黄茶の励ましとフォロー
「話は聞かせて貰ったぜハッハー!」
「誰だ!?」
誰だ、じゃないよスノー。声と笑い方で分かるだろうし、普通に姿も見せてる。それとも痛くないのについ「痛っ」って言ってしまうような感じなんだろうか。あるいはノリだろうか。
「カーキー・ロバーツ! 緊張していないか見に来たら、聞き捨てならない会話が聞こえたからやってきたんだぜハッハー!」
「カーキーか。妹さんから立ち直れたのか?」
「妹については触れないで欲しい。めでたい日という今を見るべきなんだぜ! そうだろう、素晴らしい衣装で元の良さが余すことなく表現されている親友達よ!」
カーキーは数日前に見せていた、シキの領民達が本気で心配していたなにかに怯えている姿は一切見せず、いつも以上に派手なスーツでいつもの明るい調子で俺達へと近づいてくる。この姿に安心感を抱くのは大分毒されている気もするが、まぁ正直この調子のカーキーは好きなので良い事だと思うとしよう。
「そんな親友の一人が、余る欲求という愛を抱えて結婚式に出ると言うのが聞こえたから、これはイケないと思いこうして登場した訳だが」
「間違ってはいないが改めて言われると複雑だな」
ただ問題はこの後なにを言うか、だ。カーキーだからパールホワイトに同意する可能性も無きにしも非ずだし。
「だが、カーキー的には俺の行動はよくない。パールのように我慢せずに行け、とでも言いたいのか? 悪いがそれは――」
「違う。このままだとドレスを着たシアンを見ると意識してしまいそうだから、シアンと会うのは結婚式中でだ、と思いかねないからな。不安を抱いているのはスノーホワイト、お前だけじゃないかもしれないのだから、キチンと自分の気持ちに整理をつけ落ち着かせた状態で、式の前にドレスを身に着けたシアンに会うべきだぜと言いたかったんだ」
至極真っ当なアドバイスだった!
でも確かにスノーであればそうするかもしれないな。流石はなんだかんだ言いつつ、雑に扱われつつもモテているのは間違いないカーキーらしい気づきと気遣いである。
「確かに……俺のことばかりで、シアンの不安を考えていなかった」
「おっと、そこで自分を卑下するものじゃないぜ。気付き、行動に移そうとしているのならそれで充分なんだ」
「だが、カーキーに言われなくては気付かなかったぞ。自戒をすべきだろう」
「程度によるという話だ。俺がこうしてアドバイスしたのも、今までのスノーホワイトがいたからアドバイスをしたんだ。つまり今までの自分が、今の自分を助けただけなんだから、卑下まで行くなという話だ。自信を持つんだぜハッハー!」
「そ、それで良いのか?」
「そもそも卑下した男に慰められたら気を使わせるだろう。自信を持っていけ、スノーホワイト!!」
「あ、ああ!」
やだカーキーさん格好良い。凄くスマートにフォローもするし励ましてもいる。しかしそうなるとパールホワイトの方もなにかスマートにフォローをするのだろうか……
「ミセス・パールホワイト。不満があるなら俺が受けるから、解消のため抱かれる気はないか!」
こっちは相変わらずだった!
「残念だが私は夫より強い男でなければ抱かれる気はない。そして既に最強の夫が居るから生涯の相手はカラスバだけだ!」
やだ、弟の嫁さんが格好良くて愛されているのが分かって兄として泣いちゃいそう。
「ミセス・パールホワイト。貴女の一族の伝統を否定するつもりは無い。大事な伝統なんだと理解できるし、俺も可能なら乗っ取って行動をしたい所だ。しかし伝統は格式を高め、誇りを持続するための物だ。スノーホワイトにとって行えばその両方が崩れるとなれば、俺は全力で止めなくてはならなくなる。合わないが故に伝統を行えず、苦しんでいる親友を見たくないからな」
と、思っていたら思ったよりも真剣な感じでフォローをし始めた。先程のは本音も一部あるが、場を紛らわせるためのジョークの類だったのだろう。
「うむ、正直言うと私も言いに来ただけで正直どうかとは思っていた」
「と、なるとやはり“もし悩んでいたら発破をかけるために言った”という事で良いんだぜ?」
「そんな所だ。この兄はそのくらい言わないと駄目なレベルだからな」
「ハッハー、分かるぜ!」
「スノー。妹と親友に“こいつ鈍いから世話が焼ける”と言われてるが、どうする?」
「否定出来ないから、今日という日のこれから、大丈夫だと行動で示してみせる」
「聞いたかカーキー、パールホワイト! スノーが二人を参考にしてシアンに今からアタックするってよ!」
「クロ!?」
「そうかスノー兄さん。ではまず身体を抑えてのキスしてチャンスがあれば押し倒せ。私はカラスバにそうした」
「ハッハー、俺のようにというならまずは言葉で攻めて、心を奪ってから同意を得た上で盛り上がるのが良いぜ!」
もしかしなくてもカーキーよりパールホワイトの方が肉食獣だよな。まぁ互いの同意が無い行為に及んだ場合、カーキーのお母さんが地の果てまで追いかけて来て心中を図るらしいからさもありなんかもだが。
『さぁスノー。どっちが良い!』
「どっちも嫌だからな!?」
『我が儘言うな!』
「これ俺が悪い事言っているのか!?」




