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朱と混ざる色_1(:朱)


View.ヴァーミリオン



「すまない、遅れたようだ――と思ったが、アッシュとシャルはまだのようだな」

「まだ十分時間はありますし、遅い事は無いですよ。あと、シャル君は内心を読ませないようにギリギリまでイチャついて来るようです」

「例の恋人の件か。おおよそメアリーに問い詰められると口を割られそうだから逃げたな」

「アッシュ君は己が尊厳を賭けて全力でシキの皆さんの所へ行きました」

「なにがあった」


 恋仲となったメアリーの左隣に座ると、親友達が愉快な事になっていた。

 アッシュは相変わらず苦労性なようだが、認めてしまった方が楽になるとは思いつつも苦労を掛けているのは変わりないので、後で気を使おうと思う。

 シャルに関しては後でメアリーと一緒に問い詰めるとしよう。相手が誰かは大方予想は付いているので俺は深くは問い詰めないが、メアリーは楽しそうであるし、シャルも逃げ癖を治さないと駄目である。あと、相手が十近く年上であったりするのでその辺りも大丈夫かと聞きたいしな。


「? メアリー、なにやらエクルの様子が前と違うのは気のせいか?」


 座る直前、ふと後ろの長椅子に座る、スマルトと話すエクルの様子を見て疑問に思い、小声で尋ねた。なにやら今朝見た時から比べて、憑き物が落ちた……というよりは、背負い込んでいた重荷の背負い方を変えて持ちやすくした、というような姿勢を変えたように見える。


「色々あったようですよ。ひとまずショクの過去の偉人三連星の誰かに告白するので、告白の仕方とかをスマルト君に聞いているようです」

「前向きになったのは良いが、男に告白するのは止めなくてはな……いや、俺の先祖も困るが」


 愛があればスカーレット姉さんのように同性でも良いが、あの男は駄目だ。特殊能力が消えたため将来的にはなにか変化が起きるかもしれないが、今の状態であの男と付き合うとかは絶対に阻止しなければならない事である。

 ……俺の先祖に対してであれば、まぁ、恋愛関係になれば大人しくなりそうなので、恋愛に発展すれば良いとも思うが、人身御供のようで嫌である。本気なら応援はするが。


「しかし、シルバは仲良さそうだな。このままだと――」

「しっ。駄目ですよリオン君。シルバ君は現在無自覚恋愛、ギンの片想い期間中なんです。一番楽しい時期を周囲が壊してはなりません!」

「……その楽しい時期、というのは周囲から見て、特にメアリーから見て一番楽しく思える、というやつではないか?」

「ですね!」


 俺の問いにシルバ達には聞こえないようにしつつ笑顔で答えるメアリー。

 ……ただ楽しむだけのために妨害したりするのならともかく、実際シルバはまだ無自覚な部分があるであろうし、ギンも周囲から話されるのは嫌がるだろうから、見守るという点では間違っていないので、メアリーの楽しそうな笑顔も見られるからここは黙っておこう。


「しかし、機嫌が良いなメアリー」


 エクルやシルバの件を抜きにしても、やけにメアリーのテンションは高い。結婚式の出席は初めてであると依然言っていたのでおかしくはない。ないが、メアリーに聞く事で楽しみにしているという感情を見る事が出来るであろうからあえて聞いた。


「もちろん良いに決まっています。先程ドレスを見ましたが、本当に素晴らしい姿で――あ、リオン君は見ましたかっ?」

「いいや、まだ見ていない。本当は式の前に控え室に行き挨拶に行く予定だったが……」

「まさか気まずくて行かなかった、とか……?」

「ん? 違う。兄さんが何処かに潜んでいるかもしれないからな。警戒していたのだが、先程姉さんの遣いが来て、対面で監視しているから問題ないという報告を受けたから、問題ないと判断した」

「あ、だから来るのが遅れたんですね」


 なにせあの兄は王国も帝国も滅ぼすのに躊躇いが無かった。出来なかったのはローズ姉さんにバレそうになったから早めたのと、あのタイミングが最高点だったから実行しだけで、一旦隠れて数ヶ月もすれば両国崩壊はやろうと思えばやれたであろう。

 しかもそれをやった理由が単純に後になにがあっても良い――どうなっても良いという思考の元で行った破滅行動だ。それを語った時のカーマイン兄さんの表情は一生忘れる事が出来ないだろう。

 だから今回もなにか仕込んでいるかもしれないと、ここ数日は計画の兆候が無いかを探し、芽を潰していた。今日もなにかないかと探していたのだが、大丈夫だと判断して着替えてここに来た。そうしていると挨拶できる時間は過ぎていた、というわけである。


「ではドレス姿は式中に見れる訳ですね! ヴァイオレットもシアンのも素晴らしい出来でしたよ。クロさんの集大成、という感じでした!」

「それは楽しみだ。以前を超えられる衝撃を楽しみにしているよ」

「以前ですか?」

「学園祭の時だ。あの時のドレスは、俺の認識を変えたよ」


 ヴァイオレットをまだ敵と見なしていた学園祭。

 大人しくしていてもいずれ化けの皮が剥がれると思っていた。しかしその認識は徐々に薄れていき、学園祭のパーティードレスを着たヴァイオレットを見た時にはバラバラに崩れ落ちた。

 既製品には無い、ヴァイオレットを想って作られたあのドレスは、俺のあらゆる認識を壊した。

 “ヴァイオレットは愛されている”

 そんな、今となっては当たり前に思える事が、その時までありえない事だと認識していた事に気付いたのである。


「だから、あの時以上の衝撃があるのではと正直期待している。もしもう少し時間があっても、敢えてここで見るために挨拶にはいかなかったかもしれないな」

「ここで見るため、ですか」

「ああ」


 今日の俺は客だ。

 ヴァイオレットとはもう関係ない、ただの一般客。

 その立場で俺は、近くにいるけれど、確かな距離がある場所でまずは祝う。衝撃を受ける。自分とは関係なく幸せなヴァイオレットを見る。

 ……という、自分でも面倒だと思う考えがあるのである。


「……見るのは良いですし、衝撃を受けるのも良いですが、見惚れるのは駄目ですからね?」

「保証できないな」

「そこは保証してくださいよ!」

「残念だが無理だ。クロ子爵の腕前は確かであるからな。なにせメアリーも見惚れたんだろう? であれば俺だけ見惚れるなは酷というものではないか?」

「う、そ、それはそうですが……」

「だが、他に見惚れてもメアリーには何度も惚れるし、別の見惚れる存在を見て新たな惚れるメアリーを見つける事が出来る。それでは不満か?」

「…………。私以上に惚れる相手が出来るのは駄目ですからね?」

「ああ、それは保証出来る事だな。断言出来るよ」


 俺がそう言うと、メアリーは顔だけそっぽを向いた。恐らく今の表情を見られたくないのだろう。。

 そんな可愛らしいメアリーを見て、その向いた先には今は誰も居なくて良かったと思いつつも俺は小さく笑うのであった。


「ふぅ、ただ今戻りました。おや、リオン、来ていたのですね」

「おかえりアッシュ。なにやらシキの皆々の所へ行ったと聞いたが」

「大丈夫です、勝ちました!」

「……そうか」


 そしてこの幼馴染はなにと戦ってきたのだろうか。もうその発言が負けていないか。

 色々思う所はあったが、下手を言っても良くないので納得の言葉だけ返しておいた。



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