水銀の新たなる目標
「話は聞かせて」
「頂きました!」
「だ、誰だ!?」
なんだろう、この登場の仕方流行っているのだろうか。
しかし今回は本当に誰か声では分からない。男性のようで女性な声と、女性のようで男性のような声の二人組。シキの領民ではないと思うが、一体誰だ?
「私の名は謎の男X!」
「私の名は謎の女μ!」
「ほ、本当に誰だー!?」
現れたのは見た事もない姿をした、怪盗のような仮面を被った男を名乗る女と、能面を被った女を名乗る男であった。
スノーもシキの領民か知っている人だと思っていたのか、全く見た事ない男女に混乱しているように見える。パールホワイトはスノーが知らない相手という事で警戒をし、カーキーは頭に「?」を浮かべそうな表情で見た事あるようでない彼らを見ている。
「あまりスノーを揶揄わないでくれるか、シュイ、イン」
そして俺は初めて見るが、知っている相手の名前を呼んだ。俺が名前を呼ぶと、スノーとカーキーは納得したような表情になり、パールホワイトは知ってはいるが記憶と違う姿の二人に疑問符を浮かべる。
「なんだ、バレていたのですね」
「この仮面の下の顔が結婚相手で、一瞬で見抜けるかどうかを試したかったのですが……」
「そういう人を試す行為は控えた方が良いぞ。相手を傷つける可能性もあるからな」
「「はーい、元に戻りますねー」」
「!? 姿形が変わった!?」
俺が指摘されると、仮面の下の顔がヴァイオレットさんとシアンに似ている姿だった二人が、基本と言える身体の外見に戻る。パールホワイトはその変化に驚いているのを見ると、最初はそんな風だったと懐かしむような表情でスノーとカーキーは見ていた。
「クロ義兄さん、この二人は一体……?」
「シュイとイン。身体が水銀で出来ていて外見を自由に変えられる、ゴルドさんの従者二人だ」
「何故水銀で出来ていると姿形を変えられるんだ?」
「さぁ……分からない。ゴルドさんのする事は結果だけ見て“なっとるんだからしようがないじゃろがい”の気持ちでいる」
「倫理観大分やばいんじゃない?」
「否定はしないが、そこを突っ込むと彼らの存在を否定するかもだから言わないでやってくれ」
「了解だ」
水銀が意思を持って生命体になっているだけでも「!?」な状態なのに、そこを突っ込むと間違いなく頭を痛める事になるだろう。分かるのは姿や声などをマネできる特徴を持つ二人、という事である。現実逃避とも言う。
「ところでシュイとインは試したかったから来ただけなのか?」
「正直言うと最初はそうです」
「私達の模倣が愛を超える日はいつ来るのかと思いつつ」
「今日こそ超えて見せると来た訳なのですが」
「スタートラインにすら立てていない事に絶望しました」
「なので新たな目標として、エッロイ女性になる事で神父様の劣情を煽る形で」
「なにやら迷われている神父様を――」
「「発破をかけようと画策中です!」」
「やめてくれ!?」
この二人ゴルドさんの影響を受けてやしないか。そして交互に連続で話すのはこの二人の仲で流行っているのだろうか。前もそうだったような気もするが。
「我々はこれでも最近は自分の意志で色々とするようになったのですよクロ様」
「以前と比べると主が落ち着き、独りで行動するようになられたので、ゴルド様の影響は微々たるものです」
「心を普通に読まないでくれ。というかそうなの?」
「はい。グレイ様の影響で前を向き始めたので、ゴルド様の傍迷惑、捕まった方が世のため、意志のある嵐な部分は緩和されました」
「正直私達の最後の役目は世界を滅ぼそうとするゴルド様と心中する事だと思っていたのですが、緩和のお陰で違う目標を見つけている最中なのですよ」
凄い言われようだなゴルドさん。今までを考えれば当然なのかもしれないが。あとグレイはよくやってくれたな。なにをしたかの詳細は分からないが、グレイが自分の意志でゴルドさんを救ってくれた事を誇らしく思う。……まぁそれでも迷惑な事をしているのは間違いないのだけどな。
「という訳でまずは!」
「私達は姿形を変える事で!」
「相手の劣情を煽り!」
「満足させられるのかを!」
「「試すために実験台になるのです神父様!」」
「と言いながらシアンと義母さんの姿になろうとするな!? というか義母さんの方はいつ知った!?」
うーん、これはゴルドさんの傍迷惑な部分の軽減部がこの二人に移動しただけではなかろうか。まぁ元気にはやっているようなので良いと言えば良いのだが。なんか今まで付き従っていただけの子供が大人になって自分なりの道を探しているように見えるし。
「シュイ、イン。――それ以上やるなら考えがあるぞ?」
「ハッハー! ――無理矢理をする子には、お仕置きが必要だぜ?」
「うーん。――第三者から見て反省したよ。兄さんを困らせるなら止めないとね?」
「「ご、ごめんなさい!?」」
それはそれとして、迷惑になるのなら周囲の大人がキチンと止めなくては。俺達はヴァイオレットさんやシアンの着付けが終わるであろう時間まで、二人をキチンと説教したり、どうすればキチンと変身できるかを話し合うのであった。




