領主会議(飲み会)にて_2
今回領主会議が行われる隣町に着き、首都に行く空間歪曲石を利用するシュバルツさんと別れ、目的地である領主邸を目指す。
後半は飲み会になるとは言え、前半はある程度真面目に会議もする。
俺は領主としては若いため、もっと大きな集まりなどでは見下されたりする事も多いが、今回のような近隣の領主会議だと「あのシキを治めているんだよな……」みたいな感じに同情と畏怖の半々で見られるためあまり舐められたりはしない。
初めの方こそ色々と言われはしたが、少なからずここ最近は普通に領主としては接してはもらえる。……偶に「あの地を治められているのは領主も変態だからなのでは?」みたいな感じにも接するけれど。
「ちょっと遅くなりそうだな……急ぐか」
時間を確認し、のんびり歩いていては遅刻してしまいそうな事に気付く。
もう少し余裕を持ちたかったけど、そこは色々あったから仕方あるまい。久々に会う兄との会話は楽しみであったけれど……
「ゲン兄と会話は会議が終わってからだな」
あとはスミ姉の旦那さんにスミ姉の様子を聞きたかったけれど、とりあえずは領主会議をこなさなくては。
……多分今回も色々あるだろうな。
◆
俺は領主会議には時間までには間に合い、数名が少し遅れてきた後数分開始時間が伸びて開始された。
ゲン兄と目が合うと手を振られ、普段ならば旦那さんが出席するはずなのに何故か居るスミ姉ともアイコンタクトで挨拶をした。何故居るかは後で聞くとして、とりあえずは目先の会議をこなすとしよう。
「では会議を始めさせて頂く。まず議題は最近活性化しているモンスター被害などについて」
議題に上がるほどモンスター被害はあったのだろうか。
でもシュバルツさんの件(フェンリルの被害)やローシェンナ・リバーズの件(オーク改造・その他暴走)などもあったし、調査が行われているというキナ臭い話もあるとシュバルツさんは言っていた。
「この数ヵ月、フェンリルが生息域を離れて被害が出る、ダイアウルフが各地の街で畑を荒らすなどの被害報告が上がっている。そこで――」
まずは簡単な前回の領主会議から起きた出来事を説明し始める。フェンリルはともかく、ダイアウルフはシュバルツさんと関係ない所で暴れたようである。それにアッシュ達も調査前にモンスターに襲われたと聞く。
封印系モンスターもあるし、もしかしたらなにか前兆があってモンスターの生息域が変わっている可能性もある。情報を共有するに越したことは無いか。
「――が治める街の近くにある古城に古代吸血種が住み着いたという話だ。敵対する古代吸血種が復活すると周辺の不死系が操られるという話であるから留意を――」
「あ、それうちのロボとシスターで滅しました」
「そうか。では解決だな。次にこの街でも流通しかけた阿片だが、取り扱う組織が壊滅した。だが、その際に謎のモンスターが出現したから注意せよと先日王都からお達しが――」
「それうちのロボです」
「そうか。じゃあこの件も皆は気にするな。次に最近獣・小竜系モンスターを従えた山賊行為を行う輩が居るという情報が――」
「昨日ロボが壊滅させました。多分報告がそろそろ入るかと」
「よし、全体的に危機的なモンスター関連は解決した。皆今の話は忘れて良い」
だけど注意すべきモンスター関連などは大体ロボのお陰で解決していた。
周囲の領主達も慣れているのかそこまで驚いていない。あまりロボを知らない領主は複雑そうな表情であるが。
「だが、最近になってモンスターの生息域が変わったという情報がある。皆の所にも王都から調査員が派遣されていると思うが、皆も気をつけてくれ」
俺としてはモンスターよりもその調査員の方に注意を払いたいのだけどな。
だけど場所は分からないが封印された竜系モンスターも居るし、用心に越した事は無いか。
「シキに関しては下手に暴れてモンスターを刺激しないようにして欲しい」
「……はい」
わざわざ名指しで注意をされたよ。けれど否定もできない。
あいつらは確かに己が目的にモンスターの部位が必要、とかだったら行商から買ったり冒険者に頼んだりせずに迷わず狩りに行くタイプの奴らばっかりだしな。
エメラルドとか賞金首のモンスターをブラウンに捕まえさせて毒実験してたこともあったし。
「次の議題だが……眉唾な話であるが、私が治めているこの街で山が一時的に消えたという目撃情報があった。大多数が目撃していて、魔法や幻術の類では無いかという話が――む、どうしたハートフィールドなにか意見か?」
「はい。それってもしかして北の方にある白山峰でしょうか」
「そうだが……まさか」
「先日うちの半死者と半天使の夫婦が一つ山を壊した後に、神の奇跡による祝福で復活させました。今日この後報告する予定だったのですが申し訳ありません。結界などを張っていたため死者や怪我などは出ていません」
俺の報告に「ああ、あの夫婦か……」みたいなリアクションの後、なんだか色んな視線を向けられた。そして司会進行の領主さんが咳払いをして次の話に移る。
「これはモンスター被害と言うべきかは分からないが、四ヶ月ほど前にとある女騎士が突然軍をやめた後に、ゴブリンと一緒に行動していたという報告が上がっている。万が一目撃した場合は――ハートフィールド、どうした」
「二ヶ月程前にシキにて半ゴブリンと元騎士の女性が婚約しました」
「……女性の名は?」
「本当は伏せるべきなのでしょうが……ホリゾンブルーと言います」
「うむ、その女性だな。様子は?」
「夫はシキでも既に慕われるほどには馴染んでいます。危険性はないと判断しています」
今度は皆が「おお……だがシキなら……」みたいな視線を向けられた。正直あの夫婦はかなり善良だ。精々視線を気にせずイチャつくので子供の前では控えて欲しい、という程度である。
司会進行の領主さんが少し頭を抱えた後に、気を取り直して進行を始める。
「先日毒の沼地が発生したが、冒険者が浄化に行くと既に浄化済みであったという。自然浄化か通り過がりの者が浄化した可能性もあるが、モンスターが毒素を吸収して身体に蓄えた可能性も――…………ハートフィールド」
うん、話の途中に俺が手をあげていたらなにか諦めたかのように俺に話を振ったな。気持ちは分からないでもないが、俺だって領民は守らないといけないんだ。
「先日うちの薬剤師が新たな毒を発見したと喜んでいました。確定はしていませんが、念のため聞いておきます。十中八九その薬剤師だと思いますが」
「……そうか。先日黒服を身に纏う黒猫を連れた軍団が夜の森で不気味な事を――」
「先日黒魔術師協会が黒猫を愛でる会を極秘で開催したのでソレの事ですね。うちの黒魔術師が報告してくれました」
「……学園調査団の調査期間中に、“あはははは!”と笑いながらモンスターを屠る女が居たという報告が――」
「あ、それうちに来た生徒だと思います。あはは、と可愛らしく笑う女の子ですよ」
「……最近怪我が素早く治る薬があるという噂が出回っている。危険性は無いらしいが、なにが起こるか分からないから気をつけて――」
「それがもし赤色の薬ならうちの医者が最近開発した奴です」
「よーし、この半年のシキの報告を先に話せ! もうそっちの方が早い!」
進行役の領主さんは諦めたかのように叫んだ。
だけどはい、俺もそう思います。
ホリゾンブルー
半ゴブリンのアップルグリーンの妻。
元騎士の純人族
ゴブリンの大群がいる巣に捕まった所をアップルグリーンに救われたのが出会い
魔法に優れ、夫を溺愛中。
神の祝福
殺し愛の結果起きる奇跡。ようは破壊跡が無かった事になる。




