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始まりは取得報告


「クロ様、人間の男女を得ることが出来ました」

「犬猫みたいに言うんじゃない」


 日も高く昇った昼下がり。我が家にてグレイから取得の報告をされた。


 いくらシキが常識が通用し辛い場所とは言え、訳も分からないし、得る事が出来たってなんだ。

 俺は手元に持っていた何処かの馬鹿が俺を忙しくさせるためだけに送って来る資料を置き、グレイの方へと改めて向き直る。


「得ることが出来たって……なんだ、奴隷商でも来たのか?」

「いえ、違います。浮いているのを、救助したので得る事が出来ました」

「……えっと、川か湖に男女が浮いていて、グレイが助けたという事か?」

「はい、場所は温泉ですが」


 聞いた所によると、グレイがアプリコットとエメラルドとブラウンで、汗を流したので温泉に行くと、見た事の無い男性が男湯でのぼせたのかぐったりしている状態で見つけたらしい。慌てて救助していると、なんでも女湯の方にも見た事の無い女性が同じようにのぼせていたらしい。そこでグレイがアイボリーを呼びに行き、治療をして貰って今は男女ともにアイボリーの家のベッド(患者用)で寝ているとの事。

 ならば初めからそう言って欲しい。


「アイボリー様がこのように伝えろと言われまして」


 おのれ変態医者。俺が困惑する事を見越してグレイに伝えやがったな。


「そこでクロ様を呼んできて欲しいとも言われまして」

「俺を?」


 俺の疑問に対し、グレイはいつものような仕事モードの表情で頷いた。

 確かに謎の男女が領地にて倒れていた、というのは問題といえば問題ではある。もし不法入国などであれば対処しなければならないし、のぼせたのではなく怪我で倒れていて後遺症でもあれば領主()が対応するのはおかしくは無いが……


「まぁ、了解。準備したらすぐ行く。鍵とか閉めとかないとな」

「ヴァイオレット様は出ているのでしょうか?」

「ああ、教会に届け物を」


 俺はペンを置き、書類を帰って来た時に何処までやったかが分かるように揃えて立ち上がる。

 ヴァイオレットさんが帰って来てから心配しないように何処に行くのかと用事のメモを書き、分かりやすい所に置いておいた。


「ところで、その男女の特徴とか状態を教えてくれるか?」


 準備をしながら、軽く前情報だけを入れておこうと外用の服を手にしながらグレイに尋ねる。グレイは「はい」と頷き、思い出す様な仕草を取りながら俺の質問に答えた。


「女性の方は私めが居た時はどのような方かは見ておりません。ただ、背が高い人族の女性である事と、特に健康状態などに問題はないという事だけは聞いております」


 温泉で倒れていたなら服を着ていなかったりするし、見ないようにするから仕様が無いか。グレイは気にしないだろうけど、その辺りはアプリコットかエメラルド辺りが気を使ったのかもしれない。


「男性は背が高くて、大柄な……獅子のような方でした」

「獅子?」

「はい。偉丈夫、というのでしょうか。話していないので分かりかねますが、威風堂々とした雰囲気がある赤い髪がお似合いの方です」

「赤い髪、ねぇ」


 赤い髪の男。というと、どうしても大嫌いな男を思い出してしまう。しかし別に髪の色に罪は無い。そこで勝手に判断して敵意を示していては失礼であるので、あの男の事は忘れよう。

 よし、ヴァイオレットさんの髪を思い出してあの男の髪についての思いを鎮めるんだ。菫色の綺麗なあの髪をまた学園祭の時のようにセットしたいものだ。

 ともかく体格が良い男性か。ならば冒険者かもしれないな。いや、女性と一緒……というならば、何処かのご令嬢が警護の者を付けて来た、という可能性もあるか。一応は対貴族のように接しておくとするか。


「……あの、クロ様。お一つお聞きしたいのですが」

「どうした?」


 どう対応するかを決めつつ、執務室を出て、念のため近くに閉め忘れが無いかを確認しながら玄関に向かっていると、グレイが少し心配そうな声で俺に問いかけて来た。

 なんだろう、いつものグレイらしくないな。今日は出る前に「アプリコット様達と修行をしてきます!」と言って、雪合戦や雪だるまを作りに出かけてウキウキだったはずなのに。

 もしかして遊び(しゅぎょう)が今回の男女に邪魔をされてしまったので、少し不満に思ってしまったのだろうかと思っていると。


「私めは……アプリコット様に嫌われたのでしょうか?」

「……え?」


 グレイから発せられた言葉は、思ったものと全く違う方向の質問だった。

 質問の意味を少し考え、アプリコットの事を思い、グレイの事を思い。そしてすぐに出た結論は、


「いや、ないだろう」


 というものだ。

 アプリコットがグレイを嫌う理由が思い当たらない。理不尽に殴ったとか罵倒した、とかなら仲の良い間柄も直ぐに崩壊するだろうが、グレイがそんな事をするとは思えない。


「ですが、今日の修行でも、余所余所しいといいますか。距離を置かれているといいますか……ここ最近のアプリコット様に、私めは避けられている気がしまして」

「あー……」


 その言葉を聞いて、グレイが嫌われているなどと言った理由が分かった。

 アプリコットはどうもここ最近というか、メアリーさん達が来てからグレイに対して好意を抱いているのだ。アプリコットは周囲にバレていないとは思っているようであるが、それはもう傍から見ても分かるほどに。気付かないのはブラウンのような子供と当事者(グレイ)のみ。

 挙句にはイエローさんには「孫の顔が楽しみだな」なんて揶揄われたりもした。その後に「……追い越されるのか」などと哀れみの視線を向けやがったのでアイアンクローを喰らわせはしたが。その後さらに「マイエンジェルの子供(ショタ)とはどういう意味だ!?」などと何処からかやって来て俺に詰め寄って来たショタ好き鍛冶師には逆の手でアイアンクローを喰らわせた。


「まぁ、嫌われている訳では無いから安心しろ。少し自分の気持ちを整理できていないだけだから」

「……そうなのですか?」

「ああ」


 グレイの頭に手を置き、安心するように撫でながら言葉を掛ける。

 こればかりはアプリコットの想いを俺から言う訳にもいかないので、俺が出来る事はこうして安心させるような言葉を言う事くらいだろう。相談に乗って欲しいのならば乗るし、協力する場合は協力する。もしすれ違いそうであったらなにか言うかもしれないが。


「――ハッ! こんな時こそバーント様とアンバー様から教わった音と香りで相手の心情を把握する技術が活かされる時! 私めではまだまだですが、アプリコット様の胸に飛び込みましょう! 試す価値はあります!」

「やめてやれ」


 相変わらずなグレイに苦笑いして注意をしながら、俺はアイボリーの家に向かうのであった。


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