白色の■■(:偽)
View.メアリー
「ぜぇー……ぜぇー……やるな、シルバ。流石は俺がライバルと認めるだけはある……」
「ぜぇー……ひゅー……そっちこそ。学年優勝は伊達じゃないねリオン……いや、ヴァーミリオン……」
巨木魔物をなんとか討伐し、動く元となるコアも回収しました。ヴァーミリオン君とシルバ君はとても疲れた様子で、息も絶え絶えになっています。正直言うならば、巨木魔物だけであれば私達の今の実力だとこんなに疲れませんし、苦戦もしないはずなのですが……
「……張り切るのは良いですが、張り切ったせいでさらに疲れてどうするのです」
『うっ……』
両者共私に良い所を見せようと大技を使って派手に戦闘をし、結果として周囲のモンスターを呼び寄せて同時戦闘が多くなり、大分心身ともに疲れる結果になりました。しなくてよい苦労を大分した気がします。
「はい、お水です。それと先程お渡しした回復薬は飲むんですよ。塗った傷薬と一緒に飲むから効果があるんですから、苦いからって飲まないのはダメですからね」
「……はーい」
「……分かってる」
「じゃあ、私は解体とかしていますから、休んでいてくださいね」
「いや、解体ならば俺が――」
「ヴァーミリオン君達は、何故このような疲れる結果になったのか、私が解体作業をしている間に反省してください。良いですね?」
「……はい」
「分かってくれたのならば良いのです。……ですが、私の為に頑張ってくださるのは嬉しいのですからね」
渋々といった様子でヴァーミリオン君達は私の言う事に大人しく従ってくれました。……こうして見ると、ヴァーミリオン君も年相応の子供のように見えますね。生きた年数的にも、大きな弟……に近いのかもしれません。
と、それよりも早く素材を剥ぎ取りましょう。
「~~♪」
巨木魔物の素材は結構貴重です。錬金魔法の素材としても必要ですし、そして学園の植物の一部に元気が無いのも確かなので、栄養素となる部分を剥ぎ取らなくてはなりません。
昔はこういった剥ぎ取る、解体作業は苦手だったのですが、錬金魔法の素材集めのお陰で大分慣れてきました。人型に近いとまだ抵抗はあるのですが……と、解体もこの位で十分ですかね。
「……ねぇ、聞いても良いかな」
「どうした」
「僕達が先陣を切ったとはいえ、メアリーさんは息切れ一つ起こさず鼻歌交じりに解体作業を出来るって、もしかしてメアリーさんの方が錬金魔法云々関係無しに――」
「……言うな。ただ、俺達が修行不足という事なだけだ」
「……だね」
◆
「そういえば、目的の子にはまだ会えませんね」
討伐も完了しましたが、まだ時間に余裕もあったので他にモンスターが繁殖していないかなど調査を兼ねた周囲の探索をしていると、ふとここに来た理由を思い出し、尋ねます。
「目的……メアリーを抱き上げる事か」
「違います。気になる相手というやつです」
「……そうだったな」
……本当に忘れていたわけじゃないですよね。ヴァーミリオン君なりの冗談ですよね?
「結局目的の子って誰なの? 女子ならば祝福するよ!」
「その無邪気な笑顔をやめろ。……女子ではあるが、恋愛的な感情ではない。恋愛的な感情は、ない」
何故二回言ったのでしょうか。重要な事なのでしょうか。
ああ、やめてくださいヴァーミリオン君。そんな「勘違いしないで欲しい」みたいな心配そうな表情でこちらを見ないでください。普段とのギャップで可愛らしく見えます。
「女子が気になる、ね……珍しい、というか、変わったねヴァーミリオン。入学当初だったら誰に対しても最低限しか会話をしないような、孤高って感じの奴だったのに」
「俺から言わせればお前もだが……」
「それで、その女子のなにが気になって、誰なのかは教えて貰うことは出来る? 無理なら良いけれど」
「……そうだな。元よりメアリーには初めから気付かれていたし、言っても構わないな」
周囲にモンスターや誰かを居ない事を確認すると、ヴァーミリオン君は立ち止まります。それに合わせ私達も立ち止まり、言葉を待ちます。
私としてもヴァーミリオン君の気になる相手、というのが気になります。異性として好きな相手ではないようですが、どういう意味で気になるのかを知りたくもあり、何故そう思ったのかを知れば私の“認識”も改まると思い――
「気になる相手というのは、クリームヒルトだ」
そしてその言葉に、私は一瞬心臓を掴まれたかのような感覚を覚えました。
「クリームヒルト? って、同名とかじゃなくって、アイツの事?」
「そうだ」
「なんで急に気になったのさ。キッカケでも?」
「む……そう言われると俺も言葉に悩むのだが、一言で言うと――どうかした、メアリー?」
私が不意に言われた言葉に黙って居ると、不思議そうな表情でヴァーミリオン君がこちらを覗いてきました。
「なんでもないですよ? 続きをお聞かせください」
「……そうか」
……駄目ですね。認識を改めようとすると、こんなにもボロが出るとは。
これではまたシキに行く時に、クロさんに「やって来た事に対して責任を持て」と怒られそうな気がします。
――それに、近い内にシキに行く事になりますからね。
私の願いを達成するためにも、シキにはまた近い内に訪れる事になります。
それまでにはきちんと認識を改めた上で、以前のように振舞えるようにならなくてはなりません。そうすれば、私だって……
「ともかく、俺が気になった理由は……夢だ」
「夢? ……王になってメアリーさんを王妃にするっていう幻想の事?」
「違う。それは幻想ではなく確定事項だ」
「戯言だね」
私が王妃……大丈夫ですかね。亡国になる気がします。
「奇妙な夢でな。その夢を見ると、何故かメアリーと……クリームヒルトが過った。そして今朝方クリームヒルトを見て夢の事を思い出した」
「なんだよそれ。夢で気になられてちゃ……ああ、だから黙って居たんだ」
「そうなる。突拍子もないからな」
しかし夢、ですか。
私の事も過ったみたいですが、どのような夢だったのでしょう。そして気になった、という事は夢の内容が懐疑を産むのに十分な内容だった、という事になります。
……王族特有の予知夢でもあったのでしょうか。そんな設定は無かったと思いますが……いえ、まさかカサスでは無いからこそある設定なのではないでしょうか……! ……一度深呼吸した方が良いかもしれませんね。落ち着きましょう。
「でもどんな夢だったの? クリームヒルトの奴が笑いながら爆弾を巻き付けて突撃してきたとか?」
「やめろ。学園祭の闘技場を思い出す」
「え、そうなの?」
「ああ、身体に爆弾を巻きつけ、殴れるものなら殴って見せよ! というような感じでな。観客などは気付かぬ形で巻いていたのが質が悪かった……結局は偽物だったが」
「なにやってんだよクリームヒルト……」
すーはーすーはー……ふぅ、森の中は空気が美味しいですねー。五臓六腑にしみわたります。
「ともかく、俺が見た夢ではだなシロという名の少女が……ん?」
「なんの音だろう? いや、声かな?」
ふと、私が深呼吸をしていると、なにやら両者が物音に反応して、先が木々で見えない方へと視線に向けた事に気付きます。
私も倣って耳を澄ませると、確かに妙な音が聞こえてきました。
なにかを割く音と……女の子の笑い声でしょうか?
「警戒して進むぞ。犯罪者が潜伏しているかもしれない」
ヴァーミリオン君は小さな声で私達にそう言いながら【空間保持】と【気配遮断】を私達に掛けます。
そして一定以上離れないように気を付けながら、木々と茂みの間を抜けていきます。
ゆっくりと進むと、少しずつ。ですが確実に音と声が大きくなって聞こえてきます。
――肉を割く音?
同時になんの音かが分かって来て、それが先程の私が巨木魔物と一緒に解体していたモンスターの肉を割く音と似た音である事に気付きます。
同時に聞こえてくる声も、何処かで聞いた事のある声である事に気付きます。
この声はもしかして……もしやこの先に居るのは彼女かもしれません。
ヴァーミリオン君やシルバ君も気付いたようですが、念のため姿が見えるまで魔法は解かないまま進みます。
そして音が近付いてきて、恐らく彼女が居るだろう少し開けた場所に出ようとした時。
「~~♪」
そして茂みの中から隠れながら、鼻歌を歌っている彼女を見て、私は思ったのです。
――ああ、彼女は私の知る彼女とは、根本が違うのですね。
違和感を覚えていたのは間違えでは無かったと。彼女は私が知っている外見と、私の知っているような過去を少しは持っていたようですけれど。あの子はそういった存在とは違うのだと。
『ゲームのキャラだからと、役割を決めつける貴女が嫌いです』
かつて言われた、クロさんの言葉をふと思い出します。
私は今、この世界の認識を変えている最中です。
役割ではない彼らを見ている最中です。ですが、此処には居ないクロさんに、答えが返らない問いを私は心の中で思い浮かべます。
「あはははは! これで被害を出しているモンスターの排除依頼、完了だよ。素材も手に入ったし、良い日だねー」
彼女の二倍以上ある大きさの狼型モンスターであるフェンリルを、返り血を浴びながら、まるで何気ない休憩時間に紅茶を飲んでいるかのような笑顔で解体している――クリームヒルトを見ながら、私は思うのです。
――彼女は私の友達……で良いんですよね、クロさん。
シキに居るだろう同じ転生者の者としてのクロさんに、心の中で問いかけたのでした。
次回からシキに戻ります。




