女子会(男を含む)_2(:菫)
View.ヴァイオレット
「ふぃー、お風呂ありがとう、ヴァイオレットちゃん。お陰でスッキリしたよ」
「そうか、良かった」
クリームヒルトは髪を拭きながら、粘液で汚れた服を暖房器具の近くで乾かしている私の所へと感謝の言葉を言いながら近寄って来た。
ちなみに着替えは一応シキに来るように用意はしてあったそうなので、そちらを着ている。
シルバに関しては、グレイに頼んで教会へと連れて行ってもらいそちらで湯を浴びて洗って貰っている。
初めは私の姿を見た時に敵意を出したシルバであったが、
『やかましいこれ以上私達家族の家を粘液で汚すのならば裸で放り出すぞ』
と説得したら大人しく従ってくれた。やはりキチンと話し合えば伝わるというものなのだろう。
学生時代もキチンと話せば決闘なんてせずに済んだのかもしれ――いや、そうなるとクロ殿と会えなくなるのか。なら別に良いか。
……しかし、グレイはシルバに対して何処となく不満気な表情だったのは気のせいだろうか。
ともかく、何故モンスターが出るような所に居たのかを聞くと、
「あはは、それにしても雪道って怖いね。白いから方向感覚がズレちゃったよ!」
とのことだ。
隣町からシキまでの道は迷うような道は無いはずなのだが……迷ったモノは仕様がない。そういう時もあるだろうと納得した。一応はクロ殿に報告はして、迷わないようにする案が無いか検討しておこう。
「ところでクロさんは外でお仕事? 夕方には戻って来る感じかな」
「いや、領主会議で明日の夜まで居ない。だから私とグレイだけだな」
「そうなんだ。大変だね、領主さんって言うのも」
クリームヒルトは聞きながら洗濯物を乾かしている暖房器具に近付き、「ふわー……」と表情を緩ませながら暖をとっていた。お風呂上りなのに寒いのだろうか。
「ごめんね、そんな時に来ちゃって。遊びに行こうとはしたんだけど、色々あってこの時期になっちゃって……」
「気にする事はないぞ。わざわざ友が来てくれたのだ、とても嬉しいよ」
私が微笑むと、クリームヒルトは嬉しそうに笑ってくれた。
相変わらず私には無いような笑顔を浮かべるので、少し羨ましい。
「そうだ。折角なら屋敷に泊まると良い」
「え、良いの?」
「手持ちも無いのだろう? 今日はクロ殿が居なくて寂しかったからな。クリームヒルトが嫌でなければ、だが」
「ありがとうヴァイオレットちゃん! お言葉に甘えても良いかな?」
「ああ、良いぞ」
私が了承すると、クリームヒルトは嬉しそうに私の手を握ってブンブンと振り、嬉しさを全身でアピールする。
この裏表の無い屈託のなさを見習いたいものである。
それにクロ殿が居なくて寂しいのは確かだ。早くクロ殿と会いたい。
「しかし、セイフライドはどうしようか。アイツは私の事嫌っているだろうからな……」
「あはは、そうだねー。話し合えば緩和はしそうなんだけど……」
「クリームヒルトのように泊まって良いと言っても断りそうだ」
部屋自体はあるので、用意さえすれば泊まれる準備は出来る。
だがシルバはあの決闘騒ぎで私と敵対してメアリーの味方をした一人だ。私の事は医務室や先程の反応を見る限りでも未だに嫌っている。
メアリーと同じように宿屋に案内した方が良いかもしれない。
「どういう事なのですか!」
「え、メアリーちゃん!?」
すると私が決闘で挑んだ当事者であるメアリーが突然部屋の扉……ではなく、部屋の窓を開いて私達に声をかけて来た。いつものような慈愛めいた感覚ではなく、私に友達になって欲しい、と言ってきた時と同じ空気が感じられる。
何故急に叫んだのかと問いたいが、それよりも寒いから早く窓を閉めて欲しい。
「私が来た時は早く帰って欲しそうにしていたのに、クリームヒルトだと泊まっていいなんて……!」
年始に急にやって来てクロ殿に「愛を教えてください!」なんて言っている相手を歓待しろという方が難しいぞ。
それに友とは言ってもクリームヒルトの方が私にとっては親しい上に、今はクロ殿が居ないからと言うのもあるのだが……しかし、相変わらずメアリーは学園に居た頃と性格が違うな。そんなにも友に飢えていたのだろうか……?
「ズルいです、私も友達の家に泊まってパジャマパーティーとか、一緒にお風呂に入って身体を揉み合うとか、百物語を語って呪い合うとか友達のような事をしたいのですよ!」
「メアリーちゃん、なにかおかしくない、それ?」
「え、私が見た本ではよくある事だったのですけれど……?」
「あはは、その本がどんなものか聞きたいな」
私も気になる。以前もそうだが、メアリーの読んでいたという本はなんなのだろうか。少なくとも私が読んできた本とは違う事は確かだ。
いや、しかしメアリーがこんなにも自信満々に言うという事は、それが友とする事との常識なのだろうか。
おまじないも呪いの一種であるし、ハダカノツキアイ、という言葉が東の国ではあるらしい。つまり仲良くなるためにはメアリーの言うことをした方が良いのだろうか。
「つまり寝間着でお風呂に入って身体を揉み合って百物語を語れば良いのか」
「ヴァイオレットちゃん、混ぜれば良いというものじゃないよ」
そうだな、私で言ってもおかしいと思った。それに私自身も同性とはいえ誰かと入るのはあまり得意では無いから、メアリーにはキチンと断りを入れておこう。だが……
「メアリーも泊まりたかったら泊まれば良いぞ」
「え、良いのですか?」
「ああ、部屋も空いているからな」
だが、メアリーが泊まること自体は問題は無い。
利用するようで気が引けるが、今ならクリームヒルトも居るので変に会話が途切れることも無いだろうし、シルバがなにか言って来ても大丈夫だろう。それに少しはメアリーの意志も汲み取りたいとも思う。……私自身が上手く接することが出来るかは、まだ微妙だが。
「ありがとうございます! やった、これは女子会が出来ますね!」
「ジョシカイ?」
ジョシカイとはなんだろうか。
私達は女子というほど若くも無いので女子、という意味ではないだろうが、楽しそうにしているのだから余程楽しい事なんだろう。
――しかし、これが殿下が見惚れていた笑顔か。
確かに天真爛漫で、心の底から喜んでいると思える笑顔だ。以前の私では見た事の無い魅力的な笑顔だ。
……こんな風に笑えれば、私もクロ殿に魅力的と思って貰えるだろうか。メアリーやクリームヒルトのように微笑むことが出来ないからな、私は。
そういえばジョシカイとやらは気になるが、とりあえずこれだけは言っておかなくてはならないな。
「だがクロ殿が帰ってきたら泊まるのは無しだ。いいな? 万が一泊まっても前のような事をしたら即刻追い出す」
「あ、はい」




