第一発見を譲る(:灰)
View.グレイ
「気ガアルトドウカト言エバ、少シハアルデショウ。デスガ……」
「ですが?」
「…………」
ロボ様は問いに対し、少し間を置くと。
「ワタシが感じている感情は、羨望はあれど、恋心は無いです」
いつもとは違う流暢な話し方――恐らくロボ様の外装を介さない言葉で、返答をした。
「つまり応える気はないの? 釣り合わないから諦めている、という事ではない訳ね?」
「はい。ワタシの姿を受け入れて貰ったのは素直に嬉しいです。ですが、それで男性として好きになるというのは物語に出て来るような、都合の良い部分をのみ切り取った己に酔う感情です。……認めて貰えた嬉しさはあれど、恋愛は望みません」
ロボ様は少し悲しそうな声色で、ルーシュ様に対する断りの意志を示した。
私は恋愛というものはよく分からない。
父上であるクロ様と、母上であるヴァイオレット様を見ているとこういうものかと思い、喜ばしく思う事は有る。偶に読む本で恋愛というものを扱う書物を読んだ事もある。けれど、私自身が感じていない以上は、恋愛という本質を理解していないのだろう。
けれど、ロボ様は何処か……見えないけれど不思議と中のブロンド様も、どこか寂しそうな表情をしているように思えた。
「……そっか! 良かった。ゴメンねキツイ事を言って。王族としてこれ以上長引かせるのも良くないって思ってね」
「イイエ、ワタシモ踏ン切リガツキマシタ。考エル良イキッカケニナリマシタ。今マデドッチツカズデシタガ、ハッキリト断ロウト思イマス」
「まぁ会って一週間程度の相手を好きになる方が難しいものね。……まぁ兄様は一目惚れな訳だけど。それに私としては兄様に良い恋愛をして貰いたいとは思ってはいるけど無理は……っていうか、今更だけど、ロボって普通に話していなかった?」
「普通、トハナンデショウカ。生物ハミナ、個、トイウ普通ヲ持ッテマス」
「哲学的な事を言いだしたね」
「ソレト、申シ訳ナイデスガ、断ッタ後ノ……」
「うんうん、兄様のフォローはロイヤルな私に任せておきなさい!」
「オ願イシマス」
しかしロボ様はいつものような話し方に戻り、スカーレット様は聞きたかった返事を聞けたので納得したような表情になる。
どうやら話はロボ様がルーシュ様に断りを入れるという形で結論付けられたようだ。……結ばれるところは見たかったけれど、大事なのは当事者同士の気持ちなので私はどうとも言えない。一方的なものは前領主のような――いや、思い出すのは止めておこう。
「……よく言うよ。恋愛なんてどうでも良いと思っている癖に」
ただ、ずっと黙って居たエメラルド様が小さな声でなにかを呟いていたのが、少しだけ気になった。
◆
「目的地に着いたぞ。山茶水仙花があるとしたらこの辺りだな」
あの後、特にトラブルはなく目的地へと到着した。
場所は少し斜面を登り、木々が生えていない開けた場所。しかし周囲の冬でも生い茂っている葉のお陰で空はあまり見えない場所だ。エメラルド様曰く、地質がこの場所だけ特殊であり木が生えにくく、代わりの植物が植生しているらしい。そして同時にその地で咲くのは毒があるような植物か、山茶水仙花のような一部が薬としても使われる花だけとの事だ。
「とは言え希少だからな。私も探すが、あまり期待はするなよ」
「はい。ご協力ありがとうございます、エメラルド様」
「ワタシモ探シマスガ……ドウイッタ花ナノデショウカ」
「なんだ知らんのか。私が教えてやるからこっちに来い」
ロボ様はエメラルド様に言われ、近付いて説明を受ける。確かロボ様にとって花は触れると壊れるものらしいので、あまり興味を持とうとしなかったはずだ。曰く「ワタシハクラッシャーデスカラ」との事だ。誇らしげにしていたので、凄い事なのだろう。
と、それよりも私も探さなくては。お花が好きなアプリコット様の特に好きな花である山茶水仙花。見つけてプレゼントしたら距離が遠かったのが近くなれば良いのだが。そうでなくても、少しでも喜んでもらえたら私も嬉しい。
「グーレイ、くーん!」
「わっ!? ……スカーレット様、驚かせないでください」
「ふふ、ごめんなさいね」
私が早速探そうとしていると、後ろからスカーレット様に抱き着かれた。
相変わらず身体的接触の多いお方である。けれど誰これ構わず接触するのではなく、大丈夫な相手とだけ接触するとか。なにを持って大丈夫なのかは分からないが、私は「まだ差の自覚がないからねー」という理由で大丈夫らしい。よく分からないが、王族の方が言われるので凄い事なのだろう。ただクロ様はそれに対して一度だけ「目が……?」となっていたのが気になったのを覚えてはいるが。
「どうされたのでしょう。山茶水仙花の姿形が分からないのでしょうか?」
「いや、分かるよ。採取を手伝う代わりに、グレイ君に聞きたいことがあって。あ、探しながらで良いよ」
「私めにですか?」
私が問うと、スカーレット様は離れてから頷き、周囲の探索を始める。
私もそれに続き、近くに目的のものと、エメラルド様が喜びそうな毒草が無いかを探す。……それと、クロ様やヴァイオレット様が喜びそうな山菜が無いかも探しておこう。確か雪下に残っている山菜がある時があるはずだ。お二方にも喜んで貰えたら嬉しい。
「グレイ君のお母さんってさ」
「ヴァイオレット様ですか? ――【日輪調光】」
「うん。お母さんって、グレイ君から見てどんな感じ?」
「どんな感じとは……厳しくもお優しい母上だと思います。ただ、私めを子供扱いし過ぎな感じもあるのですが……――【月光解艶】」
私は魔法を唱え目的の花を探しながら、スカーレット様の問いに答える。
……あ、これはお茶にすると美味しいヤツだ。私は苦手だが、クロ様は独特の苦みが好きだと仰っていたものだ。持って帰ろう。
「それって、最初から?」
「初めはヴァイオレット様も厳しかったのですが、指輪を為されるようになってから特に優しくなられましたね――【憤炎巻起】」
「指輪って、あの金色の指輪の事?」
「はい。指輪を為されてからのヴァイオレット様は憑き物が少し落ちた感じは有りました。ですが、一番の変化は私が攫われた時でしょうか? ――【水音静寂】」
「攫われた?」
あ、これはヴァイオレット様がお好きな雪の下で越冬する花だ。摘みたいけれど……まだ眠っていて成長前の段階だ。今後の成長の為に場所だけ覚えておいて、球根が取れて花を咲かせてヴァイオレット様にプレゼントしよう。……あ、でも学園に行くのならば無理かもしれない。無念。申し訳ございません、ヴァイオレット様。
「一度私めが攫われた時がありまして。その際にヴァイオレット様が一番に駆け付けてくれたのです。――【風王輪廻】。当時来ておられた学園の皆様に協力を自ら願い出たとか。――【金剛海原】」
「ヴァイオレットが?」
「はい。他にも学園祭以降なども憑き物が落ちたように思えた時もありましたね。――【泥眼逆流】」
む、これは……! 違った、白くはあるけれど目的の花じゃない。それはそれとして、これはブラウンさんが好きな味を出せる蜜があるので、持っていこう。
「ともかく、様々な事は有りましたが。私めにとっては素晴らしい母上です」
「ふーん、そうなんだ……――を経験すると、やっぱり良いのかな」
「はい? なにか仰られましたか?」
「ううん、なんでもないよ」
「そうなのですか? ――仕上げに行きます、【宇宙黄昏】!!」
「……ところで、さっきから唱えている魔法はなに?」
「はい! アプリコット様から色々と学び、私めに授けてくださった探索魔法です! あ、スカーレット様も興味がおありなら、お教えいたしますが!」
「いや、遠慮しておくよ。なんか上手く扱えそうにない」
「む、確かにアプリコット様に直接ご教授して頂いた方が覚えやすいですね」
「うん、そういう事じゃない」
ならばどういう事なのだろうか。アプリコット様から教えて貰い、クロ様も交えた命名をした素晴らしき魔法達なのに。スカーレット様も覚えれば良い冒険の糧になると思うのだが。
「貴重な意見、ありがとね。さて、私も探しますか!」
スカーレット様は私の問いに満足したように、元気よく意気込む。
よく分からないが、私の答えに満足したのならば良かった。……さて、私も探索に集中しよう。早く山茶水仙花を見つけないと。遅くなったら心配されてしまう。
「あ、グレイ君。悪いんだけど、あの辺り探してくれない?」
と意気込んでいると、スカーレット様から再び声をかけられる。
また質問があるのだろうか? 次はクロ様の事やアプリコット様の事を聞かれるのかと思いつつ、スカーレット様の方を見ると、とある所を指さしていた。
「私めがですか?」
「うん、私じゃちょっと通れそうにない場所にあるからさ。気になったから、先に探して欲しいなーって思って」
指の差された方……広場と木々の境目の方を見ると、確かに木々の生え方からヴァイオレット様より背の高いスカーレット様には通れないような場所があった。私であれば通れそうである。
私は頷くと、スカーレット様は「よろしくね」と笑顔で手を振る。なんというか、悪戯をするかのような表情なのは気のせいだろうか。それと……確かにエメラルド様が言われたように、笑顔がどことなくクリームヒルト様に似ている気がする。
ともかく私はスカーレット様が指をさされた所に雪を踏みしめながら、指定の場所に向かい、どうにか隙間の場所へと到達する。すると私は周囲を見渡すと――
「……あ」
そこには、山茶水仙花があった。
白い雪で見えにくいが、確かに雪を突き抜けて表面に花を咲かせていた。
私は興奮しながら駆け寄り、雪をかき分けて花を傷付けないように土ごと花を摘む。
そしてそのままこの場所の入り口まで行き、中から見つかった報告をスカーレット様にする。
「スカーレット様、ありましたよ! ほら、山茶水仙花です!」
「おお、こんなに早く見つけるなんて。やるね、グレイ君!」
「いいえ、スカーレット様が教えて頂けたお陰です!」
「でも実際に見つけたのはグレイ君だからね。さっすが!」
スカーレット様が私に拍手をしながら褒め称えてくださる。
私は見つけた興奮と、賛辞の言葉に嬉しくてつい自分でも分かる位の笑顔となる。引き締めようにも、つい頬が緩んでしまっていた。
――希少な花をこんなにも早く見つけられてよかった。
――スカーレット様が示してくださったお陰だ。
――これでアプリコット様は喜んで貰えるだろうか。
――以前のように笑顔を見せてくださるだろうか。
――褒めて貰えるだろうか。
様々な思いが巡り、精神が昂って来る。
落ち着け、私。これでもし帰りに精神的高揚から前後不覚になり、台無しになっては仕様がない。まずは落ち着いて、花を持ち帰らなくてはならな――
「――え?」
そして精神を落ち着かせようと冷たい息を吸い、改めてスカーレット様の方を見ると、
「スカーレット様、上です!!」
「――っ!?」
上空から、飛翔小竜種が急降下してスカーレット様に襲い掛かって来ていた。
備考
日輪調光:日光の反射と吸収の位置からの探索。アプリコット命名。
月光解艶:月光の力を借りる。錯覚である。アプリコット命名。
憤炎巻起:体温をあげた防寒対策。アプリコット命名。
水音静寂:湿度から周囲の動植物の凡そをの位置を判断。クロ命名。
風王輪廻:風の流れを読む。クロ命名。
金剛海原:魔力のブレを平坦にし、精神を落ち着かせる。クロ命名。
泥眼逆流:土の中の音を感じ取る。アプリコット命名。
宇宙黄昏:上記全ての魔法を同時並行用魔法。気分が少し落ち着く。クロ・アプリコット・グレイ命名。
※この魔法名とは別の似た魔法はある。一部は唱えるとクロが少し恥ずかしいとか。




