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残念ながら……


 金色の美しい髪をした女性。

 ただそれだけの情報を元に、俺とヴァイオレットさんはシキを案内がてらルーシュ殿下にこっそり女性を紹介していた。

 身分を明かすと色々面倒になるという事で、あくまでも身分を隠して冒険者として知りたいとの事だ。初めは案内も不要ではあると言っていたのだが、予め情報をこちらで教えてあげないとルーシュ殿下にシキという地がどのような事をするか分からないので、少し強引に案内を申し出た。


「ルシさん。こちらが先程の特徴に当てはまる女性が住まう場所です。キノコ栽培をしております」

「ほう、キノコ栽培。キノコというならば、森で会ったのもキノコを探す旅という事も有りえるか。彼女は在宅だろうか」

「あ、丁度あそこに見えますね。あちらの――」

「うわっキノコとカビが融合して自立走行を!? ついに私は生命体としてのキノコを開発してしまったのでしょうか! さっすがエルフですね!」

「――あそこで肩にキノコを生やし、風によってキノコが動いている事に気付かずにいるエルフを誇りに持っているようなそうでないような女性が栽培者です。彼女でしょうか?」

「……いや、違うな」


 まぁカナリアはルーシュ殿下が学園生時代に帝国に行く余裕など無かったと思うし、違うとは思ってはいたけれど。それとルシさんとはルーシュ殿下の偽名だそうだ。こう言ってはなんだがもう少し違った偽名にした方が良いと思うのだが。


「お、なにあれなにあれ! あの教会のシスター、素手で外壁登って屋根の雪下ろししてない!? あれは私への挑戦状と見た!」

「ス……レットさん! おや――止めてくださいあのシスターの真似をしないでください!」

「――はっ! ヴァイオレット、もしかしてあのシスター、モテる?」

「え? あ、はい。彼女はモテる部類には入るかと思われますが……」

「シスターは下着無し……そしてあのスリット……成程、ああして高い所に上る事でチラリズムを追求し、世の男を興奮させているのね!」

「あれはそういった類を気にしていないので違うと思いますが……それと、チラリズムってなんですか?」

「えっ、知らないの……? 私が学園生時代に流行っていたはずなんだけど……?」


 あっちのレットという偽名も偽名ではあるが。

 設定的には貴族がお忍びで来ている体らしいが、気付く者は直ぐに気づくので、あまり意味も無い気もする。

 ちなみにスカーレット殿下は今までシキに来た事は有るが、あまりゆっくりと観光したことは無いのでこれを機会に一緒に見に来ている。そしてヴァイオレットさんがそのお目付け役の様な形になっている。


「そもそもあのシスターは何故壁を登れているのだ? 魔法の気配は無いが……」

「純粋な身体能力ですよ。ルシさん」

「……壁に掴むような場所がない所も行っている気がするが」

「純粋な握力で壁の僅かなとっかかりを掴んでいるんですよ。危ないので止めて欲しいのですが」

「……そうか」

「ちなみに彼女の可能性は?」

「……ないな」


 ルーシュ殿下はシアンを見て疑問を抱き、俺が答えると少し間を置いて納得した。

 見ていると太腿の露出が少し大きくなった辺りで少し頬を赤くし目を逸らしていた。……もしかしたら初心の類なのだろうか。……いや、この反応が普通か、うん。


「次に紹介いたしますのは、希望によりこちらに泊まるとの事になる、ギルドと宿屋、酒場を兼ねております【レインボー】になります。こちらの夫婦の奥様が金色の髪をしていますが……恐らく彼女では無いかと」

「既婚か……だが何故彼女ではないんだ?」

「ええと、彼女なのですが……」


 俺が宿屋を紹介するついでに、奥さんであるレモンさんを紹介しようとし、どう説明すべきか悩む。

 というか、シキの大抵の住んでいる領民に言えることでもあるが、彼女の特異性は見た方が早いんだよな。

 と思っていると……


「む、喧嘩か?」


 宿屋の中から怒号と少し物が壊れるような音が聞こえて来た。

 その音を聞いてルーシュ殿下の表情が少し警戒の色を示し、スカーレット殿下は面白い事が起きるのか、みたいな表情へと変わる。とは言えスカーレット殿下も止めるためなのか警戒態勢にはなっているが。


「仲裁に入った方が良いだろうか。怪我をする者が居ても困る」

「大丈夫ですよ。先程言った奥さんが静かにさせるでしょうから」

「む、やはりこういった荒事には慣れているのか?」


 しかし、レインボーで暴れるとは相当に酔ったか外から冒険者でも来ているのだろうか。

 そうでなければ……


「ええ、慣れていると思いますよ。元裏稼業の方ですから」

「は?」


 そうでなければ、彼女の前でモノを壊すほどの喧嘩なんて、するはずないのだから。


「お客様方。私の居る前で喧嘩とは良い度胸です。いかなる事情があれど、喧嘩両成敗」

「ちょ、なにこれ!? なんか絡まって恥ずかしい縛られ方されてる!?」

「くっ、しまった! レモンさんが居たんだった! 冒険者の若造の喧嘩を買うんじゃなかった!」

「まずは我が絡繰奥義による刑を執行します。――ご両者共、お覚悟を」


 レモンさんの手がパカッと取れ、中から出て来た縄が喧嘩していただろう者達を縛り上げていた。そしてどうやって仕舞っていたのかと疑問に思うような拷問器具(見た目だけ)を両足から取り出し、自身の手足のように扱っていた。


「――とまぁ、喧嘩した者の末路はあのように。なのでレモンさんの前では喧嘩をしない方がよろしいかと。彼女の絡繰仕掛けの忍法により成敗されますから」

「……領主」

「はい、なんでしょう」

「オレの目には、彼女の腕が縦に割れて、中から奇妙な仕掛けと共に大の男を宙吊りにしているように見えるのだが」

「はい、彼女の両手両足は義肢になっております。なんでも東の国にある忍者という隠密部隊におられて、絡繰という特殊な製法であのような技が出来るとか」

「……そうか」

「いざという時は両足の限界を超える事で、ここから先程の医者の家まで数秒で着くような超高速スピードを出せるそうなので……もしルシさんと会った時に逃げたとしたら、そんなスピードで逃げると思います」

「……そうか」

「一応聞きますが、彼女が愛しの相手でしょうか」

「違う」


 でしょうね。

 あんなロボとは違うけど高性能(ハイスペック)な絡繰の女性相手だったら嫌でも覚えるだろう。レモンさんは二十年以上義手義足らしいし。


「……領主、一つ訪ねたいが、ワザと奇天――変わった女性から紹介している訳ではあるまいな」

「ははは、なにを仰りますか」

「そうだな。そんな事をするはずが無いか。偶々変わった女性からというだけだな」

「いえ、彼女らはマトモな部類なので。現段階で変わった、というとこれから少し大変ですよ」

「ははは……冗談が上手いな、領主」

「…………」

「……冗談ではない、と?」

「残念ながら」

「…………」


レモン

(レモン)色髪黒目

夫婦で営んでいる宿屋、酒場、ギルドを兼ねるレインボーの元裏稼業の奥様。

両手両足絡繰仕掛け。

魔法を使わないのに高性能な絡繰だが、どういう仕組みかを聞いても「忍術です」としか答えない。

ロボとは仲が良い。乙女趣味。

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― 新着の感想 ―
[一言] シキに住んでて(フラグ1)金髪美女で(フラグ2)水浴び後だろうとはいえ、見られて逃げた(フラグ3) …あっハイ(察し) 殿下ぁ…これが、これこそがまっとうな反応だなw 一つ言えることがある…
[一言] 金の髪か・・・嫌な予感がするのう・・・(フラグ
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