女子会(男を含む)_3(:菫)
View.ヴァイオレット
『急な訪問であったにも関わらず、案内と荷物の整備をありがとう』
シルバが教会で身体を洗い終え、屋敷に戻ると汚れた服(持ってきていたシルバの予備)や荷物を乾かしたり整備したことにまずは感謝の意を述べられた。
初めは入学当初のような周囲全てを敵として見ているような「余計な事するな」などといった事を言われると思ったので、少し面を喰らいはした。しかしよく考えればあの敵意も呪われた力と遠巻きに見られる怯えから来るものであったし、私が退学する前にもメアリーの影響で周囲に明るく接するようにはなっていたので、その部分が出ただけかもしれない。
……とはいえ、その明るい部分を私に対して見せた事は一度も無いのだが。仕様が無いと言えばしようが無いが。
「あのさ、女の子同士の集まりじゃないのか? なんで僕やグレイまで呼ばれてるんだ」
「女子会だからです」
「というか女子会ってなに?」
「“女”性と“男”性の集まりなのでは?」
「成程?」
そして現在。屋敷の一番広い客間にて私とグレイ、クリームヒルト、メアリー、シルバが集まっていた。私達の中心には、メアリーが用意した飲み物や手で摘まめるようなお菓子類が置いてある。
メアリーの勧めでこのメンバーにて宿屋に行き夕食を食べ、メアリーが「シルバ君も泊めて貰っても良いでしょうか」と、シルバの懐事情を考慮して私に提案した。……シルバはメアリーが私が居る屋敷に泊まる事を知ると、不安とも警戒ともとれる表情になり、ブツブツとなにかを呟いてシルバの精神がマズそうであったので一応宿泊を許可はした。
夜になって来ると女子会とやらを行うので、全員に呼びかけて集まったは良いのだが……
「でも女の子が居る部屋に男が行くのは良いのか? それにもう夜だし、その、寝間着だし……」
シルバの言う通り、一室にて男女が寝間着にて集まるとは女子会も不思議な会である。
クリームヒルトとメアリーの勧めで私も厚手の寝間着を着はしたが、どうも慣れそうにない。
シルバの場合は私のような嫌っている相手がいるとは言え、好きな相手も含む異性が普段とは違う格好で居て戸惑っているように見える。
「大丈夫だよシルバ君。グレイ君だっているし」
「いや、この子は子供だろう。彼なら良いが、僕は……」
「あ、シルバ君。はい、紅茶。砂糖も入れておきましたよ。いつもと同じように入れましたから」
「あ、ありがとうメアリーさん。……あ、美味しいね」
「はい、お菓子もあるよー、はい、あーん」
「クリームヒルト、お前はまた子ども扱いを――むぐっ、……無理矢理口に……もぐ……あ、これも美味しい!」
「まだあるよー。あ、シルバ君髪跳ねてるよ」
「私が梳きますね。ふふ、シルバ君は相変わらず綺麗な銀髪ですね」
「もぐ……ありがとう、メアリーさん。もぐ、美味しい……」
……相変わらずシルバは弟のような扱いを受けているな。
私より小柄であり、言動も何処か子供じみた仕草があるから仕方ないかもしれないが、殿下達と同じようにメアリーに迫っている中でシルバだけが異性としてあまり見られていないのは見ていて可哀そうな部分もある。とはいえ偶に見せる男らしさが良いと言っている同級生は見た事はあるが。
「それで、なにをするんだメアリー?」
「はい、楽しく会話をして親睦を深めるのです」
メアリーはシルバの髪を梳きながら本当に楽しそうに女子会を始めようとしていた。
このような表情を見るのは私も初めてであり、まるで子供のような無邪気さだ。
「話と言うと、どのようなものなのでしょうかメアリー様」
「はい、お菓子を食べながら最近あった事とか、す――尊敬する相手とか、趣味とか昔の話を話すのです。女子会という場で話すことで親密度は普段より多く深まる不思議空間なのです」
「なんですって、女子会にそのような効果が!」
「ええ、そうなのですよ」
しかし、この無邪気さはグレイに似た“○○で知った”というような、何処かで影響を受けて素直に従っているだけのような気もする。今までのメアリーに感じていた経験則のような物が今のメアリーには見られない。
何度か読んだ本で云々と言っているので、やはりその影響なのだろうか。
「あはは、よく分からないけどメアリーちゃんが楽しそうならいっか」
「メアリーさんがこんな楽しそうな声を出すなんてそしてその会に僕も参加できるとはなんて幸せなんだろうそしてメアリーさんの寝間着姿はなんて綺麗なんだろうなんて美しいのだろうそしてあまり見た事の無い表情だここに来たりアイツに歩み寄ろうとした時はなにか脅されているのではないかと不安だったけどこの表情を同じ部屋で見ることが出来る僕は幸せだだからこそ守らないといけないアイツらには馬鹿にされるけれど僕だって守れるんだふふふふふ」
「シルバ君、どうしたの?」
「いえ、なんでもない」
……何故だろうか。菓子類を食べているシルバから黒いオーラのようなものを感じ取れたのは気のせいだろうか。
いや、呪われた力など所詮噂であったから、私の勘違いだろう。普段は騎士の様に弱きを助ける男で有りたいと言っているシルバであるが、メアリーとの接触に誰よりも顔を赤くしていた男だ。緊張で上手く動けないのだろう。今も恐らく食べるのをやめたら髪を梳いて貰っている事に顔を赤らめそうであるし。
……しかし美味しそうに食べるな。
「ヴァイオレット様、ヴァイオレット様」
「どうしたグレイ?」
私がシルバ達を見ていると、グレイが呼びかけて来た。
二回名前を繰り返して呼ぶ時はなにか試したい事があったり、楽しみにしている時の呼び方だ。
私がグレイの方を向くと、ハンカチで一口サイズのお菓子を持ったグレイが居た。何故かワクワクとした表情で目を輝かせている。可愛い。
ええと、これは……
「口をお開け下さい」
やはりか。
クリームヒルトを見て自分もしたくなったという所だろうか。
こういう場においてマナーをあまり言うつもりはないが、はしたないので出来れば私は控えたい。
それに夕食を食べた後だ。今は大分改善されてきたが、あまり食べ過ぎても気分が悪くなり、下手をすれば吐く。菓子類となるとなおさらだ。
だから私は断ろうとするが……
「グレイ、あまりこういった行為はだな」
「ですが、彼は美味しそうにしているので、その、ヴァイオレット様もこうすれば喜んで貰えると……」
「……だから真似をした、と?」
「はい。……迷惑でしたでしょうか」
つまりシルバが幸せそうにしているのを見て、同じ事をすれば私も同じ表情になるのではないかと思ったという事なのだろうか。
よし、いくらでも食べてやろうではないか。
はしたない? 知った事ではない、そんな事よりグレイだ。息子からの厚意を受け入れずしてなにが母親か。いや、私の母は受け入れはしなかったが、私は受け入れたい。
頑張れ私の胃袋。息子からのこの厚意を受け入れるためにも吐くなんてしないでくれ。
「よし、来いグレイ!」
「はい、ヴァイオレット様――いえ、母上!」
グレイに食べさせてもらったお菓子は、不思議といつもより美味しかった気がする。
「……僕は母親居ないからよく分からないのだけど、母子ってあんな感じなのかな」
「あはは、あの子達は変わっているからねー」
「クリームヒルトには言われたくないだろうな」
「シルバ君には言われたくないかな」
備考
ちなみにクロとやった場合は「あーん」を互いにやった後、恥ずかしさで一回だけで打ち止めになります。




