コイツら重い
「ロボさんと仲良くなりたい」
「……はぁ、そうですか」
酒場兼宿屋兼ギルドの【レインボー】にて。
数日前からロボの為に宿泊を続けているルーシュ殿下の相談を受けていた。
キッカケはヴァイオレットさんと共に外でする仕事を手分けしてする事になり、俺がこのレインボーに用があった事が発端だ。
レインボーに入ると、冬場でする事が無いからと昼間だというのに飲んでいる集団が居る中、隅の方で落胆しているルーシュ殿下を見つけた。無視をした方が良いのか、挨拶だけをして良いのかと悩んでいると偶々目が合い、結局はこうして話を聞く事になった。
「オレは仲良くなりたい。この冒険稼業も元々彼女と結ばれたい一心であったのだ、だが、話すキッカケを作ろうにも、どうしても避けられてしまう」
「……はい」
「何故話すとすぐに空へと飛び立つのだ。何故俺の愛は届かないのだ……ああ、だが飛びたつ姿も良い……!」
べた惚れだな、ルーシュ殿下。
まぁ数年探し求めてようやく出会えたのだし、無理もないかもしれないが……ロボの飛び立つ姿のどのあたりに良さを感じているのだろうか。俺も格好良いとは思うけれど、ルーシュ殿下と見ている物が違う気がする。
「ああ、レモンさん、紅茶をもう一杯。クロ領主には珈琲を」
「え、ありがとうございます」
「気にするな。滞在の便宜を図ってくれて貰っている礼だ」
そう言いながらルーシュ殿下は、先程まで落ち込んでいたのにも関わらず見ているこっちも笑顔になるような笑顔となる。
……本当にこの方、アレの兄なのかな。血が繋がっていないと言われた方がしっくり来るぞ。
まぁ逆に珈琲を飲みきるまではここに拘束されたという事でもあるのだけど。
「クロ領主。情けない事を承知で聞くのだが……」
「はい、なんでしょうか」
そして注文の品が届くまでの間、ルーシュ殿下は机に腕を置きながら俺の方を真っ直ぐ見る。
……真剣な眼差しである。俺に答えられる事ならば答えるが、一体なにを聞きたいのだろうか。ロボの趣味とか好きな食べ物とかだろうか。
「オレはロボさんが好きだ。この感情に嘘偽りはない」
「そのようですね。見ているだけでも伝わってきます」
「オレはロボさんと婚約したい。だが会話もままならない。……妃になって欲しいと願っても、ロボさんに俺の言葉は届かない」
第一王子からの求婚。しかも側室への誘いなどではなく、正妻としての求婚。しかも相手は平民? の女性。
傍から聞けば王族と平民の物語のような恋模様だが……そう上手くいかないのも確かなのだろう。
第一に身分差。第二にロボ自身の感情。
ロボは別にルーシュ殿下を嫌っている訳ではないが、好いている訳でも無い。ロボは、ロボとしての自己評価はともかく、ブロンドとしての自己評価は異様なほどに低い。まず釣り合わないと思っている。事実ルーシュ殿下が居ない時に屋敷に来て「アレハナンノ悪戯デスカ」とすら言われた。
聞けばルーシュ殿下の外見などは別に悪いとか思っている訳では無いらしいが、自分とは高貴過ぎて釣り合わないと言われた。
「オレは王族として己を磨いてきたつもりではある。姉のような真面目さは無くとも、アゼリア学園を首席で卒業する程度にはな」
さらには身分だけでなく、ルーシュ殿下のスペックも高い。
グレイやシルバのような少年系が好きならば好みから外れるだろうが、高身長であり、美形。魔法も勉学も優れ、先程言ったように殿下の学年での主席卒業はルーシュ殿下だ。ヴァイオレットさん曰く、豪快な所はあるが努力は惜しまない方との事である。
ようは身分に胡坐をかくことなく、間違いなく王族として相応しい品格を有しているのだ。
……確かにここまで行くと、自分とは釣り合わないと言い出しても無理はない気がするが……
「だからオレは――一度身辺整理をして来ようと思う」
「はい?」
なにを言いだすんだこの方は。
「分かっているんだ。彼女が身分差を気にしている事も。そしてオレが侯爵家や帝国貴族などの縁組を蹴ってまで平民の彼女と婚姻したというならば、醜聞が広がる」
うん、まぁそれは分かる。
「オレは今は自由にさせて貰ってはいるが王族だ。王族としての責務もあり、ありとあらゆる重荷を彼女に背追わせる事になる。その妃となるのは重圧となるだろう」
はい、それも分かります。
「だから王位継承権も身分も援助も全てを捨てて、このオレ自身の在り方を示し、彼女に身を捧げる事で本気を示せるのだと思うのだ」
はい、そこは分かりません。
「落ち着いてくださいルシさん。何故そうなるのですか」
「オレは甘かったのだ。王族としてではなく、ただのルーシュとして彼女と向き合いたいとな」
あれ、これ何処かで見た事があるシーンに似ているぞ。
……そうだ、あの乙女ゲームにおけるヴァーミリオンルートで似た展開があったな。主人公に対して身分を捨てて一緒になりたいとかいうやつ。そして正解の選択肢が「・ええ、そう。王族でない貴方に価値などないよ」で、その後に娼館を勧めるとか言う選択肢のシーン。アレと似ている。
お前ら王族としての立場をなんだと思ってんだ。俺みたいな男爵家とかと訳が違うんだぞ。
「待ってください、重いです。すごく重いです。そんなにされたら結婚してくれと脅されているみたいに思えますよ。断り辛いじゃないですか」
「断られたのならばそれはそれだ。オレの本気を見せた上で断られるのならば、オレに魅力が無いという事だ。愛も身分も失ったとしても、本気の告白の結果と言うならばオレは後悔しない」
「だからそれが重いんですって!」
「重くて結構! 愛は重さと大きさが重要だ!」
「愛を示す前にやることがあるでしょう!?」
「愛を示さないとオレの愛は示せないだろう!」
くそ、会話が成り立っているようで噛み合っていない。
……俺ってやっぱり王族と相性が悪いのかな。
備考
娼館を勧めるとか言う選択肢のシーン
詳細は154話「自然と出た笑み」を参照ください。




