転生してからのお話_2
俺が学園に入学する前の年の、学園の冬休みの頃。学園から実家に帰ったロイロ姉とゲン兄とスミ姉に諫められた。
なんでも、
「父様がお前の事を心配したのにそれを断るとは何事か」
との事だ。他にも色々言われたが要約すればそんな所である。
……ロイロ姉はともかく、ゲン兄とスミ姉はこんな感じじゃなかったんだけどな。時の流れは残酷と言うべきなのか、ハートフィールド家の教育が行き届いた結果なのか。
俺は今の兄姉達は好きではない。ロイロ姉は今世と前世の母が混じったような性格であるし、ゲン兄とスミ姉も父に逆らう事が出来ないかのように、諦めて笑う事が少なくなった。
来年からアゼリア学園の生徒として、なによりもハートフィールド家の一員として恥じないような生活を送れと説教を喰らった。特に俺と同じ学年に第二王子が居るらしく、粗相だけはするな、と言われた。お前はその身体能力を発揮していれば良いのだ、とも。
……第二王子か。どんな方であろうとも、関われば面倒な事は確かだろう。
機嫌を損ねれば準男爵家のハートフィールド家なんてすぐ没落する。言われなくても粗相をしないように気をつけるつもりである。
「カナリアに迫られて断ったんだよな。ドジだが外見は綺麗なあの……ところで、お前って……いや、なんでもない……」
あと、ゲン兄が俺の事を諫める目とは違う妙な目で見ていた気がする。
なんだか酷い誤解を受けているのは気のせいだろうか。
学園に入学した頃。学園でタンとテラコッタという平民にも友達が出来、バフとマルーンも含めた五名で良くつるむ様になった。
貴族と平民が良く話している姿は奇妙に映るらしく、遠巻きに見られることも多くゲン兄達にも諫められた。
だけどマルーンの伯爵家の力も有り、タンとテラコッタ達に嫌がらせをする者や直接的な妨害などをする者が段々と減っていった。
今では良く汚れていたタン達の白い制服も、以前よりは汚れなくなった。
そういえばなんで貴族が黒色で平民が白色の制服なのだろう。汚れやすさとか財産を考えれば、逆の方が良いのではないだろうか。貴族は直ぐにクリーニングに出すし。
――あ、思い出した。確か乙女ゲームのデザイナーの趣味だ。
攻略対象は黒く格好良く、主人公は白く可愛らしくを表現するためにそういった制服にしたのであった。ついでに可愛い担当の平民の……シルバ、だったか。その純朴さをアピールするためにもそういった配色にしたのであったっけ。特典か資料集の衣装設定で見た記憶がある。
あまり深く考えない方が良いのかもしれない。
「クロ様、本日もお勤めお疲れ様でござる」
「カナリアさん、その挨拶はなんか違う気がするんです」
ちなみにカナリアさんは俺の従者として学園に付いてきている。一応従者制度があり、中にはずっと付きっきりの従者を従えている貴族も居るのだが、カナリアさんの場合は日中は寮で働くか勉強をし、それ以外は俺に付いている。
……大分ドジも軽減したけれど、実家の方では遠回しに要らない、って言われてたんだよな、カナリアさん。だから父も俺に付かせたんだし。
ありがたいけれど、なんで今までクビにならなかったのだろうか。まぁ俺も反対はして来たけれど。
学園に入って初めての夏休みに入る前の頃。いつものメンバー内で恋愛関係が結ばれた。
タンとテラコッタ。バフとマルーンの平民同士、貴族同士の組み合わせだ。お陰でいつものメンバー内だと俺だけが付き合っている相手が居なくなった。
メンバー内の恋愛はギクシャクする可能性が有るので、ある意味劇薬ではあるのだがコイツら凄く幸せそうだから良しとしよう。バフ達に至っては理解のある両親のお陰で認められているようであるし、貴族で恋愛により結ばれるのならば上々だ。
でもまぁ惚気をしたり、ちょっとした相談を全て俺にするのはどうかと思うが。当てつけか、当てつけなのか? 前世も含めて四十年近く相手の居ない俺への当てつけなのか? 代わりに末永く幸せになってろ。
「クロ様は伴侶を見つけられないのですか?」
カナリアさんにそう聞かれたが、生憎と見つけられるモノなら見つけている。けどあまり乗り気にもなれない。だって結婚するという事はあの両親達と繋がりを持たせるという事だからなぁ……両親もあまり期待していないだろうし、卒業後か在学中に両親が何処かで見つけた相手をあてがわれるだけな気もする。
けれど、幸せそうなアイツらを見ていると、恋愛する事自体は憧れる。
相談も相手を想ってのことで、身体目的などではなく相手を好きになった結果の“一緒に居ること自体が楽しい”という恋愛関係のアイツらを見ていると、俺も憧れはするのだ。興味が無い訳では無い。
いつか俺もああいう恋愛が出来ると嬉しいのだが。
「クロ様は女性の好みは無いのですか? こう、巨乳とか色黒とか筋肉とか低身長とか」
「何故その特徴を選んだんです。……ああ、自分と正反対だからですか」
「……なんの事でしょうかね」
カナリアさんのバレバレの誤魔化しはともかく、俺の好みの相手か……
話していると楽しいとか、趣味が合うとか色々あるが……そうだな、強いて言うならあの子のような――
「まぁ、好みと言うならば、所作が綺麗な子ですかね」
「ようは美少女が良いんですね。やはり外見ですか……」
「それ結論有りきの結論ですよね。カナリアさんも綺麗なんですから、気にしすぎですよ」
とは言え、俺は恋愛できる立場にもない気がするけれどな。
もしいつか相手が見つかったのならば、家族で幸せになりたいものである。
学園に入っての初めての夏休み。いつものメンバー+従者達で山へと出かけた。
山へハイキング……だったら良いのだが、学園の課題の中に自由課題があり、それを達成するためにはなにかしらの依頼を達成するのが一番早いと言う理由で、冒険者として登録して依頼を達成しに来ているのだ。
モンスターの討伐自体は今までもやった事はあるのだが、このメンバーの数で同時達成だと難易度も難しくもなる。
「ご安心ください。私とて森の民であるエルフ。森の事ならお任せください」
カナリアさんは自信満々に言っている。森と言うよりは山であるのだが、広義的には森ではあるのだから良いのだろうか。それにカナリアさんの普段をこの場に居る全員が知っているので、皆不安そうであった。
だけど割と手馴れていたので安心した。歩き方のアドバイスが的確であった。偶にカナリアさんがこけていたが。
そしてキノコの種類に詳しいのは知っていたが、思ったよりも多くの種類を知っていて、安全と危険なキノコを教えていて皆も感心していた。
途中で「やはりエルフは自然と共に生きているのですね」とテラコッタが関心すると、褒められた事が嬉しかったのかドヤ顔を披露して胸を張る。
「はい、自分でよく食用も毒キノコも食べましたからね。実体験に勝る知識はありません」
「よく今まで死にませんでしたね」
エルフ関係ないじゃないか。
そんなツッコミを全員が飲み込んだのが分かった。
学園に入って最初の秋の頃。タンとテラコッタが亡くなった。
一年の校外研修という、実戦経験を積ませるための場で、俺は別班で、無事に終わらせて帰って来てからの訃報であった。
理解が追い付かなかった。
タンは親を楽にさせるために良い職に就きたいと笑顔で言っていたじゃないか。
テラコッタは将来は研究職に就いて世の中の役に立ちたいと願っていたじゃないか。
なのに、何故。
なにがあったのかと調べると、想定外の場所で、想定外のモンスターの襲撃が有り、モンスターからカーマイン殿下を庇った結果の即死であったらしい。
結果として戦死と同じ扱いを受け、殿下を庇った名誉ある勲章を得て手厚く葬られた。
――名誉ある、か。
誇らしい事であり、納得できない事でもあるけれど、これをカーマイン殿下などに当たるのもお門違いだ。モンスターの被害なのだから、憎むべきは襲い掛かったモンスターと襲い掛かる要因を作った環境に対してだ。
「クロ様……その……」
「大丈夫ですよ。……大丈夫ですから」
カナリアさんが俺の事を心配そうに尋ねてくる。なんと声をかけて良いか分からないような面持ちで、そんな表情をさせているとなると申し訳なくなってしまう。
そんな彼女の尖った耳は、いつもよりしょんぼりと下がっている気がした。
学園祭準備期間中の頃。カナリアさんが体調を崩した。
いわゆるインフルエンザのようなものだろうかと思いつつ、俺は予防を万端にしながら看病をした。カナリアさんは俺に看病される事に申し訳ないような表情をしつつ、俺が傍に居る事に何処か安堵した表情であった。
彼女はずっと一緒に居る相手なんだ。今世の兄弟や親よりも長い時間の付き合いである。
そんな彼女が弱っている姿はあまり見たくない。だから、こう言ってはなんだが、寮での独りにならずに看病という、なにか出来る事があると言うのは、良い気の紛らわしになったと思う。
俺もこうやってなにかしていないと喪失感を埋められなかったのだろう。バフ達とはまだ話も遊びもするが、何処かで喪失感と無力感が出てしまう。
アレが事故だという事は理解していても、やはり思う所があるんだろう。
だからこそ、カナリアさんの変化に気付かなかったのだろう。
学園祭期間中。タンとテラコッタの件が偶然ではないと知った。
事情を知らぬソレの取り巻きが「研修の後遺症があるかもしれないのでお気を付けください」と、捻った程度の怪我を心配して取り入ろうとしているのを聞いて、ソレは偉そうに、「まさか死ぬとは思わなかったがな」と、物の扱いを失敗した馬鹿話のように話しているのを聞いた。
理由は「俺が婚約者と上手くいっていないのに、王族を差し置いて仲良くやっていたあの平民が腹が立った」だ。訳が分からない。
じゃあつまり、タンとテラコッタはこんな奴を守る為に犠牲になったのか。
こんな、器が小さくて、腐った性根の身分以外に取り柄が無さそうなこんな男の為に。
――落ち着け。
今すぐ殴りに行っても周囲に止められるだけで、ヤツに届く前に拘束される。
そんな事があってはハートフィールド家は没落どころか全員が処刑されてもおかしくない。いや、父は様々な狡い手を使って自身に累が及ばないようにするだろう。そういった方面には優れた父である。
恐らく俺と、監視不行き届きという事か同時に企んだとして俺とカナリアさんに罪を着せて終わらせるだろう。カナリアさんはともかく、俺が単独でやった事に変わりはないのだから。
――カナリアさんに迷惑はかけられない。
ドジで要領は良くない森妖精族の女性。最初は訝しげにしていたが、今では俺と話すのを楽しそうにする女性。キノコ料理が好きで、食用と毒の違いを実体験として教えてくれた女性。
シッコク兄、ロイロ姉、ゲン兄、スミ姉が笑わなくなって父達の思想を引き継ぐようになった中、傍に居てくれた女性。
手のかかる姉のような存在のカナリアさんに、迷惑はかけられない。
「あの女なら解雇したよ」
彼女の部屋に行くと、空っぽになっており。何処へ行ったのかと探し回ると学園祭という事で学園に来ていたシッコク兄に言われた。
「理由? 要領の悪い女であったが、学園でも主の平民と交流を見咎めず、さらには自己管理も出来ず病気にかかった。役立たずは切り捨てて然るべきだろう。それに、以前より話はしてあったのだが……主に伝える語彙にも貧していたか。哀れだな」
何故、と問うと、つまらなそうに答えた。
当たり前のように、ただ機会が無かったからしなかっただけとでも言うかのように、シッコク兄は吐き捨てた。
……彼女は元奴隷だから、クビになるという事はつまり。
「女も奴隷も代わりはいくらでも居るだろう。――いい加減貴族としての自覚を持て、愚弟」
――ああ、腹が立つ。
――だが、落ち着かないと。
――でも、誰の為に。
――相手はもういないから
――だから。
――もう、どうでも良いか。
タン
淡茶色髪黒目
クロと仲良かった少し気弱な平民の男友達。享年十六。
魔法に優れて、親を楽にさせるために良い職に就きたいと言う笑顔が眩しい少年。
テラコッタとは恋愛関係だったが、それが原因でカーマインに目を付けられる。
テラコッタ
橙茶色髪翠目
クロと仲の良かった明るい性格の平民の女友達。享年十五。
勉強が出来、将来は研究職に就いて世の中の役に立ちたいと願った少女。
タンとは恋愛関係だったが、それが原因でカーマインに目を付けられる。




