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烏羽の兄馬鹿


「あれ、結婚式当日に主役がこんな所に居て良いのですかクロ兄様」

「出たな魔法少年のように変身を遂げたカラスバ」

「急になんです」


 シッコク兄から逃げ……もとい結婚式の準備のために屋敷に戻っていると、先程話題に上がっていたカラスバと出会った。見た目はそう変わらないのだが、何処となく学園生時代には無かった雰囲気(オーラ)を感じられる。まるで魔法少()の変身後みたいである。


「大人になったんだなぁ、カラスバ」

「あの、しみじみ改めて、しかも家族に言われるとなんとも言えない気持ちになるのですが」

「分かってやってる。初対面の俺でも分かるレベルの好意を受けて気付かない鈍感系だった弟への嫌味だ」

「隠す事もなく! ……そんなにパールの好意は分かりやすかったですか?」

「うん。そのせいでカラスバはその様子を見たシキの領民から“神父様より酷い”と言われてたぞ」

「神父様がどれほどか分かりませんが、共通認識になるレベルだとは伝わりました」


 知らない領民からは「あの神父様を凌ぐとか、どれだけなんだ……!?」と一時は時の人のようになっていたカラスバである。神父様が噂を聞いた時には「あ、あれほどじゃないよな!?」と反応し、俺もシアンも目を逸らしたという事もあった。

 期間で言えば神父様だが、シアンはあれほどストレートでなかったので鈍感の大きさで言えばカラスバに軍配が上がるだろう。

 ……ちなみにだがその件に関して俺も「鈍感なのは兄弟だからかぁ」という扱いを受けたりもした。不服だと言い返そうとしたのだが、スカイさんの件を出されるとなにも言い返せなくなって黙るしかなかったものである。


「話を戻しますが、結婚式だというのに新郎がここに居て良いのですか?」

「準備は大体マゼンタさんとかがやってるし、後は精々着替えと段取りの再確認くらいなんだよ。着替えの方もそこまで時間はかからないし」

「ですが髪のセットとかには時間がかかりません?」

「スミレが大体二分で整髪をしてくれる。ヴァイオレットさんのセットですら五分だ」

「……古代って未来に生きてると思う時がありますよ」

「同感だ」


 ロボもそうだが彼女達は本当になんなんだと言いたくなる技術を持っている。前世だったらAIの反逆とかが起きてもおかしくないレベルである。

 なお、スミレさんが古代(ロスト)技術(テクノロジー)で出来た自動人形である事をカラスバは知っている。意外にも彼女がそういう存在だと知った時、興奮して色々聞いたり見たりした(スミレさんはノリノリで応えてた)。

 その際パールホワイトが他の女性に夢中な事に嫉妬とかしないかと思ったのだが、彼女は「なんだか楽しそうだからそれで良いぞ!」と、むしろ楽しそうにさせてくれた事を感謝していた。


「まぁそんな感じで準備時間は短いし、正直言うと楽しみで心が抑えきれないからこうして散歩で心を落ち着けている訳だ」

「なるほど。落ち着きましたか?」

「なんか俺がユニコーンの角を取るためにデートしてたとかいう情報が有ったり、ゲン兄様とスミ姉様を生贄にシッコク兄様の親馬鹿から逃げたりと心を乱す要素が色々あった」

「つまりいつものシキの日常を見て落ち着いたわけですね?」

「常日頃からこんなんじゃねぇ!」


 普段はもっと……もっと落ち着いているはずだ!

 ……いや、でも心を乱す要素はあったが、なんだかんだで返って落ち着いた気もするな。まさか本当に日常の延長線上であり、日常を感じて落ち着いたとでも言うのか……!?


「冗談です。先程嫌味を受けたお返しとでも思って下さい」

「言うようになったな、カラスバ」

「大人になったもので」

「そうか……昔は怒られると俺の裾を掴んで黙って付いてきたカラスバがなぁ」


 カラスバは落ち着いていて頭が良くて立ち回りは上手かったのだが、どうしても上手くいかない時はあるし、シッコク兄に怒られた時は俺の傍で俯きながら上着の裾を掴み黙って着いてくることが多かった。

 泣きはしないのだが明るくなる事もなく、タイミングを見計らい遊ぶ事を提案すると黙って頷き一緒に遊ぶ。そんな可愛かったカラスバの成長を改めて感じる俺である。


「おっと、それを言うなら私も兄様オリジナル魔法開発日々を結婚式のスピーチで言う事になりますが。ええと、【身体は剣で――」

「すまない本当にやめてくれ」


 無限の剣○とか無量○処とか二重○極みとかを試していた時期を思い出させないで欲しい。でも仕様が無いんだ。魔法が使える世界に行ったらあの数々の魔法を再現したくなるのは、中二病を患った時期にTYPE-M○○Nを浴びた俺の抗えないSAGAというやつなんだ。クリームヒルトだって錬金魔法を使って剣を地面にさしてやろうとしてた(剣が爆発したので一回しかやってないらしい)って言ってたし、そういうものなんだ!

 それはそれとして、あの試していた時期を言われるのは恥ずかしいのでやめてくださいと思う俺である。


「……俺はカラスバには言葉で勝てそうには無いな」


 カラスバは子供の頃から落ち着き、騒がしくする俺に対し正論で落ち着くように諭してくるような子であった。母に「クロちゃんはカラスバちゃんみたいに落ち着いてくれたらねぇ」としみじみ言われるほどだ。

 勉強も教えるどころか教わった時期もあるし、頭は回るし、口論になると勝ったためしがない。流石に暴力に訴える訳にはいかないので、数えるほどしかないカラスバとの兄弟喧嘩は人生一度目の相手に全敗している俺である。まったくもって自慢の弟である。


「そうでもないですよ。昔、初めての勝負では負けましたし」

「え、そうだっけ?」

「はい」


 まったく覚えていないが……俺が前世を思い出す前の話だろうか。でもその頃ってカラスバはまだ赤ん坊で言葉も発せないし、勝負もなにも無い。それにカラスバが覚えているくらいだからそれなりに成長した後の事だろうが……イカン、思い出せない。


「まぁその話は良いでしょう。それよりも今日の結婚式、楽しみにしてますよ」

「ん、ああ、楽しみにしていてくれ」

「それでは私はこれで。また後で会いましょう」

「おう、また」


 カラスバはそう言うと、礼をして去っていった。

 ……まぁ所詮兄弟喧嘩かなにかだろう。ならそこまで重要な事でもないだろう。俺はそう思うと、再び屋敷へ向かうのであった。


「あれ、でもなんでカラスバ、こんな朝にここに独りでいたんだろう」







「“カラスバは俺には無い良さを持ってる自慢の弟だぞ?”……兄様にとっては特別でもない言葉だったのでしょう。ですが私にとっては、こうして結婚式前で不安になっていないかを確認しに来るほどには大事で、今までのハートフィールド家の思想に染まった弱気の自分を捨てる(に負ける)ものだったのですよ。大切で大好きなクロ兄様」



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