黄緑と心情_3(:白)
View.メアリー
カルヴィン家の宝刀、ファンからの愛称(?)はラブラブソード。
性能は破格といえど、刀であるのに条件を満たさなければ鞘から抜けないという、重大な欠点がある武器です。
その条件とは、失伝していて細かな条件は不明ですが、カサスによるとカルヴィン家一族が愛する者を守るために使う時に抜く事が出来る、です。ようは主人公を守るために覚醒して使う武器です。
――それを抜けるようになったと言いませんでしたか……?
正確には“鈍器以外でも使えるようになったとはいえ”です。まるでその言い方だと、今までの刀が使えない時の丈夫な棒状の鈍器として扱っていたのとは、違う使い方が出来るようになったように聞こえます。
そして違う使い方で真っ先に思い浮かぶのは、正当な使い方である抜刀しての使い方です。他にも考えられる事となると、抜かないまま構えて、鞘部分に魔法を纏わせて擬似的に斬れるようにする、という方法などでしょうか。シャル君はヴェールさんほどでなくとも充分魔法の才も引き継いでいるといえる程度には魔法の扱いも出来ますし、こちらも考えられる意味ではありますが……
「シャル君、先ほどの鈍器以外でも使えるように、というのはどういう意味です?」
ぐだぐだと考えても意味が無いと思い、私は素直に聞きました。
するとシャル君は一瞬考えた後、納得したような表情になり言葉を続けます。
「言っていなかったな。先日我がカルヴィン家の宝刀が抜けるようになったんだ」
そういえば、とでも言わんばかりの感じに、かなり重要な事を言ったシャル君。
私やクリームヒルトといった抜ける条件を知っている人達は条件を言ってはいません。言った所でどうにもなりませんし、知ると条件を意識しすぎて抜けなくなる可能性もあるからです。
しかし条件を満たして抜いたというシャル君。つまりそれは誰か愛する者を守るために――カサスでシャトルーズが終盤のルートで熱い展開の中で抜いた時のように、恋が愛に変わる瞬間があった、ということなのでしょうか。
もしくは別の条件があって、その方法で抜いたとかもありえそうですが……
「例えばブライさんに相談して、その影響で少年の熱さに目覚めてしまったとか……」
「メアリー、なにかとんでもない勘違いをしていないか? 彼にも新しい鍛冶の女性にも相談はしたが、分からんと一蹴されたぞ。抜けない刃物に興味はない、とな」
愛で抜けるのなら、ある意味少年への愛に溢れているブライさんなら抜ける条件を満たしているのではと思いつい口から漏れ出てしまいましたが、流石に違うようです。後アリスブルーに関しては名を聞いていないのか、相変わらず言えないのかどっちなんでしょうね。
「しかし、そう言うという事は、やはり思いの強さが影響しているのか?」
「あ。えー、と。質問に質問で返して申し訳ないですが、やはりと言うのは、何故そう思ったのです?」
「抜けたキッカケが、先日安全確保のための周辺討伐をした際でのそういう場面だったからな」
言葉を敢えて濁しているのか具体的場面は分かりませんが、どうやらカサスと同じ条件で抜けているようです。つまり、ええと……
「……シャル君、もしかして好きな人が出来たのでしょうか」
その言葉は始めグッと飲み込もうとしたのですが、私は聞きました。
聞いて良い事なのか、曖昧にした方が良いか。
迷いましたが、抜ける条件を話すのならば、抜いたシャル君は条件を満たしているので対象がいる事を話しているのも同義です。なので失礼を知りつつも、聞いてみます。
「と、言うと?」
「抜ける条件は簡単に言えば“好きな人を守るために使う”です。なので、その、もしかして……」
「ほう? だが、“好きな”はどちらかというと“愛する者”のため、と言った方が良いのではないか?」
「え? あ、はい、そうですね」
「であれば、私は王国民の騎士見習いとして、国民を愛している。それも世話になり視野を広げてくれたシキの領民を守るため。というのも当てはまるのではないか?」
「なる、ほど……?」
確かに愛する者、の対象は曖昧ですし、主観が多分に混ざっています。
シャル君の言っている事もおかしくはない……のですが、私としては気になる所ではあります。しかしカサスとは条件が違うかもですし、同じでも実際に抜けたのですからとやかく言う事でもありません。
「では、使用感に関しては後で聞かせて頂きますね。というより実際に見たいですから、式が終わったら、もしくは明日にでも実際に良いですか?」
「構わないぞ」
ならば結果として受け止め、伝家の宝刀が一体どの様な物かを知る事を優先させましょう。なにせラブラブソードは、その威力はまさに破格。RPGだったら全能力ステータスの二倍とかそんな感じの刀です。実際に見てみたいというものです!
「なにせ俺も驚くほどの刀だった。興味を持つのも無理はない」
「まさに代々継がれているだけはある! という感じですか?」
「そうだな。その興奮のせいで他の者に話すのを忘れるほどな」
「誰かに話はしたのです?」
「抜く時にその場にいた相手には、な。愛しの彼女に最初に見せられて良かったと思っているよ。あの時は二人して盛り上がったものだ。斬れ味が素晴らしいとか、雑味がないとかな。自分達でもよく分からない事で盛り上がった」
「はは、余程凄かったのです――ね?」
あれ、シャル君、また聞き捨てならないことを言ったような……?
「シャル君。今、誰に最初に見せられたと言いましたか?」
「愛しの彼女だ」
「ええと、愛するシキの領民を守るためなのでは……?」
「当てはまるのではないか? と聞いただけで、今回俺がそうだったとは言っていないぞ」
「え、じゃあ、誰――」
誰ですか、と最後まで言い切るよりも早く、シャル君は人差し指を自身の顔の前に置き、それ以上は言わないようにとジェスチャーを送ります。
「式が終わったら、もしくは明日にでもなのだろう? それ以上はこのままであるし、なにより」
「な、なにより?」
「……さて、そろそろ式が始まるな。席に行こうか、メアリー」
「え、ま、待ってください、なんでそこで止めるんです!?」
「止めた所で世界は滅びないからな」
「その返答はなにか違う気がするのですが!」
「なんの事か分からないな!」
そう言ってスタスタと席へと向かっていくシャル君。
分かりやすいと思っていた友人は、やはり肝心な所で最も読めない。そう思いつつ、私はシャル君を追いかけるのでした。




