせてね」
「……申し訳ありません。修繕費に関しては後で書面にて渡して頂ければお支払いいたしますと、領主にお伝えください」
男性に言われ、申し訳なさそうに頭を下げる騎士のような格好をした黒髪に水色目の女性は、どうやら俺を従者かなにかと勘違いしているようだ。
いきなり領主が出て来ると思えないから勘違いするのも仕様が無いし、なんか何処か……主に何処かの乙女ゲームで見覚えがあるような外見をしているが、彼女はまだいい。何処かの乙女ゲームに関与している女性が来たとか嫌な予感しかしないが、それはまだ良いんだ。
「………………」
魔女服……とはいえ、アプリコットのような魔女服ではない、前世の魔法使いのイメージの一つとして出てきそうなローブを身に纏った、黒色に桃色目の女性は良い。落ち着きがあって俺よりも年上っぽく、なんかローブに認識阻害の魔法のようなモノがかかって怪しさマシマシだが、彼女もまだ良い。
「ああ、いや。まずは挨拶だね。はじめまして」
だが、この男性。彼が間違いなく問題なのだ。
俺と同じくらいの身長で、ヴァイオレットさんよりも年齢は下のようである。
俺は彼とは今まであった事も無いし、見た事も無い。
だが、間違いなく面倒かつ大変な相手だと分かる。具体的に言うと俺と相性が悪い疑いが出始めている一族関連だ。
何故そう思うかと言うと……彼は赤い髪に、紫の瞳であるからだ。
「私の名前はバーガンティー・ランドルフ。唐突な来訪で申し訳ないですが、ハートフィールド領主はご在宅でしょうか」
……バーガンティー・ランドルフ。
第四王子が同姓同名だった気がする。はは、スゴイグウゼンダナー。ハハハ。
――ヴァイオレットさんが帰ったら、甘えようかな。
この状況をヴァイオレットさんが知ったら彼女も胃を痛めそうな気はするが、それはそれとして、昨日のように抱き着き、ただ時間が流れていくのを心地良く感じていたい。
俺はそんな現実逃避をしながら、目の前にいるお方の対応をするのであった。




