割と構ってちゃん達が多い
この時期は昼は暖かいが、夕方に差し掛かろうとすると冷え込む時がある。
今日はどうやら冷え込む日だったらしく、風が吹くと少々肌寒く感じた。
「ヴァイオレットさん、寒くありませんか」
「この程度ならば問題ない」
返答に分かりましたと伝えると、軍の方々が来るだろう方向をボーっと眺めていた。
先程まで制限ありの言葉遊びをしたりしていたが、少々飽きた。これなら本でも持ってきて読んでいた方が良かったかもしれない。
これが騎士など居なければ、向こうから訪ねてくるのを待っていればいいだろうが、相手の身分が上な以上は出迎えをしなければならない。
「もう少し経っても来ないようだったら、皆さん戻っていても構いません」
いつ来るかも分からないので、一緒に待っているグレイやヴァイオレットさん、神父様などにはそう伝えたが、律儀に一緒に待ってくれている。
……しかし、何故遅れているのだろう。ヴァイオレットさんの時みたく日にちそのものが間違っていた、という事が無ければ良いけど。
「ふふ、軍の方々いつ来られやがりますのでしょうね」
シアンも少々限界が来ている。
神父様の前だというにも関わらず言葉の端々から素が出ている。神父様は言葉遣いに注意はするが、本人も暇なのか聖書を読み始めているし、多少なりともシアンの言葉には同意はしているようだ。
「おい、クロ。軍の女性はまだ来ないのか! 早くしないとせっかく用意した夜の語らいの場所が意味なくなってしまうじゃないか!」
「お前は帰れ」
「いや、来ないならシキの女性達に今夜はどうかと誘えばいいのか。じゃ、俺はさっそく声をかけてくるぜハッハー!」
待っていると色情魔が現れ、自分で納得すると笑いながら去っていった。なにしに来たんだ、アイツ。
放っておいた方が軍の女性に迷惑を掛けないから無視しとけばいいだろう。そして後でアイツのお目付け役にでも縛っておいてもらおう。
「ふ、まだ腐敗せし蒼の騎士団は未だ深淵を彷徨いつつある。よろしい、我が新たに編み出した魔法、【闇に囁く追跡者】にて周囲を哨戒しようではないか!」
「大人しく家に戻れ」
続いて中二病少女がバサッとマントを払い、杖を持ちポーズを決めながら現れた。
なんだこいつら、打ち合わせでもしているのか。
「アプリコット様、【闇に囁く追跡者】は一体どのような魔法なのでしょうか」
「よくぞ聞いた我が弟子よ。この魔法はその場にいるにも関わらず、索敵魔法にも探知不可能となり、存在を消せる(かもしれない)魔法である!」
「なんとそれは素晴らしい魔法ですね、さすがアプリコット様!」
グレイがキラキラと目を輝かせ褒め称え、アプリコットはマントをたなびかせてドヤ顔をする。ヴァイオレットさんが放っておいて良いのかという視線を向けるが、偶に本当にできたりするから否定もし辛いし、楽しそうだからいいだろう。
「む、クロ。お前らがここに居るということはまだ軍の奴らは来ていないのか」
「ああ、まだ来ていない。遅れているみたいだ」
「まったく、これだから軍属という者は……はっ!? まさか遅いということは……トラブルか! つまり怪我をしている可能性があるな、すぐにでも駆け付けなければ!」
「天啓を得たみたいに行こうとするな!」
「ええい、離せ! 怪我が、傷が俺を待っている!」
こいつら暇なのだろうか。
構って貰えなくてちょっかい出してくる子供じゃないだろうな。全員で止めると、変態医者はとりあえず渋々と帰っていった。
「ククク……クロクン。これは暗闇の際の周囲を照らす自動装置だ。常に魔力を流し込まなくても、最初に魔力を流せばより長時間周囲を照らし続ける代物だ」
「あ、この間のフェンリルの件で頼んでおいた奴ですね、ありがとうございます」
「ククク……こちらがマニュアルだ。そして夜は冷え込んでくる。温かいモノを用意したぞ」
「どうもです。ランプの謝礼は今度お渡しします」
黒魔術師は俺に新規改良した火術石を利用したランプを渡し、それぞれに温かい飲み物を差し入れると笑いながら去っていった。傍らには愛猫である黒猫もニャーと鳴いている。
「……駄目だ。彼が善良だとは分かるのだが、まだどうしても慣れない」
見た目は完全に国家転覆を企む悪の魔法使いって感じだから仕様がない。今も影からぬっ、と出現したし。
だけど他の奴らと比べて彼は本当にありがたい人だ。
うん、紅茶も温かくて美味しい。
飲み終わり、淹れられていたコップを地面に置くとコップが分解されるように地面に溶け、跡形もなくなる。……便利ではあるが、どういう仕組みなんだろう、これ。
「あ、来られたみたいだ」
すると神父様が聖書を閉じ、遠くを見て軍の方々が来られたと教えてくれた。
正直俺にはなんか動いている程度の動きしか見えないが、神父様の視力はこの中でも飛び抜けて良いので、神父様が言うのならば間違いではないだろう。
「……ん?」
「どうかしましたか、神父様?」
神父様はなにか疑問に思ったのか、軍の方々が来ている方向を見て疑問符を浮かべた。疑問に対しシアンが訪ねると、少々悩んだ表情の後答えを返す。
「いや、軍の方々……と言うには少々年若いと言うか、服装も軍の格好ではない気がしてね」
若くて格好が違う? もしかして旅人の団体か、悪い方向で考えるのならば盗賊か。
だけど確かに少々変に見える。俺が見える範囲まで近づいてきたが、確かに服装が違う。
上下黒い服の人と、白い服装の人で分かれており、中にはスカートを履いている女性もいる。それに年若い。
とてもではないが、軍人には――
「いや、あれって……」
「…………」
軍人には見えない。見える筈もない。
王国が建てた学園指定の服装であり、特権階級と平民とで色を分けている、俺も数年前には袖を通していた服装。
つまりは、アゼリア学園指定の制服。つまり来たのはアゼリア学園の生徒達で。
「申し訳ありません、少々トラブルがあり到着が遅れました、私達は――」
ヴァイオレットさんにとっては、2ヵ月前まで通っていた学園で。
「――何故、貴女がここに居るのです、ヴァイオレット・バレンタイン」
出会いたくもない人達が来たことになる。




