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大切な相手に喜んで貰いたくて(:灰)


View.グレイ



 私は、焦っていた。

 理由は単純で、師匠であるアプリコット様に避けられているからだ。

 クロ様は心配無いと言ってくれた。

 ヴァイオレット様は大丈夫だと言ってくれた。

 けれど、ここ数日のアプリコット様を見ていると不安だけが大きくなっていく。

 間違いなく避けられている。

 私が近付こうとすると、いつもならば高らかに気高き笑い声をあげるのだが、何故か一歩離れられ帽子のつばを手にして顔を少し隠し、


『弟子よ、今は我に近付く逢魔が時(クロノス)ではない。暫し距離をとるのだ……!』


 と、私に近付くのを許してくれない。

 大抵その時は頬がいつもよりも赤く、熱があるようなのでもっと近づきたいのだが……やはりそれでも「大丈夫だ(モーマンタイ)!」と言って近付けさせてくれない。

 ……もしや私は気付かぬうちにアプリコット様に嫌われるようなことをしたのだろうか。そう思い出すと不安は収まらず、行動をせずにはいられなかった。


「それで、私の採取に付いて行きたいと言ったわけか」

「はい」


 そこで私はエメラルド様の採取に同行していた。

 採取というのは、週に一度毒を持つ植物を探しに行くエメラルド様の研究心を満たす習慣だ。場合によってはその場で食す事も有るとか。研鑽を怠らないその姿勢に私は憧れている習慣でもある。父君であるグリーン様は危険なので止めて欲しいと言っているらしいが。

 そして今回のエメラルド様の目的地に、冬の雪上にしか咲かない【山茶水仙花(サザンスイセンカ)】があるのだ。これは白く珍しい花であり、アプリコット様が好きな花でもある。

 もし見つける事が出来ればアプリコット様にプレゼントする事が出来る。そうすれば喜んで貰えるかもしれないと思うと、私は行動せずにはいられず、エメラルド様に着いて来たのだ。


「構わんさ。親父も私が独りで行くよりは安心するだろう。お前は魔法が優れているからな」

「ありがとうございます」

「私は構わんのだが、そっちの両親には伝えたのか? 山茶水仙花だと少し山を登るぞ?」

「ええと、そちらの件なのですが……」


 山茶水仙花は少し山を登り、森の中に入る。とは言え、昼前に出て夕方には帰って来られる範囲だ。

 なので、初めはクロ様やヴァイオレット様にも取りに行くと伝えようとは思ったのだが……


『ヴァイオレットさん、今日の料理は俺が作りますから。お好きな鶏肉の煮込み料理を作りますからご期待くださいね!』

『いや、クロ殿。気を使わなくてもいいぞ。昨日のアレは私がスカーレット殿下に伝えたのが悪かったからで……』

『勘違いではありましたが、俺がセクハラしようとしたことには変わり有りませんから、その……』

『……別に皆の前でなければ、私は勘違いでなくとも……』

『え……?』

『な、なんでもない!』


 と、朝から妙な会話をしていて普段とは違っていたので、出かけるとだけ伝えた。

 詳細は分からないが、最近私も感じ取ることが出来ている夫婦の秘め事(カーキー様命名)をしようとしているのだろう。私が居ては邪魔というものだ。


「成程、いい加減先に進めという話だ。……いや、意外と今なら進めるのか? あいつ等しかいない訳だしな」


 エメラルド様にクロ様達の事を伝えると「いつものやつか」とでも言いたげな表情で返答をした。


「んで」


 と、呆れるような表情をした後。エメラルド様が出掛ける前に自身の装備に問題無いかの確認と、私の装備が大丈夫かを確認すると、私の後方に居る方々を見やる。


「グレイは分かったが、そっちはなんで着いて来るのか聞かせて貰おうか」

「ふふふ、ロイヤルな私が付いて来る事が不満かな、エメラルド」

「……ワタシハ、彼女ニ連レテ来ラレマシテ」


 後方に居るお方、スカーレット様とロボ様だ。

 ご両者共、私と途中で会い目的地を聞くと一緒に着いてこられたのだ。ロボ様に関しては、スカーレット様が元々なにやら問い詰めており、ついでという感じに連れて来られていたが。


「……戦力的には問題無いが、親父が聞けば卒倒しそうな面子だな。不敬を働けば首が飛ぶ」

「私に対して“そっち”って言っている時点で大概だと思うけど」

「なんのことか分からんな。ここに居るのは冒険者しかおらん。問題無いだろう」

「ほほう、言うね!」

「……まぁ良いか。ロボは思い切り飛ばないでくれよ。お前が飛ぶと周辺の植物が驚いて目的のものが取れなくなるからな」

「ソウデスヨネ、ワタシガ居テモ迷惑デスカラ、コノ先ハ――」

「駄目。同行しなさい」

「……静音モードニテ行動シマス」


 スカーレット様はロボ様の言葉に満足した表情で頷き、「さぁ行きましょう!」と先行していった。ロボ様はそれを見て、静かに付いて行った。なお、静音モードのロボ様は若干浮いている状態で平行に移動している。

 ……ロボ様をあのようにするとは、スカーレット様はどのような方法を使ったのだろうか。


「なぁ、グレイ。確かお前は前からスカーレット様の事は知っていたんだよな?」


 先に行くスカーレット様達を見つつ、エメラルド様が聞こえないような小さな声で私に問いかけて来た。


「はい。何度かシキに。追手の方を撒くために直ぐ去られますが」

「追手ね……いつもああなのか? なんというか、ロボも従えるような」

「強気な女性である事は確かですね」

「そうか。なんとういうか、少し似ているな」

「似ている……誰とでしょうか」

「ああ――」


 エメラルド様は先に行くスカーレット様の背後を見つつ、最近を思い出すかのような表情で、


「クリームヒルトの奴だよ。あの第二王女、感情が何処かアイツに似ている」


 と、私には少し分かりかねる事を言った。

 スカーレット様とクリームヒルトちゃんが似ている……? どの辺りがなのだろうか。


「ふふふ、この採取の間は貴女について話してもらうよ! 将来のお義姉様候補としてね!」

「アノ、ソノ件ニ関シテハマダ心ノ整理ガ……」

「もう一週間経つというのに、まだだっていうのは聞かない。それに私にしか言えない事も有るんだから、話せることは話してもらうよ。……王族として、優柔不断は聞かない」

「……ハイ」

「……ってあれ? おーい、どうしたのー? 早く行かないとー」


 私が観察をしていると、スカーレット様が振り返ってこちらに手を振って来るように促してきた。

 エメラルド様はその様子に少し疲れた表情をしつつ、私に、


「行くか。今話した内容は、誰にも言わないでくれよ」


 と、一緒に行くように促して、私は了承の為に頷くと、私達はスカーレット様達に付いて行く。

 エメラルド様の言っている事はよく分からないが……ともかく、今はアプリコット様に喜んで貰えるように、花を探すとしよう。そう思いつつ、私は雪の森の中へと入っていった。




――この時点から、もう少し気をつけていれば良かったと思う。


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― 新着の感想 ―
[一言] そう、今グレイは両手に余る花状態ですからねぇ…アプリコット辺りが見たら誤解しか発生しないこの状況、何が起こるのか…
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