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橙茶の■■■■■(:黒)


View.ネロ



「はは、そんなに結婚相手のこと好きなのを隠さないのか、クロのやつ」

「まぁらしいと言えばらしいけどね。クロは大事な事は隠すけど、喜と楽の感情は当たり前のように出して隠さないし」

「好きという感情は大事だけど、本人には当たり前すぎて隠す必要が無い、って感じだな」

「そうそう、そんな感じ」


 俺は彼らにクロについて質問され、素直に答えていた。

 貴族の間では情報は重要のため、あくまでも見知らぬ相手に答えられる範囲で答えている……つもりなのだが、気がつけば余計な事も話してしまっているように思える。

 俺の交渉技術が拙いから、というのも在るだろうが、それとは別に、


――クロとは仲の良い友人なんだな。


 という、悪意の一切感じられない、大事な友人関係を築いていると感じられるからだ。

 そう感じる理由は雰囲気と直感という曖昧なものであるのだが……


「しかしアイツが結婚式かー。感慨深いものだ。彼女を通り越して妻が出来るとかな」

「“くっ、見てろ、お前達に負けない相手を見つけるからな!”って感じで私達やマルーン達が付き合った時羨ましがってはいたものね」

「けど、内心は自分はしたくない、するべきではない、という感じだったよな」

「あー、自己評価低かったもんねクロは。服飾以外は」

「確かに、服飾と運動系以外は。後は実家の事もあったから異性と付き合う気はなかったし……クロが付き合うとしたら、正直家出をしてカナリアさんと、と思っていたけど」

「はは、主と従者、というよりは家族って感じだったもんね」


 ……やはり、彼らを疑う事は出来ない。

 話している内容も、声色も、昔を懐かしむような笑い方も、どれをとっても彼らに悪意を感じる事は出来ない。あるのは友人の今を知り、祝う純粋な気持ちである。

 顔がはっきりと見えないのに笑顔が眩しい彼と、明るく朗らかな彼女は間違いなく、クロの味方である。これを疑えば、俺は信じられる物がなくなるくらいだ。


「そういえば知ってる弟君? クロって実はモテてはいたって」

「え、そうなんですか? なんか今まで女性とは縁が無かった、男友達としては見れても異性としては見れない、みたいな感じだったと聞きますが」

「見れないに関しては私もそうだったけど、女子生徒の間では結構悪くない評価だったのよ。なにせ顔もとびきりではないけど良い方ではあるし、たるんでいない引き締まった身体に、コミュニケーション能力もある。気になる女の子が居てもおかしくは無いでしょう?」

「は、はぁ。そうです……ね?」


 すげぇ反応し辛いなこの話題。兄の話題というよりはほぼ俺の話であるし、かといって俺がそんな風な評価を受けているかと言われると肯定し辛いし。どうしても微妙な反応になる。


「であれば貴族の立場が邪魔してモテを実感出来なかった、という感じですか?」

「クロが鈍感クソ野郎だからよ」

「鈍感クソ野郎!?」


 俺はそんな神父様のような感じだったのか!?


「酷い事を言うな■■■■■は」

「でも分かるでしょう?」

「まぁ……自分に自信が無いから、自分の好きという気持ちも他者からの好きという気持ちも、抑えて鈍感になっている感じではあるが」

「他人に対して臆病なのよねクロは」


 そ、そうなのか。俺はそんな感じだったのか……

 い、いや、あくまでもこれはクロの話。俺はよく似ただけであるから違うはずだ! クロのようになるなよ、俺!


「だからそういうのを壊して、結婚して、好きが当たり前のように溢れている事が喜ばしいのだけどね」

「確かに。なーんか心の奥底に暗い部分を隠している感じがしたから、本当に良かったよ」

「暗い部分って、魔法学の時にこっそり■■やバフとやってたオリジナル魔法陣と詠唱的な?」

「それは違う。確かにクロと色々やってたし、心の奥底に封印したくなるが、違う」

「ノートにあったやつだと■■が“括目せよ!”でバフが“我が守護!”でクロが“トレースオン!”がよく入ってたっけ」

「やめないか!」


 ……最近仲良くなったクラスメイトとそんな感じでやっているが、少し控えよう。楽しくは有るのだけど、ちょっと控えよう。具体的には目撃者を出さないようにと、物的証拠を残さないようにしようと思う。


「あ、彼女じゃないかな、弟君の探していた女性って」


 と、俺が何故かダメージを受け、今後に気をつけようと心を引き締めていると女性の方が誰かを発見した。

 指差す方は霧で見えにくいが、確かに俺の探しているフューシャであった。向こうも誰かを探しているような仕草をしており、こっちには気づいていない。


「はい、彼女ですね。良かった、見つかって」

「そうか。ああ、それとあそこに見えるは教会じゃないか?」

「え。あ、本当だ」


 男性が示した方を見ると、教会が少し遠くに見えていた。霧とか廃墟で今まで見えなかったのだろうか。

 ともかくアレを目印にし頼りにすれば迷う事はもう無いだろう。これで一安心だ。


「じゃあここでお別れだ。先に彼女と合流すると良い」

「あれ、一緒に行かないんですか? 結婚式に招待されているんですよね」

「そうだな。律儀に平民の俺達の家族に招待状を送ったからな、クロは」

「ただちょっと私達は寄る所があるから、ここで別れるというだけ」

「そうですか……ありがとうございました。ではまた結婚式で」

「ああ、また」

「またね。ああ、そうだ。クロに結婚おめでとう、末永く幸せに長生きしてね、と伝えておいて」

「じゃあ俺からは、俺らのために怒らせてしまってゴメン。でも嬉しかった、と」

「えっと、はい」


 それは直接伝えれば良いのではと思いつつも、俺は二人に礼をし、フューシャの元へと小走りに向かっていく。

 霧があるし、向こうも探しているので見失う前に早く合流せねばと思ったのだが、ふとあることを思い出し足を止める。


「そういえばお二人のお名前を聞いていませんでした。お名前は――」


 彼らの名前を知らないと思い、振り返る。


「あれ、居ない」


 けれど二人の姿はもう居なくなっていた。そしていつの間にか霧も晴れている。


「……まぁ、次に会った時に聞けば良いか」


 疑問に思いつつも、俺は再び足を動かし、フューシャの元へと急ぐのであった。


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