ハイになって叫んでます
ロボの救難信号を見て、まずは身近にいたルーシュ殿下と共に走り出してから途中でヴァイオレットさんとアプリコットと合流した。同じようにロボの音に反応して外に出て来ていたアイボリーなどにも事情を説明した後、俺とヴァイオレットさん、アプリコット、ルーシュ殿下、そしてシアンなどの数名の戦闘能力が優れた者達が先行して音がした目的の場所まで走り出した。
すると途中から視認できる距離に空を飛ぶモンスターの群れを確認し、さらに急ぐと飛翔小竜種の群れであると知った瞬間、俺達は一層スピードを出して群れへと走り出した。
「そちらはロボの方をお願いします!」
途中でロボが放っただろう攻撃の方向と、ワイバーンが巻き起こしたのか砂嵐が起きている場所があったので二手に分かれて向かうことにした。
グレイが居るのではないかと思うと気が気では無いし、そもそもワイバーンは危険なモンスターなので、討伐にしろ追い払うにしろ早く対処しなくてはならない。そして早く見つけたいと思う一心で全速力で走りだし、ついでに襲ってきたワイバーンの突撃を避けた後、すれ違いざまに尻尾を掴むと暴れ出す前に無理矢理地面に叩きつけて気絶させた。
他にもヴァイオレットさんがグレイ達が心配の一心で、今まで出来なかったレベルの魔法を唱えたり連続発動させたが、今はそれ所ではない。早くグレイ達を見つけないと。
『GRRRRRAA!!』
「邪魔だ!」
ええいもう鬱陶しい。
なんでワイバーンがシキに居るんだ。まるでこれから起こるだろうあの件に関しての前触れのような――前触れ? あれ、なんの前触れだっただろうか。
いや、今はそんなこと考えている場合ではない。
こんなにワイバーンが居ては一瞬の油断が命取りになる。実際少し無茶な動きをしているせいで服とかが多少汚れてしまっているし、ヴァイオレットさんにも危害が及ぶ可能性が有る。…………よし、危害が及ばないように全力で潰そう。傷の一つでも付けたら容赦なくぶっ飛ばそう。グレイも同様に傷付いていたら、ワイバーンを分解して余す所なく全てを材料にしてやる。
そんな思いを胸に、死線を潜っていると、
「静かにしろ! 【炎と闇の槍撃】!!」
「重要な話し合い中だ! 【魚王家の星】!!」
などと別れた後に先行しただろうアプリコットとルーシュ殿下が訳の分からない言い争いをしながらワイバーンに対応していた。
「おいコラテメエら! こちとらグレイ達を探しながらワイバーンの群れに戦っていたというのに、そっちはなに喧嘩しやがってんだ!」
だから殿下相手とは言え、多少は怒っても仕方の無い事だと思う。
◆
「時間稼ぎですね、了解しました」
そしてワイバーンを投げつけ、俺とヴァイオレットさん、シアンがルーシュ殿下と合流した後。ルーシュ殿下からアプリコットが魔法陣を展開させた魔法を唱えると聞いた。
魔法陣も詠唱もなくても魔法は使用できるし、戦闘に置いての魔法は発動スピードが優先される。しかし魔法陣は適正なモノを書けば書くほど威力が上がり、詠唱は適正なモノを精霊とかに語りかけながら唱えれば威力が上がる。
元々魔法に優れているアプリコットが時間稼ぎが必要なほどの魔法を唱えるとなれば、文字通りワイバーンを一掃できるような魔法だろう。
「ヴァイオレットさん。グレイとアプリコットを守っていて貰えますか。俺とルーシュ殿下と……」
「私も時間稼ぎをするよ。けれど、時間稼ぎじゃなくって全部倒しても良いんだよね?」
「シスター・シアン。その言葉は死ぬ前に言う台詞であるそうだ」
「え、マジ?」
「……と、シアンで時間稼ぎをしますので。万能な貴女が守るのに適任です。当然攻撃がいかないように注意はしますので」
「分かった」
俺達はワイバーンを牽制しながら、振り分けを口頭で伝える。
俺の言葉に一瞬ヴァイオレットさんは俺に向かって不安そうな表情になるが、その時間すら惜しいと分かっているのかすぐに緊張状態になり、頷いてアプリコット達の所へと向かおうと体制を変え、俺達はその道を切り開くために少々魔法を強く放つ。なお俺は全力魔法で牽制レベルなので、最初から魔法に関しては全力だ。
「ヴァイオレット。アプリコットが杖を地面に立てたら発動の合図だそうだ。そうしたらお前も合図をしてくれ」
「了解しました。合図として火魔法を空に打ち上げます」
会話を聞き、俺達は頭に入れるとワイバーンの攻撃の合間を狙い、少し強め(全力)の魔法を放ち道を開く。
よし、これで後は時間稼ぎをするだけだ。
俺とシアン、ルーシュ殿下は陽動をしようと武器を構え、駆けようと――
「私はグレイもそうだがクロ殿が傷付くのも嫌なんだ。――無理はしないで欲しい」
駆けようとした際に、ヴァイオレットさんのそんな声が聞こえて来た。
大きくはない声量であったため、多分聞こえなくても良いと思ってふと漏れ出た言葉なのだろう。
……成程。これでは傷を負うわけにはいかなくなったな。無傷で無理をしないように、ヴァイオレットさん達にも傷がつかないようにしないと。よし、この思いを伝えよう。
「俺だってヴァイオレットさんに傷が付くのは見たく無いです! 大好きな貴女の美しき姿を守る為に俺は戦いますからねー!!」
「――!?」
せっかくなので大きな声で言っておいた。
なにせワイバーンの羽ばたく音とか風の音とか鳴き声とかで五月蠅いからな、この場所! だから大きな声で叫ぶのは不思議ではあるまい。
それになんか気分が良い。ヴァイオレットさんの言葉はなにか特別な力が宿っていたのだろうか。
「あー……あれワイバーンの群れで戦って気分がハイになってるなー。後で赤面しそう」
「ロボさん! オレも愛しき貴女の為に戦って見せる! その場でオレの雄姿を見ていてくれー!」
「ルシ君まで!?」
「私だって格好良い大好きなクロ殿の為に、守り戦うからなー!」
「イオちゃんまで!? くっ、私だって愛しき神父様のために戦って見せる! 大好きですからね、神父様ー!」
なんだか周囲がワイバーンではない叫び声で五月蠅いが、今はヴァイオレットさん達の為にも戦わなくては。
来い、ワイバーン。B級が今の俺に叶うと思ってくれるなよ!
「……書いて、記して、描いて、書き綴って……集中しろ、我……羨ましがってはいけない……」
「羨ましい、ですか?」
「……少し集中するから、離れているんだ弟子。なんでもない」
「そうですか……?」




