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黒とクロの感情論


「なんか嵐が過ぎ去った後のようだな……」

「むしろ前置きじゃないか?」

「というと?」

「ヴァイオレットさんやシアンのドレス姿に、シキ領民に王侯貴族の祝福、式をこなしてもそのまま解放されるとは思わないような前夜祭レベルの当日祝杯」

「それを言われると確かにカーキー達が前置きのようだ……けど、楽しい嵐という感じだな」

「確かに」


 カーキー達と一通り話した後、四名は教会の聖堂に待機すると言って去って行った。スノーが言うように嵐が去った、という感じは共感はするが、本番はこれからだ。とはいえ、馬鹿みたいな話が出来たので緊張がほぐれたのは確かである。もしかしたらカーキー辺りはその辺も狙って来たのかもしれない。


「おや、また来客か。どうぞー?」


 一息吐いてそろそろ互いの花嫁のドレスが着用終えたかもしれないので行こうかどうかを悩んでいると、扉がノックされた。どうやら来客のようである。

 ……ノックがあるだけでちょっとした安心感を得られるのは、先程までが先程までだったからなのだろうか。


「失礼します。ここってクロの――ああ、良かった。神父様の声だから間違えたかと思ったよ」

「ネロか。どうした?」


 入ってきたのは俺を数歳若返らせたような、古い鏡を見せられているような感覚に陥るが、ヴァイオレットさん曰く「例え彼が数歳年をとっても一目見ただけで違うと分かるレベルだぞ?」という、俺とほぼ同一存在の他人であるネロだ。

 身に纏っているスーツは既製品……を、改造して自分なりにアレンジしたスーツのようだ。目立ちはしないが見る人が見れば良い作りであると分かるような、俺が出席者であれば似たようなものを作ると思うようなスーツである。


「祝辞か? それとも気合を入れるために殴りに来たか?」

「後者をするとヴァイオレット様に怒られそうだからやめておくよ」

「その程度じゃ怒らないと思うぞ。俺はそんなに弱くないから、男同士の友情という感じで」

「よし、言い換えよう。それすらもお前らのイチャイチャに変えられそうだからしない」


 なるほど、否定出来ん。どこがどうなってイチャつくのかは分からないが、なんだかんだでイチャつきそうではある。それを分かっているとは流石はネロである!


「まぁ俺が来たのはなんと言うか……祝辞もあるが、確認? になるのかな」

「確認?」

「ああ」


 ネロはそう言うと、俺の姿を上から下まで見る。そして次にスノーを同じように見た後、再び俺を見た。


「うん、ムカつくからやっぱり殴って良いかクロ」

「喧嘩売ってるのか? 残念ながら今日は既にクリと殴り合って怒られてるからやめておく。一方的にそっちが殴るのならまぁ良いが、殴り合いなら明後日以降にしてくれ」

「そこで明日、と言わない辺りの理由が分かるのが嫌だな……」


 スノーはよく分かっていないようだが、ネロは俺の発言の理由に気付いた。気付かなかった方が良かったと一瞬思ったが、気付かずに聞き返したら理由を話される羽目になったから気付いた方がまだダメージが少なかった、というような表情である。

 ちなみに明後日の理由は今日が結婚式だからだ。それ以上に理由は必要ないであろう。


「スマン、殴りたいなんて急に言ってしまって。結婚式というめでたい日なのにな」

「構わんが、何故急に殴ろうと思ったんだ?」

「あー……理由は分からないか? 我は汝、汝は我みたいな感じなんだからさ」

「別に俺とお前の関係性はペル〇ナ的な感じじゃないからな。分からない物は分からないさ」


 例え俺がフューシャ殿下に触れても妙な事が起こらない、という状況になってもネロのように仲良くなれる(あるいは惹かれる)とは限らないように、なんでもかんでも分かりはしない。予想できる奴もあるが、全く分からない事だってある。例えば今の状況がまさにで

ある。


「なんか、クロの衣装を見たら“こりゃ敵わんわ”と思ってな」

「敵わない?」

「俺じゃこんな風に幸せですみたいなオーラを放てない、と思っただけだよ。そう思うとチクショウと嫉妬心が湧いて出て来てな。一発殴らにゃ気が済まんぜと思ったんだよ」

「可愛くて美人でもあって身体能力が高くて身体もセクシーで依存レベルで好いてくれる女の子が居る奴が幸せを嫉妬するなよ」

「そういう事じゃねぇ!! あと依存とかはされてないからな!」

「はは、分かっているよ」


 今の台詞でなんとなく言いたい事は分かった。先程俺とスノーを見たのは、俺が(つく)ったスーツを見て、自分には無い感情が込められた服の仕上がりに今の自分には縫えない領域の服だと思った、というあたりだろう。

 そう思ってくれるのは嬉しいし、実際今の俺が縫ったスーツもドレスも今までで最高に納得のいくものに仕上がったからネロの腕には勝っていると思う。

 けれどネロが似たような服を絶対に縫えないかと問われれば俺は真っ先に否定するだろう。いずれ辿り着く――いずれ知る事が出来る感情であると、ネロとフューシャ殿下を見ていると思うのである。


「ええと、クロとネロはつまり……そうか、巨乳の女の子が好きだという話なんだな!」

「「神父様(スノー)は黙っていて」」


 今回の会話は他人には難しいとはいえ、相変わらず感情関係の会話には疎いスノーである。


「ち、違うのか? でもお前達は巨乳が好きじゃないのか?」

「「…………」」

「目を逸らすな。おーい?」


 ……まぁ、うん。ヴァイオレットさんが小ぶりな胸でも好きに変わりはないが、それはそれとしてというものもあるのである。


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