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茶青の過去と現在_2(:茶青)


View.アッシュ



 始めの印象は大人しく、公爵令嬢に相応しい気品がある女の子だと思った。

 少し経つと外見と中身は一致しないと私が実体験として学ぶほどには、我が儘で相手を見ない女だと思った。

 しばらく経てばいかにやり過ごすかを考えるような災害で、更に経つと好きな相手を愛する敵になった。

 彼女は如何なる事があろうと分かり合う事はない、理解する事も出来ない存在だったのである。







「そういえばアッシュ君は結婚式には今まで出席はした事あるんですか?」


 式が始まるので周囲が席に着き立つ者が減って来た中で、メアリーのチョロい疑惑に関してはどうにか宥める事で終息し(否定は一切しなかった)、落ち着いた様子になったメアリーが隣に座る私に聞いて来た。私に話をするのは、私の反対隣に座る予定のヴァーミリオンがまだ居ない事と、姑息にもギリギリまで席に着こうとしないメアリーの反対隣に座る予定のシャルが居ないからだろう。なお、エクルは私達の一つ後ろの列の長椅子に座り、なにやらスマルトと告白について話しており、シルバは同じく一つ後ろの席で最近仲良くなったサーカス団の女性(ギン)と仲良く話している。


「このように教会で開くパーティに関しては初めてですね。基本嫁ぎ先、婿入り先の屋敷の大広間や庭で立会形式でやるものなら何度か経験があるのですが。メアリーは?」

「故郷で遠巻きには見た事はあるのですがね。前に居た所では色々と縁が無かったので、こうして間近で見られるのは初めてですよっ」


 可愛い。そう思いつつ、遠巻きという言葉や前に居た所という前世の話に、何処か過去の暗さを感じつつ微笑ましくなる。

 過去になにかあったかは関係無い。ただ今こうして友人の結婚式に出られる事を心から喜ぶメアリーが居て私はとても嬉しいのである。


――本当に、過去から考えると今の状況が信じられないな。


 新郎の一人は裏や損得無しに誰かを助けるような、利益で物事を考える私にとっては利用はしても相容れないような男性だ。

 新婦の一人も自分の信じる者に対しては誠実で、目的のための犠牲を許容できずに真正面からぶつかるような相性の悪い女性だ。あと格好が未だに理解出来ない。なんだあのスリット。

 新郎の一人は清濁併せ呑むような部分はあるものの、基本は清を好んで濁は最終手段。大きな利益を捨ててでも小さな幸福を守るような男性。

 そして新婦の一人。

 主であるヴァーミリオンの婚約者であり、私が生涯を通じて仕える主となる女性。

 貴族としての在り方やしたたかさへの価値観など相容れる部分はあった。

 外見や所作は美しく立派であると認められるほど素晴らしいものであった。

 だがそれらのプラスとして積み重ねを、全て崩すどころかマイナスになるのがヴァイオレットという女性であった。

 彼女とは今後分かり合える事はない。学園から追い出された後は文字通り理性の無い犯罪者扱いで問題無い。そう思っていたのである、が。


「? どうかしましたか、アッシュ君」

「……いえ、式前に忙しく、挨拶が出来ていなかった事を憂いていましてね」

「なるほど。という事はドレス姿やスーツ姿も見ていないのですね。どちらも素晴らしかったですよ!」

「ふふ、それは楽しみですね」


 しかし今は、分かり合えない存在と思っていた女性は、むしろ私にとって憧れの存在となっている。

 好きな相手と別れ、新たな恋を見つけ、愛を育み幸せとなる。

 私にとってそれはこれから目指すべき領域だ。

 かつて敵対していた彼女に対して、メアリーとは別の方向性で衝撃を私に与えてくれた。ヒトは変われるのだと教えてくれた。

 そして今は彼女の結婚式に好んで出席だ。予定が延び延びな、社交の場などなにもない二年ほど前の私であればまず考えられない行動である。……本当に、なにがあるか分からない。


「もうすぐ始まるなぁ」


 と、私が自分で自分の変化に驚きつつも悪くない変化だと内心で笑っていると、他の参加者の声が聞こえてきた。全員が聖堂に座りきれないので、壁に沿って立って式を見ようとしているシキの領民達の声である。


「あの来た当初は色々と拙かったクロ坊がなぁ。成長するもんだ」

「俺達も大分敵対していたからなぁ。まさかこうして結婚式に進んで出席するとはなぁ」

「楽しみ過ぎて眠れなかったくらいだからな」

「アンタ達は眠れなかったんじゃ無くて、かこつけて飲み明かしただけでしょうに。私もそうだけどね」

「シアンちゃんも最初と比べて変わったよな。最初は荒れてたし、今は明るく誇れるシキのシスターだからな。……ドレスにスリットは入れてねぇよな」

「無いとは言えねぇのがシアンちゃんだからな。だが楽しみだ」


 どうやらシキの領民も、過去と今を比べて自身の変化を好ましく思っているようだ。今の自分を笑い話として言えるくらいには。

 そんな話を聞いて、私は微笑ましく――


「しかしクロ領主様が来てからだよな。己の欲望に忠実になった奴らが多くなったの」

「それまでは変な奴は流れて来るが、それなり抑えていたからなぁ」

「だが今の方が過ごしやすいよな。でなければウサミミ海パン姿で出歩けねぇよ」

「やっぱり月夜には全裸に月光浴よね。……ヒトに見られたらクロさんに怒られるけど」

「シアンちゃんのスリットは真似すると癖になるわよね。谷間スリット最高!」


 ……微笑ましくないな。

 流石に私はその方面に関しては賛同は出来ない。なにせクロさんと一緒で、苦労する立場だからな……


「あと気のせいかもだけど、ここ一年で女の肌を見る機会が増えた気がする」

「スリット太腿は以前からだけど二倍に増えたし、後は美に裸マントに……昔だったら嬉しく思うし、興奮したんだろうけど……なんかちげぇよな」

「ああ。というか急に増えた時期って……大体学園生が調査に来た時期からか?」

「そんなものだな。つまり、そっちは学園生が関係しているのか?」

「領主様と似た特性を持つ存在が来たから……つまり」

「「「「……アッシュ様?」」」」


 おい待て。


「メアリー、申し訳ない。――私はどうしても戦わなくてはいけない時が来たので、ちょっと席を外しますね」

「ま、待ちましょう。本気で思っている訳ではないはずですから、待ちましょう?」

「可能性があると思われているのが駄目なんですよ! 流石にそこまでは面倒う見切れねぇ!!」

「アッシュ君、口調が!」


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