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銀が慣れてしまうまで_5(:灰)


View.グレイ



「……で、俺の所に推薦を受ける話をしに来た、と。そういうことなんだな、グレイ」

「はい」


 思い立ったが吉日。という言葉があるように、決めたからには行動しようとクリームヒルトちゃん達に断りを入れてからクロ様が居る我が屋敷に戻った。

 クロ様はゲン様達をカナリア様の所に案内した後に、シキを去るのを見送り、領主の仕事をしていた。そのため邪魔をしてはいけないかもしれないとも思ったが、以前この学園への推薦の話は私がどうしたいかという意志を聞かれていた事と、一刻も早く決めてしまいたいという気持ちがあったので失礼ではあるが帰ってすぐに話を報告した。ヴァイオレット様は今夕食の準備をしているそうであり、ここにはおられない。


「ぜー……はー……急にどうしたのだ、弟子よ……いきなり走って……それに学園に入学するとはどういう事だ……?」


 そして私を追って来たアプリコット様が、息を切らせながら私の行動に対して問いを投げかけて来た。

 私はまだ受けるかどうか確定していなかったため話していなかったアゼリア学園飛び級推薦入学の話を説明する。


「そのような話があったのか。ふ、我が弟子の素養を見抜くなど、学園長は随分と見所があるようだ」

「なんでお前が偉そうなんだ」


 話している内に息を整え、初めは事実なのかと疑ったアプリコット様であるが、偽装防止の判などが推された推薦状をクロ様が見せると、事実であると納得したようだ。

 クロ様はアプリコット様が誇らしげにしているのに疑問を抱いていたが、私は誇られた事が嬉しかったので笑みが零れかけた――が、今笑みを浮かべるのは何故か嫌であったので、表情を出すのを無理に止めた。


「だが、何故急に受けるなんて言い出したんだ? あんなに迷っていたのに」

「それは……」


 クロ様に聞かれ、私はどう言えば良いか分からなくて言い淀む。いや、どう言えば良いか分からないかではなく、私自身も何故急に宣言したのかよく分かってはいない。

 ただ「今言わなくてはならない」「置いて行かれたくない」という感情があったのは確かである。つまり私は……


「学園に通う皆様方とアプリコット様が楽しそうに話しているのを拝見しまして、アプリコット様も学園に行くという話を思い出したのです。私めも行くことが出来る機があるのならば、師匠であるアプリコット様と共に学ぶことが一番良いのではないかと思いまして」

「良い心掛けだ。良い弟子を持ったと思えるが、それだけで決めて良い事でも無いぞ?」

「いえ、良い機会ですので。それに今通えばクリームヒルトちゃんの後輩にもなれますし、少しでも知己が居れば、学園でも過ごしやすいと思うのです」

「ふむ、確かにそうであるな」

「…………」


 そう、私はアプリコット様と共に学問を学びたかったのだ。それに今通えば一学年上にクリームヒルトちゃんも居る。ヴァイオレット様を追い出した方々も居られるが、そこは今言ったように知己が傍に居るという事の方が重要だ。むしろ私が模範となり強くあれば、クロ様とヴァイオレット様の悪評も払拭できるかもしれない。

 その事を言うとアプリコット様は納得はしてくれたが、何故かクロ様は私の発言を聞いて黙ってはいた。


「しかし、推薦か。確かに弟子は首都にて上手くやっていけるかや飛び級だと色眼鏡で見られる心配もあるであろうが……」


 アプリコット様は推薦状を一通り読んだ後、クロ様に返して私の方を見て心配そうな表情になる。

 心配している内容は尤もであり、私自身が学園に通う上では避けられない事でもある。


「いや、一番の心配は学園長がブライさんと同じ性癖をしているのかという疑いがある事だ」

「事実であるならば絶対に弟子を入れるでないぞ」

「分かってる」


 何故だろう。ブライ様の私を見る目はクロ様達とは違う優しい視線であると思うのだが。


「……まぁ、それはともかく一番は自身の元を離れる心配があるのではないか? 子離れできない、というヤツだ」

「否定はしない。それに俺やヴァイオレットさんの息子だって知られたら変な扱いも受けそうだし、あとドラゴンの復活とか……」

「ドラゴンの復活? クロさんがそういう方面を心配しているのか?」

「……いや、なんでもない。それはともかく、どっかの王族のアレも俺の息子と知ればなにかしそうだし……」

「そうであるな……メアリーさんに頼めば多少の庇護の対象で手は出せぬやもしれぬが。……いや、そこで我の出番であるな! 師匠として弟子を守るのは当然であるから安心してよいぞ! 我の力をもってすれば容易い事!」

「だが性別の違いもあるし、常日頃一緒に居る訳にもいかないだろ? 付きっきりという訳にもいかないし、それにそんなんじゃ学園に通う意味もなくなるからな。成長させるという意味では自立も大切だ。けれど、もし一緒に通う事になったらよろしくは頼むぞ、アプリコット」

「………………ふむ」

「アプリコット様?」


 色々と話されているアプリコット様が、クロ様のなにかに反応して杖を顎に当てて考える仕草を取る。その行動に疑問を持ち名前を呼ぶと、私の呼びかけに気付いたアプリコット様がこちらを見て、いつもとは違う視線を向けた。


「……いや、なんでもないぞ」


 そのように仰るアプリコット様は、私の方を向きながら何処か違う所を見ているように思えた。

 ……いつも私を見る目と、なにかが違う気がした。


「まぁ、色々と心配はあるが。グレイが自分で決めた事なら俺は応援するよ」


 アプリコット様の視線に疑問を持っていると、クロ様が作業をしていた机から立ち上がり私の方へと近寄って来る。


「良いのですか?」

「グレイがどうしたいかを決めて欲しい、と言ったろ? ……学園長の件は早急に解決しないとな……」


 クロ様は何処か不安そうな表情ではあったが、私の行動に対して嬉しいと仰ってくれた。

 だけど不安、というのは私に対する不安も有れど、別になにかを気にしているようにも見えた。先程仰った“ドラゴン”が関係しているような……?

 あと、なにやら学園長が関係しているような。


「不安はあっても、グレイ自身が決めてくれた事の方が嬉しいからな」


 いつもとは違う優しい声色で私にさらに一歩近づき、


「色んなものを見て、経験するんだぞ。いつか必ずお前の為になるからな」


 クロ様――父上は優しく微笑み、私の頭を撫でてくれた。

 父上の手は温かく、何処か大きいものであった。今の私には無い、ただ年齢を重ねただけでは手に入らないだろうと思う大きさなのだと感じていた。


「……はい、ありがとうございます、父上」


 私と血の繋がりは無くとも、他の家族とは違い数年しか共に過ごしていなかったとしても、私の大好きな父上だ。

 クロ様という父上を持てた事を、誇りに思おう。

 そして私自身がハッキリとした理由は分からずに言い出した事ではあるけれども、言ったからには父上に誇れるような結果になる様に努力をしようと思う。

 クロ様の息子である、グレイ・ハートフィールドとして。


「…………そうであるな。当たり前の事であるが、何故分からなかったのだろうな」


 私が決意をすると、アプリコット様が小さな声でなにやら呟きながら私達の方を見ていた。

 疑問に思ったので、声をかけようとした所で……部屋の扉がノックされた。


「はい、開いてますから入って良いですよー」

「失礼する。クロ殿、今――む、グレイとアプリコットも居たか。おかえり」


 クロ様が入って良いと言うと、エプロンを付けたヴァイオレット様が部屋へと入って来られた。私達を見て出迎えの言葉をかけてくださったので、私は一礼をして「只今帰りました」と言う。アプリコット様はなにも仰らずに礼だけをし、その事にヴァイオレット様は疑問を持たれたが用を思い出したのか、クロ様へと向き直る。


「実は今、クリームヒルト達が戻って来たのだが」

「はい。早めの夕食にでもする予定なのでしょうか?」

「いや、セイフライドが気絶をしたので寝る所を貸して欲しいそうだ。既に客間のソファーには通してある」

「なにがあったんです」


 シルバ様が気絶したとは、あの後なにがあったのだろうか。

 私と去る時も情緒不安定な所はあったが、気絶となるとなにか事件だろうか? だがそれだと寝る所を貸して欲しい、というのは少し変な気がする。

 私とクロ様が疑問に思っていると、ヴァイオレット様が少し言い辛そうに疑問に答えてくれた。


「……屋敷に戻ろうとした所に、ロボが空から降り立って、状況を把握できずに倒れたらしい」

「……成程、回復まで待ってあげましょうか」

「……そうだな。今日の夕食までに回復すれば良いのだが」


 何故ロボ様が降り立っただけで気絶したのだろう?

 だけどクロ様達は何故か納得していた。


シルバの状態:今までの常識を思い出そうとして気絶

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― 新着の感想 ―
[一言] >父上の手は温かく、何処か大きいものであった。今の私には無い、忠利を 忠利をっていうのはなにかの誤字ですか?
[良い点] なんだ、この荒川河川敷に居そうな個性的な奴ら… [一言] \(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!
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