~菫が朱と話している頃_黒と紺~
~菫が朱と話している頃_黒と紺~
「いやはや、懐かしいなぁ。俺がシキに来始めの頃。クロ坊が俺との仕事を調整しに来てたんだよな。不慣れ感があるのに懸命に頑張って俺も仕事はするようになったが、あのクロ坊がこうして立派なスーツが似合う男にあるとはな!」
「ええ、覚えてますともブライさん。偶然居合わせたグレイが居なければ交渉の余地も無く刃物を作り続ける不審者であった事を。そして別の意味での不審者になった事を」
「不審者じゃねぇ、少年という天使に愛を感じる信心深い男だ!」
「信心深い人に謝れ!」
「しかしクロ坊は交渉と値段、需要と供給に詳しかったお陰で前より稼げるようにも感謝されるようにもなったな。やけに詳しかった気もするが……」
「まぁその辺りの交渉とかは慣れてましたし、前領主の不正資料があったからどうにかなった感じはありますが……」
「そうなのか。……まぁ金は正直そこまでだが、感謝されるのは悪くないと思えるようになった。そこはありがとよ、クロ。結婚おめでとう」
「……ありがとうございます。そう感謝されると、これからも頑張っていきたいと思いますね」
「今までは刃物は怖いし危険だからと少年に感謝される事は無かった。けど子供にも使える刃物や見学ツアーのお陰で少年に感謝される機会が増えた! 本当に感謝するぞ!」
「俺が性癖を満たせるように奔走した感じにするのやめて貰えません!?」
「その通りですよブライさん!」
「!? アリスブルーさん!?」
「シキ歴が短い私ですら分かります。領主様は貴方が仕事をしやすいように、懸命に働いてくれた……つまり! 貴方が満足するために少年を周囲に置いた!」
「おいこら」
「その程度分かっているぞ。クロ坊は俺だけでなくアリスブルー、お前の事も理解し、働きやすい環境を整えてくれているという事はな。それがどうした?」
「ふふふ、分からないのですか。つまり領主様は――少年少女好きの性癖を、理解しているという事なんです」
「なっ、つまりそれは!?」
「彼もまた――私達と同類なのです」
「おーい! こらこらゴルゥァ! どういう答えに帰結してんだ!!」
「馬鹿な、有り得ん。であれば今は成長し大人になったあの天使と一緒に過ごし、正気でいられるはずなど……!」
「分かります。あの少女の輝きを持っていたであろう――いや、今も輝きがあるアプリコットちゃんという存在との同棲……正気を保てるはずがない!」
「――っ!?」
「どうされましたアプリコット様?」
「いや、何故か悪寒が……?」
「だったら何故同類という結論を抱いたんだ? 我慢なんて出来る訳が――」
「……そういう欲求を、代替として運動で晴らすヒトは多いと聞きます」
「――! まさかクロ坊は今まで、やりたい欲求をシキの連中にさせる事で――」
「そう、私達の欲求が分かるからこそ受け入れて、見る事で晴らしていた! つまり!」
「俺達が出来る事は、俺達のように少年少女の欲求を共有し、同類として一緒に欲求を満たす事が恩返しになるという事か!」
「ええ、これが我々の祝儀と言えましょう!」
「よし、クロ坊――俺の今までの少年への愛を共有しよう!」
「私の少女への愛を一緒に楽しみましょう!」
「――ヨシ、オメェラ。座レ」
「ククク……改めてご結婚おめでとうシアン君。ドレス姿が綺麗だね……!」
「おう修道痴女。結婚おめでとう。ドレスにスリットを入れずに我慢出来たお陰で綺麗である事を祝福してやる」
「オー君ありがとう。アイ君は喧嘩売ってる?」
「俺が売るのは怪我に対する治療の腕の早さだけだ。出会い始めの頃から理解出来ん格好の告白する勇気のない意気地なしだった女が、結婚式では素直にドレスを着ている成長ぶりを祝福しているだけではないか」
「オッケー、喧嘩売っているんだね。買うために動きやすいようにスリットを入れて今から可愛くしても良いんだよ!!」
「やれるものならやってみろ。スノーに怒られても良いならな」
「神――スノー君は“はは、いつも通りの姿を見れて安心だなぁ”というだけだから!」
「それはそれでどうなんだ」
「ククク……アイボリー君、素直に祝福出来ないからって喧嘩腰にならなくても良いんだよ」
「……なんの話だ。俺はこの、来た当初を思えば結婚出来るとは思えなかった修道痴女のドレス姿を素直に驚いているだけだ」
「まぁそういう事にしておこう。確かにシアン君のこんな晴れ姿を見る事が出来るとはね」
「え、オー君も私が結婚出来ると思っていなかった感じなの?」
「いや、来た当初は荒れてたけど、良い子だからいずれは結婚出来るとは思っていたよ。ただ私が一つの場所に定住できるようになり、君も職務を放り出して冒険者になって飛び出す事も無かった。そこを考えると見られるようにならなかった事が驚き、というわけだよ」
「あー、確かに。前の領主のままだったら神父様も今みたいじゃないかもだし、私も冒険者になってたかも。オー君もここに定住はなかっただろうし……アイ君くらいかな、前の領主でも定住してたのって。そして都合の良い無償医者としてこき使われてそう」
「可能性はあるな。そう考えるとクロが居るからこうして俺達はこの場に居る訳か。おらシスター痴女、クロに感謝しろ」
「なんでアイ君が偉そうなの。まぁ感謝はしてるよ。なにせ他じゃ……というか前の所でもスリットシスター服は可愛さを理解してもらえず禁止されていた。けれど今では出来ている。そんな領地を治めてくれているクロに感謝しないとね!」
「「そこはクロにどうにかして欲しかったな」」
「なんで!? ええい、素直に祝福できない二人には、いずれ素直になる様に健康の加護を授ける祈りを捧げてやる! 新婦のありがたい祈りをくらぇぃ!」
「ククク……感謝するよ」
「まったく、お前みたいなやつの結婚式で祈りを受けるとはな。……本当に、なにが起こるか分からないものだ」
「ククク……ところであちらでクロ君がなにかやっているようだけど、止めなくて良いなかな?」
「結婚式にまでなにをやっているんだアイツらは」




