萌黄による質疑応答書_1
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さて、この度は私の質問に答えて頂ける場を作って頂きありがとうございます。
今回は王国直属魔道研究兼実働部門総括大魔導士が質問・記録を務めさせていただきます。よろしくお願いします。
「あの、なんですかその質問記事みたいな口調は。普通に質問では駄目なんでしょうか」
はは、なにを仰いますか。私は至って真面目ですよ。
今回の事故に関しては闇魔力の暴発という見方が大きいですが、私は立場上被害者であるクロ・ハートフィールド男爵(20)。アプリコット・ハートフィールドさん(14)。シルバ・セイフライドさん(16)にも質問をして状況を明確にしないといけないのです。ご了承ください。
「括弧二十括弧閉じ、ってわざわざ言いやがったよこの方。……まぁ良いですけれど。その場に居た者である以上は答えさせていただきます」
「……構わないです。僕も全て真摯に答えさせていただきます」
「我も構わないぞ。……ふふ、彼女があの大魔導士であったとは……!」
ありがとうございます。
ちなみに今回の質疑応答は、これからの対応に対する更なる品質向上のため私の魔法による録音・記録が為されますので予めご了承ください。
「なんかクレーム対策みたいな文言だな」
「そうなのか?」
質問に対し嘘偽りを並べた場合は、私の魔法【虚偽は転する則罰なり】により罰則があたえられますのでご注意を。具体的には自動的に嘘に反応して、嘘を言った者の耳から聞こえてくる周囲の音が徐々に大きくなっていって話すだけでも恐怖心が煽られるようになっていきます。
「適当な名前なのに効果が地味だけど凄い」
では、始めていきましょう。
事件の概要は大まかには聞いておりますが、改めて説明をお願いします。まずはアプリコットさんがこの地のシスターや黒魔術師と共にシルバさんに絡んだと聞きますが。何故でしょうか。
「……うむ、彼の魔力に興味を持ってな。同じ闇魔法の覇道を感じたので、興味を持ったのだ。シア……シスターと黒魔術師殿も似たようなものだな」
「……僕自身、あまり……闇、魔法を好かないでいたので、つい反発してしまったのです。あと、なにを言っているかよく分からなかったので」
分からない、とは具体的にどのような言葉を掛けたのでしょうか?
「ふむ“同じく地臥す原初の焔の力を幸福せんとするため共鳴しようではないか”だな」
ごめんなさい王国語でお願いします。
「ようは原初たる闇魔法をその身に宿し扱う者よ、私と一緒に闇魔法を高める気は無いか? という事ですよ。アプリコットの知り合いだったら分かったんでしょうけど、説明する余裕も無かったようですね」
「えっ、そういう意味だったの? てっきり僕の噂を聞いてなにか企んでいるのかと……」
「そんな訳あるまい。同じ闇魔法を得意とする者として力を高めたかったのだよ」
「そ、そうなんだ……ごめん、あの時はつい反発しちゃって……」
「気にするでない。我々は道半ばであり、先達としては許すのも器というものだ」
「いや、僕の方が年上だからな」
「気にするでない」
「気にするよ!」
……む、グレイ君が妙な表情を……コホン、そして言い争いになり、決闘を始めようとして止めようとシルバ君の学友が、領主であり友達であるクロ男爵を呼びに行ったという事ですね。
「はい、間違い有りません」
そして、クロ男爵は妻ともっと愛を語り合いたいという後ろ髪に引かれながらも、苦渋の決断を持って現場に駆け付けた所に謎の魔力暴走があったと。
「なんか余計な言葉が混じっていませんでしたか?」
気のせいです。
その後に、貴方方は魔力に当てられ気絶。アプリコットさんは耐性があったためか比較的軽症で、弟子以上の感情を持っているようなクロ男爵の息子と共にお風呂に入り汚れを落としたという事ですね。
「まぁ確かに弟子とは師弟という言葉では生温い、強固な絆で結ばれているだろうが……含みがある気がするな」
「えっ、というか一緒にお風呂に入ったのか? あの子と?」
「なにか問題があるのか? 確かに弟子に補助してもらうのは師匠として情けない事かもしれぬが……認めぬのも恥であるからな」
「いや、そういう事じゃなくて……」
はい、では次に行きましょう。
次にクロ男爵が目覚めましたが、最初の方は上手く頭が回らず、なにかに呪われたかのような感覚があったと聞きます。間違い有りませんか?
「……はい。闇魔法を受けた感覚、という方が近いかもしれませんが」
「…………」
その感覚は話したり珈琲を飲んだりして、時間経過と共に治っていったと聞きます。
それではクロ男爵、質問です。嘘偽りの無い回答をお願いします。
「はい、なんでしょうか」
貴方の「妻が大好き!」発言は呪われた魔力の影響によるものですか?
「なんの質問だ!」
真面目な質問です。
万が一呪われたような感覚が、“ような”ではなく、事実であった場合を考えてみてください。
我々が現場検証を終えて屋敷に帰還した所、大きな声で叫んでいた愛の告白が実は呪われた魔力の影響で、理性や感情といったブレーキが壊れた事によるものの可能性が有ります。呪われた力には洗脳というモノも混じっていますから、脳に影響した魔力の場合は闇魔法ではなく呪の力の可能性が有ります。そこをハッキリさせなくては。
「うぐっ……まぁ確かにそうですが……!」
つまり貴方の愛の告白は呪の力を受けた影響による言葉なのか、正常な状態で叫んだ正真正銘の愛の言葉なのか。……クロ男爵自身はどう思われますか?
「えっと、それは、その……」
どうなのでしょうか?
貴方の愛の叫びは嘘なのか、真なのか。
「ええ、本気ですし真ですよ文句ありますか! 妻が大好きなのは偽りの無い言葉です!」
はい、惚気頂きました。お幸せにお過ごしください。
「離してくれメアリーさん! この魔女の口を塞いでやりたいんだ!」
まぁ今のは割と本気ではっきりさせないといけないから、勘弁してくれ。
……あと、力付くて塞いでくれるのならば良いのだがな。堪能できそうだ。
 




