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再確認


「――続いて、ヴァイオレット・ハートフィールド」


 俺の誓いの言葉を聞き遂げた後、何処となく嬉しそうにしつつも表面上は厳かにしつつ、次の誓いの言葉の対象者であり四人目最後の相手である、俺の妻であるヴァイオレットさんの名前を呼ぶ。


「はい」


 呼びかけに対し、小さく顔を上げ返事をする。ただそれだけなのに、俺とは違うと思わせる雰囲気を漂わせている。

 凛としている、教育が行き届いていると感じられる、一本の芯があると思えるほど所作が綺麗である。惚れた弱みが過剰にそう思わせているだけなのかもしれないが、例えそうでも俺が今の彼女に惚れていると再確認出来た事になるので構わない。そう思えるほど、今の彼女はあまりにも綺麗であった。

 控え室で彼女を見た時に感じた想いと、先ほど領民達の歓声に応える姿を見ての想いと、今感じる彼女への想い。そのどれもが違う感情であるが、根本の彼女が好き、という、だからこそ感じる想いは全てに共通していた。


――それにしてもやはり最高ではないか?


 そして改めて、当たり前のようで特別過ぎて日常過ぎるが非日常を常に覚えるヴァイオレットさんへの感情が湧き上がってきた。

 なにを言っているか分からない? 大丈夫、俺も理解出来ない感情だ。

 俺も理解出来なさ過ぎて困惑と供に、何度も自分の知らない好きという感情を湧かせてくれている彼女に未知なる好意を得ている。


――そう、未知だ。


 ヴァイオレットさんと一緒に過ごしていると、知らない事が多すぎるのである。

 知っているから好きになる。

 過去の思い出から相手がどういう存在かを知っているから信用も信頼もあって好きになる事があり、好きを確固たるものにすることがある。

 知らないからこそ好きになる。

 知らないと不安になってしまうという事もある。恋愛においては相手の全てを知りたいというのも分かる。俺だって知れるのなら知りたい。

 しかし知らないからこそ――知らなかったからこそ、知った時新たな感情を得る事ができるのだ。

 時には知る事で失望になる事もあるだろう。だからこそ知らない事をなくし、好きという感情に安心感を得たいと願うのであろう。

だが! 彼女の場合は常に俺の知っている事や想像を超えて魅力を伝えてきて好きという感情を湧かせてくれるのである。もう何度新たな一面を見せられて一目惚れを繰り返せばいいというのかと問いたいほどである。問うた所で意味は無い気もするが、問わずにはいられない! というか誰に問えば良い!


――俺の(つく)ったドレスが、知らない魅力を解き放っている……!


 聖堂にあるステンドグラスから入る光が、ヴァイオレットさんを祝福し演出しているように照らしている。

 照らされて、ドレス姿の彼女が神秘的とかそういう言葉が似合う――否、言葉に当てはめて形容する事自体が、その言葉という枠組みに当てはめてしまって素晴らしさが変容してしまうのではないかと思いたくなるほどだ。

 なんなんだ彼女は。俺が(つく)ったはずの作品すら未知を付け足してくるとか俺をどうしたいんだ。好き。


――くそぅ、知っているはずの事すら、知っていたと思っていただけに過ぎないと思わされる……!


 セットされた菫色の髪は一本一本が生命の宿った絹のような美しさを誇り、集合体にもなればもはや美の暴力だ。むしろ絹がこっち来い。

 静かに存在感を放つ蒼の目も澄んで綺麗だ。海のように深いとか、青空のように澄んでいるとか、宝石の如く美しいなどではない。目は目だ。目として綺麗であり、他の物に比喩して例えてんじゃねぇと大声で叫びたい衝動に駆られる。なので心で叫ぼう。綺麗!!

 純白のドレスに負けないくらいの白くきめ細かな肌。あんなに細かくて壊れてしまいそうなのに、触れると弾力がありずっと触っていたくなる心地良さがある事を、誰よりも、それこそ本人以上に俺は知っている。知っているが故の好きである。羨ましいかと叫びたいが、叫ぶと知る相手が増えそうなので叫ばずにいよう。心の中で叫ぶと触りたくなるので我慢である。

 芯があり強さも感じる優しい声。彼女の声はもはやどんな声を出そうとも俺にとっては福音と変わらぬ音となって俺の脳を彩ってくれる。もはや一種の依存性のある麻薬ではないかと思うほどだ。法の番人が聞けば法がかかるかもしれない。かかっても俺は聞き続けるがな!

 色んな彼女を構成する要素が、知っていたはずの事が、ドレスを身に纏う彼女を見る事で再認識し再考し再検証でき最高で最強で至高であると思う事が出来た。

 先程領民達の声援とかに対して大声で対応しテンションを放出していなければ、この未知を既知にしたことによる惚れた感情を示すためにお姫様抱っこをしてしまったかもしれない。ありがとう領民。そして息子や娘や妹や姉弟達よありがとう。口にして感謝した所で意味分からないだろうから直接は言わないけど、感謝しているぞ。……いや、以前愛する妻に好きと言っていない事で泣かせてしまったし、思うだけでなく言った方が良いか? そして先程から抱いているこの惚れている感情と衝撃を改めてヴァイオレットさんに伝えた方が良いか? うんそうしようやってやるぜいやっふぅ!


――とはいえ、今は落ち着こう。昂るとヴァイオレットさんの宣誓を聞き逃す。


 俺は荒ぶる内心を表に出す事無く、しかし内心では変わらず荒ぶったまま宣誓を聞く。

 これでも今まで未知を見せ続けられて来たんだ。表では冷静を装うくらい訳が無いという事である。




 ……後で聞いた話だが。

 この時の俺の様子を見ていた領民や参列者の一部は、表面上は冷静であった事は認めつつも。


『ああ、また内心では荒ぶっているなぁ。いつもの事だけど、いつも以上だ』


 と、思っていたそうである。


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