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~そういう事も、あったかもしれない~


~そういう事も、あったかもしれない~



「おう、今日の主役様じゃないか。なんで結婚式というめでたい日にそんな複雑そうな表情してんだ」

「ネロか。いや、なに。妹と全力で戦ったら大事な朝からなにをしているんだと怒られてな」

「本当になにやってんだ」

「あと両親から嫌な手紙と、ロイロ姉から夫婦円満なアダルティック写真が送られたりしてな」

「なにがあったんだ」

「と、色んな感情が混じっているが、ヴァイオレットさんに心配されつつも我が身を案じて怒られたのなら結局プラスになるのではと思い、切り替えてこうして屋敷の近くで空気を吸っていたところだ」

「お前はなにを言っているんだ」

「まぁお前も好きな人が出来れば分かるさ」

「分かるかなぁ……?」

「ところでフューシャ殿下とはどんな感じだ?」

「何故その話題に変える。まぁ友人として仲良くやってるよ。さっきも変な方向にいきかけているのがちょっと心配だけどな」

「変な方向?」

「脱ぐ代わり触れ合うタイプのシュバルツ」

「大体把握した。我が王国の第三王女を頼んだぞ、ネロ」

「頼まれても困るんだが……まぁ流石にあそこまではいかないし、いっては困るから気をつけるよ。友人として」

「ところで屋敷まで来てなにか用か? まさか幸せの最中に居る俺を見て将来の予行演習をしようと?」

「こうならないように気を引き締める、という意味では見ておいたほうがいいとは思うけどな」

「ふ、いずれ分かるようになるさ、ネロ」

「うわ、そのお前はまだこの領域ではないか、みたいな表情腹立つー」

「お前はまだこの領域ではないか……」

「口にすんなや。……まぁそれを言うほど浮かれて、当たり前に幸せということか」

「嫌味か? 負け惜しみか?」

「どっちも違うわい。さっきそんな事を言われたな、と思ってな」

「さっき?」

「ああ。来たのはその件に関してだ。なんかクロの学園生時代の友人みたいな人に会ってな」

「みたいな人ってなんだ?」

「名前を聞きそびれてな。男女のカップルか夫婦みたいな感じだった」

「バフとマルーン……は知っているか」

「ああ。“クロの隠し子か!?”って言われたしな」

「すげぇよな。俺が五歳で父親になっている計算なのに」

「まぁ当時の学園生時代を知っていれば、あの時の姿そのまま、って感じだろうからな。何処かの妻はまぁ似ているけどぜんぜん違う、という程度のようだが」

「愛だな」

「やかましい」

「じゃあ誰だろう。特徴とか有るか?」

「二人とも茶色系統の髪に、人属だと思う。平民の家族とか言ってたから貴族ではないと思う」

「うーん、領主の後に友人になった人達も居るから、そっちかもしれんが」

「いや、学園生時代のクロの事を言ってたし、結婚するとしたら家出してカナリアさんとすると思っていた、とかも言っていた」

「確実に学園生時代だな……」

「あとクロは鈍感クソ野郎だからと言ってたぞ」

「鈍感クソ野郎!?」

「だからまぁ確実に学園生時代の友人だと思う。その友人に伝言を伝えられてな」

「誰か分からないのに伝言か……まぁ内容を聞けば誰か分かるかもな。なんて?」

「女性が“結婚おめでとう、末永く幸せに長生きしてね”」

「ふむ?」

「男性は“俺らのために怒らせてしまってゴメン。でも嬉しかった”だって」

「ふむむ? よく分からんな」

「すまん。結婚式で見かけたら、名前を聞いておくよ」

「頼む。まぁ幸せを願われた事は確かだし、悪意を向けられた訳でもないからな。素直に祝いの言葉として受け取っておくよ」

「そうしてくれると助かる。まぁ用はそれだけ……ああ、それと俺も今の内に伝えておこう」

「?」

「もしかしたら言えるタイミングが無いかもだから今の内に。――改めて結婚おめでとう」

「ありがとう」

「俺の将来のためにも、俺は結婚で幸せになれるとその身を以って証明してくれ」

「安心しろネロ。それはもはや約束された未来という奴だ」

「ははっ、そのドヤ顔腹立つー。なんか【約束された未来】って【エクスカリバー】って読みそうだな」

「攻撃的な意味がありそうだな。約束された、って単語しか合ってないが、言いたい事は分かる」

「いっそのこと――ああ、そうだ。分かった」

「なにがだ?」

「名前。会話中に出てきたけど彼らの名前が聞き取れなかったんだ。けど思い返すとなんて言ったか分かった」

「へぇ? なぜ急に?」

「さぁな。霧で顔がよく見えなかったり、急に名前を呼んでいるのを思い出したり……不思議な感覚だ」

「ふむ。で、なんて名前だ?」

「タンとテラコッタだ」

「――え?」

「だから、タンとテラコッタ。笑顔が眩しい男の人がタンって呼ばれて、明るい女性の方がテラコッタって言われてたな」

「……間違いないか?」

「絶対と言われれば分からないし、あくまでそう呼ばれていたってくらいだよ」

「……そうか」

「? なんか様子が変だけど、心当たりはあるのか?」

「……ああ、俺の親友。バフやマルーンと同じくらい、大切な友人の名だよ」

「へぇ、そうなんだ」

「……なぁ、その時の二人の様子はどんな感じだった?」

「どんな感じと言われても……」

「なんでも良い。小さな事でも良いんだ」

「ええと……クロの結婚式を感慨深くしていたよ。友人として結婚して愛し合う相手が出来た事を我が事のように喜んでいた」

「他は?」

「他……ああ、そういえば」

「なんだ?」

「まるでこの場に居ないような不思議な感覚があったんだよな。霧のせいかもしれないが」

「そうか。……そうかぁ」

「? どうしたんだ、クロ」

「なんでもない。結婚式を前に、ちょっとした奇跡を感じただけだ。よしっ、前向きになれたぞぅ!」

「ど、どうした急に」

「親友に嬉しかったと言われ、幸せに長生きしろと言われたんだ。前向きにならずしていつなるというんだ!!」

「そ、そうだな。じゃあ俺は着替えに戻るよ。そっちも準備怠るなよー」

「ありがとうなネロ」

「じゃ、またなクロ」

「おう、また。…………長生きしろよに嬉しかった、か。そんな都合の良い言葉がアイツらから聞けるとは思えないが……それでもありがとうな、タン、テラコッタ。そっちに行ったら、お前らよりも幸せだと言ってやるから、覚悟しておけ」


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