懐疑と擬態と虚偽(:灰)
View.グレイ
「おーい、そこの楽しそうな若人達ー。あまり往来で喧嘩はしないでくれ」
と、ヴァーミリオン様達が一触即発的な雰囲気に包まれ、メアリー様が止めようとしていると更に外から声をかけられた。その声に皆が反応し、会話も止めて声の持ち主の方へと一斉に視線を向けた。
この声は年始にもシキに来られた、アプリコット様が尊敬する立場でもあるお方の――
「ヴェール様!」
「うん、一ヵ月ぶりくらいだね、グレイ君。試験なのは知っていたけれど、こうして会えるとは思わなかったよ」
大魔導士のヴェール・カルヴィン様。
アプリコット様のライバルであるシャトルーズ様の母君であり、クロ様が何故か名前を聞くだけで身構えるお方。姿を見せる時は全力で警戒態勢を取る事も有るお方である。
相も変わらずアプリコット様やヴァイオレット様とは違う大人な魅力があり、お綺麗であり、不敵な微笑みが似合う方だ。
「君達、若い内は自由に恋愛をして構わないが、こんな往来で大声で話し合うのならば、先達として説教の一つでも言わねばならないが」
ヴェール様は挨拶もそこそこに、ヴァーミリオン様達の方に視線を向けて先程までの言い争い? を諫めていた。
「申し訳ありません、ヴェールさん。つい熱が入り周囲が見えなかったようです」
「ああ、俺も熱中し過ぎていたようだ」
「申し訳ないです……けれど、私達は反省はすれど後悔は致しません」
「そうだな。メアリーの魅力がある以上暴走は仕方あるまい」
「そしてこれは私達の好きの証明です。抑える事などできません」
「君達、面倒くさいね」
「ええと……ごめんなさい」
「メアリー君が謝る必要はないよ」
しかしヴァーミリオン様達の謎の圧に押されていた。
アッシュ様の笑顔はなにか裏がありそうな笑顔であり。ヴァーミリオン様の冷静さには何処か熱さがあり。エクル様は眼鏡をキラーン! とさせながらヴェール様に熱弁する。……あの光り方はどういう仕組みなのだろうか。
「……あの光り方は真似したいな。眼鏡か……知性の結晶として良いのかもしれないな」
そしてアプリコット様は呆れた表情で彼らを見ていたが、エクル様の眼鏡をクイッ、とキラーンさせるのに関しては興味深そうに見ていた。光らせるついでに首を痛めているかのように抑えるのはなにか理由があるのだろうか。
そしてアプリコット様の眼鏡姿……見てみたい。この後のアレの買い物と一緒に買うのも良いかもしれない……と、今ヴェール様の手からなにか……?
「? なにか落とされましたよ」
「おっと、すまない」
話していると、ヴェール様が手に持たれていた紙を落ち、風に靡いて私の所に来たので拾う。
紙は私の手の平よりも少し大きい程度の大きさで、なにか角ばったり丸かったりする線で書かれた絵の羅列が書かれていた。いや、これは絵でなく文字……だろうか。東の方にある国と似た特徴を持つ文字も見受けられるが、何処となく違うと思える特徴を持っている。
「……と、見てはいけないですね。申し訳ありません」
視界に入ってしまったが、大魔導士のヴェール様が持たれている紙に書かれているものだ。
この文字はなにかしらの意味を持つ機密文章である場合、見る事すら危ういだろう。例えプライベートなものだとしても見るべきではない。
「いいや、気にすることは無いよ」
私が紙をお渡しつつ非礼をお詫びすると、ヴェール様は少し苦笑いするかのような表情になって紙をヒラヒラとさせた。
「実は私も読めないんだ、この文章。正直見て貰って、読める相手が居るというならば、教えて貰いたいくらいだよ」
「どういう意味です?」
ヴェール様も読めず、誰かが読めるのならば教えて欲しい……というのはよく分からない。古代語かなにかなのだろうか? だとしても紙は新しいので、書いた方は分かると思うのだが……写本的な事をなさったのだろうか?
「私の師匠が占星術……と言うべきなのか、未来を占う事があるんだ。それで先程占って貰ったんだが……結果がこの紙なんだよ。しかも書いた師匠自身も読めないというんだから質が悪い」
私がそう疑問を浮かべると、ヴェール様は少し疲れた表情で答えてくださった。
ヴェール様の師匠は偶によく分からない事を言いだしては、未来を予言することがあるという。その予言で王国は何度か災害を予測できたため重宝されているそうなのだが、性格が気難しく訳の分からない事を言いだす事もあるため、話すのも一苦労するらしい。
そして今回未来予測として書かれたのが、今拾った紙でありヴェール様の師匠に意味を問いただしても「その紙が予言の全てであり、私は導きに従ったまでだ」と言って書いた師匠も意味を理解していないとか。
「(メアリー、あの文章は……)」
「(……ええ。そうですね。ですが以前言いましたが、あの文章自体クロさんも分からない文字だったそうですし)」
「(見つかったは良いが、解読できるかどうか分からないから、読めるかどうかを聞きたかった、だったか。……まぁそれは良いか)」
そして文章を遠目で見ていたメアリー様とヴァーミリオン様が誰にも聞こえない小さな声でなにやら話しているのを視界の端に捕えた。なんだろう?
「まぁ、だから落とした所で読めない文字だからね。別に見られても構わない。失礼だが、ヴァーミリオン殿下はこの文字に心当たりは?」
「……ないな。力になれなくて申し訳ない」
「いや、こちらこそ失礼した。まぁ気長に解読を勧めていこうと思う――」
「……“この王国に試練を与える……?”」
「――の、だがね……?」
ヴェール様は小さく笑いながら溜息を吐いていたのだが、その紙に書かれた文字を、ある方が読み始めた。
多くの古代語、現代語学に精通しているだろう大魔導士のヴェール様や、王族としてあらゆる教育を受けて来たヴァーミリオン様なども読むことが出来ずにいた、紙に書かれている事を、読み始めたのだ。
「……君、読めるのかい? この文字を」
「……ええ」
周囲も読めている事に驚き、読んでいるその方に注目を集める。そしてヴェール様が問いかけると、その方は頷いて文字が書かれている紙を受け取った。
「幼少の頃、出自が不明な言語表のような物に、この文字が書かれていたので。興味を持って覚えた記憶があったのだけど……だから所々だけど、なんとか読めない事は……ないかな」
「そうなのか。……なんと、書かれているんだ――エクル君」
エクル様は紙を見ながら、どうにか読めるだろう単語を見て、王国語に訳していく。
「“・・者が、この王国に試練を与える。・・に、・・、をもたらし、王国を、・・に導く、だろう。その・・者は、すべてで四人、いる。・・を、もたらしたくないのなら、抗え。抗い、四人の・・者を、生かす事だ”……申し訳ありません、ここまでしか私では読めないかな」
試練や導く……? そして四人……なにかしらの特殊な力を持った者が関与しているのだろうか?
「いや、ありがとう。出来ればこの後も似た文章の解読を頼みたいのだが、時間はあるだろうか?」
「ご期待に沿えるかは分かりませんが……明日の午後ならば大丈夫です」
「そうか。では明日の十三時に私が――」
私達が疑問に思いつつ、ヴェール様達は解読の続きの依頼の段取りを進めていた。
ヴェール様の表情は真剣そのもので、この文章自体に重要な意味があると理解しているかのような気がする。
「……文字なのですね、これは」
「我には奇妙な絵を並べているようにしか見えんな」
「私もです。このような文字は初めて見ましたよ。……初めて……?」
「……奇妙な絵? ……いや、奇妙な文字を昔書いていて……?」
アプリコット様とアッシュ様は受け取った紙を見ながら、なにやら思う所があるようで記憶するかのように見ている。今までの記憶と照らし合わせるかのように、疑問をもう少しで解決できそうで出来ないもどかしそうな表情だ。
「…………」
そしてヴァーミリオン様が、話し合っている中寂しそうな表情でメアリー様を見ているような気がし、
「…………転生者が四人いる……?」
視線の先に居るメアリー様は私達から少し距離をとって、なにかを呟いていた。
メアリー様にとって重要であろう事は、私達が抱いている疑問を全て晴らしそうなほど、全てがその情報に集約されているようであった。
――クロ様?
だけど私はそれらよりも、その文章の一部を聞いて何故かクロ様の顔を思い浮かべていた。
……何故だろう? そう思いつつ、シキに居るクロ様を心配した。




