銀色の歓喜(:偽)
View.メアリー
そこに居たのは、銀髪赤眼のシルバ君。
建物の陰でこちらを観察するようにぶつぶつとなにか私が聞いてはいけないような事を呟いていました。
なんでしょうか。一歩間違えると「貴女を殺して僕も死ぬ!」と言われ私が刺殺されるような雰囲気を今のシルバ君から感じます。
……カサスではシルバ君の魔力事故で主人公が大怪我を負う事は有っても、殺されることは無いから大丈夫ですよね? この世界はカサスとは違うと言っても、そこだけは原作通りであって欲しいと何故か願わずには要られませんでした。
「あれ、シルバくんじゃないか。シルバくんも生徒会の仕事かい?」
私が固まっていると、エクル先輩が視線を私の方向に移し、シルバ君の存在に気付き声をかけました。
気付かれた事に気付いたシルバ君は、建物の影から出てきて私達の方へと向かってきます。
「……こんにちは、メアリーさん、エクル先輩。僕は今日食堂の仕事で来たんだよ」
「こんにちは。ああ、シルバくんは食堂でも働いていたね」
私達の所へといつものような小動物じみた態度で駆け寄って来たシルバ君は、先程の黒い雰囲気はありませんでした。
ヤンデレじみた感覚をシルバくんから感じたのは私の勘違い……だったのでしょうか。
「それでメアリーさん達は……なにをしていたの?」
アッシュ君やシャル君とは違う方面の、隠しているつもりの感情をチラチラと見せながら、少し不安そうに私達になにをしていたか聞いてきました。行動がとても可愛らしいです。
……弟ってこんな感じなんでしょうかね。今世では兄弟はいませんし、前世いた弟は一度も会っていませんからね……
「ん、ちょっと会っただけだよ」
「ちょっと、ね……」
「そう、会っただけさ。……あ、そうだ。シルバくん、食堂の仕事はもう終わって予定は空いているかな?」
「え? うん、今日の仕事は終わって時間はあるけれど……」
エクル先輩はシルバ君に予定の有無を聞き、無いという答えを聞くと「そうかい」と微笑み、私の方に視線を移しながら言葉を続けます。
「なら、メアリーくんの悩みを聞いてあげてくれないかな。彼女、悩んでいるみたいだからさ」
「エクル先輩?」
先程まで私をデート? に誘っていたにも関わらず、エクル先輩はシルバ君に私の悩みを聞くように促してきました。
シルバ君の先程の雰囲気感じ取っての事……なのでしょうか。
「なんならデートでもしてくると良い」
「デート!?」
「そう、メアリーくんとキミがね」
エクル先輩はまるで私達の間柄を応援するかのように、軽やかに笑いながら私達のデートを勧めてきました。
「いや、でも! さっきは先輩がメアリーさんを……! それに悩みなら先輩でも良いんじゃ……!?」
「いやぁ、実は掛けている眼鏡の調子が悪いんだ。私はスペアの二十本を含めてすぐに直しに行かないと明日からの授業に差し支えが出るんだ。すまないが、後は任せたよ!」
「二十本って……あ、エクル先輩!?」
そしてエクル先輩は眼鏡をキラッ! と輝かせて私達を残し去っていきました。
……このような事を思うのはおかしいかもしれませんが、エクル先輩は私の事を異性として好きなのかは不確かな気がします。
私がカサスの知識を得て、いわゆるイベントを熟していき、ヴァーミリオン君達のように愛の告白をしたりして来て、好意を隠そうとはしないのですが……どこか、まだ妹のように見られている気がします。
「えっと……メアリーさん、悩みってなにかな。あ、デートで街へ繰り出すのならば一旦かえって着替えた方が良いのかな! 大丈夫、ちゃんとエスコートするから! まずは食べて歩いて沈む夕日にゴーだよね!」
「落ち着いてください、シルバ君」
「そ、そうだね。深呼吸してまずは平静を……ひっひっ、フゥーハハハ!」
「途中から落ち着くとか関係なくなっていますよ」
取り残された空気に耐えきれなくなったのか、恐らく自分でもなにを言っているのか分からない言葉を口に出し始めたので肩に手を置いて落ち着かせるように言います。すると何故かラマーズ法の後にアプリコットのような笑い方をし始めましたが、とりあえず落ち着きはしました。
「……ごめん。取り乱したよ。えっと、悩みだっけ?」
「はい、そうなのですが……」
私は悩み……クリームヒルトに関しての話題をあげようかと悩みます。
エクル先輩の時のように、この悩みを誰かと解決するのは憚れるので、話しもせずに断ろうかと思いはします。
「メアリーさんの悩みなら聞いて一生懸命に協力して解決するから! 大丈夫、前は僕の事を救ってくれたんだから、今度は僕の番だから!」
ですけれど、頼って欲しそうに胸を張るシルバ君を見て、微笑ましく思い、
「ふふ、そうですね。では一緒に首都と……近くの森にでも行きながらお話を聞いて貰っても良いですか?」
「う、うん勿論! 僕がエスコートするからね!」
シルバ君と一緒に話すのならば、この不安も紛れるのではないかと思い一緒に首都へと繰り出す事を決めました。
喜ぶシルバ君は本当に微笑ましいです。カサスでも明るくなってからは癒し系枠でしたからね……本当に癒されます。……その代わり暴走とかで怪我を負うイベントは多かったですけどね。
――それに今日私に出来る事は、元々あまり有りませんでしたからね。
そう思いつつ、荷物を置いて財布などを取りに一旦別れて校門前で集合しようと話し合った矢先に。
「――メアリー、シルバ。丁度良い所に居た」
「ヴァーミリオン君?」
ヴァーミリオン君が、いつもと違う表情で私達の前に現れました。
偶にある私がアッシュ君などと話している時に割り込んでくる時とは違う、なんだか別の事が気になっているような表情です。
「げ、ヴァーミリオン……折角の良い所だったのにまた……」
「シルバ君、駄目ですよそんな態度は」
「うっ……それで、なにか用?」
「すまない。お前達はこの後時間があるだろうか?」
「生徒会の仕事? 僕も役員である以上は手伝うけど……生徒会長候補は大変だね」
「いや、それとは少し……違くもないか。無理ならば大丈夫なのだが……」
「どうかしたのでしょう、なにかトラブルでも?」
珍しく歯切れの悪い物言いです。このようなヴァーミリオン君は珍しいので私は少し心配になり、尋ねるとヴァーミリオン君は言い辛そうに言葉を続けました。
「少し……俺の冒険者稼業に付き合って貰えないだろうか?」
「はい?」
「え?」
備考1
メアリーの前世の弟
メアリー(彩瀬白)が前世の十一歳の頃に産まれた一度も会っていない弟。
年齢が離れているのは、両親がメアリーに見切りを付けたからだとか。
備考2
現在のメアリーから攻略対象への好感度トップ(自覚アリ部分)
シルバ
※ただし弟扱い




