~控え室から、会場へ。-灰と杏-~
~控え室から、会場へ。-灰と杏-~
「ついに始まるな、【混白せし卿極の宴】が!」
「はい、ついに始まりますね父上と母上、神父様とシアン様の結婚式が!」
「今まですると決めてから災厄天災が振りかかり続けたため、今回もなにかあるのではと警戒はしていたが……」
「ロボ様の巡回殲滅、トウメイ様の魔法的浄化、ゴルド様のなんだかよく分からない一日持つ結界など、様々な方面から安全を確保いたしましたから、今回は大丈夫ですね!」
「その通りである! ……古代、女神様、天災。それぞれにより守られる結婚式は逆になにかが起こりそうであるな」
「神話として語り継がれそうですよね。実際母上もシアン様も神話に出てこられる天使、というような表現が似合うほど神々しかったです」
「うむ。試着の時は見れなかったが、改めて今見て我も思ったな。純白のドレスを身に纏うシアンさんとヴァイオレットさん……天使の梯子の光が似合いそうなほど似合い、幻想的であった」
「いずれアプリコット様にも着せますからね!」
「ごふっ。……グレイ、確かに我は似合い、素晴らしいとは思ったが、自身が着たいと言う意味で言った訳ではない」
「そうなのですか?」
「うむ」
「つまり私め達の結婚式は開かないということなのでしょうか……」
「そ、そういう意味でもない! 我がドレスを着るとしたら純白よりも漆黒のドレスが良いと思っただけだ!」
「漆黒のドレスですか?」
「うむ、烏の羽のように黒く、昏く、艶のある。魔法使いの衣装と言えば黒が似合うように、我には漆黒のドレスが似合うであろう!」
「なるほど、つまり“貴方以外の何者にも染まらない”という意思表示なのですね!」
「え、なにそれ」
「父上が仰っていましたが、漆黒のウェディングドレスにはそういう意味があるそうですよ? アプリコット様もそれをお聞きになったのではないのですか?」
「クロさんの日本という国では、というやつか。本当に色々あるのであるな……」
「いえ、世界的に父上の生きていた三百年以上前から流行っていたとか」
「異世界とは凄いな。魔法もないなど想像もできない文化が多いと思えてくる」
「そうですね、いきはじウェディングドレス? なるものも流行っていたと聞きますし、国が違えば常識が変わるように、世界自体が違うと想像もつかないものでしょうね……」
「そのドレスはおそらく一部の界隈の中でも、さらに特殊な部類であるから一般化扱いはやめた方が良いと思うぞ」
「つまり……シキのようなものであると?」
「それは、そうかもしれぬが、その言い方をするとクロさん達が悲しみそうであるから控えておくが良いぞ」
「分かりました!」
「うむ、良い返事である。しかし漆黒のウェディングドレスはあるのか……今度どんな物か聞いてみるか」
「私めが話をしておきましょうか。私め達の将来に関わる物ですし」
「う、うむ。(理解していないや見通しが甘いというのもあるのであろうが、まっすぐ信じて疑わぬ辺りがグレイらしい。……その辺りを指摘すると、僕のほうが反撃を受けそうであるな)」
「どうかされましたか、アプリコット様?」
「気にする事ではない。単に将来の我とグレイの歩みがさらに楽しみになっただけである」
「何処でそのような事を――わぷっ。何故頭を撫でられるのです?」
「未来の話をしたから楽しみになっただけだ。それ以上でもないし、撫でるのは……そうしたいと思ったからである」
「は、はぁ。そうですか? 嬉しいので良いのですが……ええと」
「どうかしたか?」
「先程髪をセットして頂いたので、崩れていないかと心配でして」
「おっと、すまぬ。スミレさんにセットして貰っていたな。……ふむ、これからちょっと整えるだけで大丈夫であるな。我に任せるが良い」
「ありがとうございます。しかし、スミレちゃんは凄いですね。私めのセットを一分もたたずに終わらせ、それでいて手抜きをした訳でもなく素晴らしく仕上げなさるのですから」
「ヴァイオレットさん達のセットも、物の数分で終わらせたと聞いたからな。我も負けてはいられぬな」
「アプリコット様の対抗心が燃え上がるのです?」
「このままだとグレイのセットをする機会がある時、全てスミレさんに任せる羽目になりそうであるからな。我の……伴侶の見栄えを良くするためにスミレさん任せというのも、な」
「なる、ほど……」
「あの早さには勝てぬが、クロさんがドレスを縫ったように、その者にとっての最適解、というような方向性を目指すつもりである。流石にグレイを想う気持ちに関しては負けられぬ」
「…………」
「あのドレスだけでなく、神父様のスーツもクロさんの思うシアンさんから見た――と、うむ、これでセット完了だグレイ。……グレイ?」
「あ、はい、どうかされましたか?」
「セットが終わったのだが……心ここにあらず、といった様子だったな。どうかしたのか?」
「な、なんでもありません。さぁセットが終わったのならば会場に行きましょうそうしましょう」
「そっちは控室であるぞ」
「あ。ではこっちですね!」
「そちらは窓で外に出るだけだ。……どうしたのだ、グレイ?」
「な、なんでもありません。本当になんでもないですから、行きましょう!」
「あ、待つのだグレイ!」
「待ちませんことよ!」
「本当にどうした!? なんだか顔も赤いようだし、もし熱があるのなら早めに言うのだぞ!」
「大丈夫です、なんでもないです、これは恐らく私めでどうにかすべき事ですからー!!」




