明茶の少女らしさ(:紺)
View.シアン
「あ、ブラウン君にシアンさん。ここに居たんだね」
「うわ、ビックリした!? お、おはよう、じあ――フンちゃん」
「おはよー、フォーンお姉ちゃん」
「おはようございま――シアンさん、今私の事をなにか別の呼び方をしようとしなかったかな?」
「ははは、気のせいだよー」
私がブラ君の将来の身を心配していると、突然フンちゃんが現れた。相変わらず気配を感じさせずに接近し、声をかけられるまで正面に居ても気付かないという驚く子である。多分今回も彼女は普通に歩いて来ただけなのだろうけど。
「フォーンお姉ちゃんは今から温泉?」
「そうじゃなくって、君が家に居ないから心配してね。結婚式を寝過ごしたとか無いようにと思って探してたんだよ」
「ありがとね。昨日はお姉ちゃんが酒場の飲み会で眠っちゃってたから、皆が踏まないように部屋まで運んで、その後散歩して、眠っちゃった」
「そうだったんだ。ありがと、ブラウン君。確かに私は眠っていても気付かれないみたいだからね……ベッドで眠っていてもベッドに居ないと言われた事もあったよ」
「そうなんだ。変なのー」
……それでも彼女の事はブラ君、そしてクロだけは普通に見つけられるのが凄いと思う。なにせ彼女は天使とかその辺りの力を有しているベージュ夫妻お墨付きの影の薄さだ。なんかそういう星の元に生まれたとかいう可哀相な判断をされたらしい。
クロに関してはおそらく目が関係していたのだろうけど、ブラ君に関しては……うん、愛の力かな。なにせフンちゃんの目の力の発動対象外条件である、【発動前から目を使う対象に惚れている】を初っ端から満たしていたくらいだ。しかもなんか復活したサキュバスの原種曰く、生半可な惚れでは満たさないらしいので、本当に一目で、私が神父様と出会って一年経ったくらいの時期程度には惚れたんだろうな、と思う。無自覚な部分がほとんどだろうけど。
――外見に惚れたのか、中身に一目で惚れたのか。……どっちだろうね。
ブラ君の目は恐らくクロと違った方面で優れている。優れすぎて身体や脳が追いつかず眠りを多く取らなくてはならないほどに。
その目を使って外見が好みの姿だったのか、フンちゃんの中身を見て、強烈な印象を受けて痺れてしまったのか。可能性は半々か。
……いや、証明できない事を考えても仕様がないか。多分これはブン君本人すらも分かっていない事だろう。だから私の考えは無意味であるし、今もとても楽しそうに好きなヒトと話すブラ君は、まさに無邪気な子供という感じだ。それさえ分かれば充分だろう。……油断するとブラ君が独りで虚空に話している錯覚に陥るが。本当にどういう状態なんだろう、これ。
「シアンお姉ちゃん、目をこすってどうしたの?」
「集中して目の回復を図らないと此処には二人しかいないという感覚に陥るからね……」
「てつがく?」
「そんな感じ」
「違うよね。これでも最近は陰が濃くなって来たって言われるんだからね?」
「そうなんだ?」
「ええ、生徒会長から解放され、激務から解放された私は気力も回復し、普通に見つかる様になったのさ!」
「ブラ君、どう思う?」
「前にエクルお兄ちゃんが、思い悩んで声を出す事があるから気付かれておどろかれやすいっていってた」
「ああ、ブラ君への想いについて葛藤していた時の話だね。異常事態に反応して声をかけられていた感じか」
「え、だから私、最近声をかけられる事が多かったの……? そして最近は開き直ったからちょっと落ち着いた感じになって、見つけられにくいのに戻っていた……?」
フンちゃんが衝撃的事実に今後どうしようかと悩んでいた。……落ち着いた様子の美人だし、悩む姿も絵になるし、なんで陰だけが薄いんだろうね、本当。
「フンちゃん、もしかしてサキュバスを隠すために無意識に陰を薄くしてたりしてない?」
「というと?」
「クロに聞いた話だと、サキュバスって性的に興奮させる能力があるらしいし、目も含めてサキュバスを隠そうとしたフンちゃんは無意識に抑えてるから、その分自分のフェロモン……魔力を抑えて存在が気づかれにくい、とか」
ちなみにだがマーちゃんは一応使えるらしいが、自分の腕で落としてこそ気持ちが良い! という事で使ってはいないらしい。モンスター相手に有効な時は使うそうだが。
「前に言われた事があって、ちょっとやってみたけどなんか“変な感じがするけど理由が分からない。なんだこの感情は!”って変な雰囲気を作り出すだけで発生源が分からない謎の現象を引き起こすに留まったよ」
「……そうなんだ」
なんかフンちゃんその気になれば広域無差別興奮テロも、暗殺とかも普通に出来そうだなー。彼女の性格が善性で良かったと本当に思う。
「よし、私の陰の薄さの話はおしまい! 今日はめでたい結婚式! おめでたい話をして明るく行こう!」
「そ、そうだね!」
「おー、なんか分からないけど、おー!」
「良いよブラウン君、元気があって大変よろしい!」
「将来的に、僕がその場に立てるように頑張るよー!」
「お、その場合隣には誰が立つのかなブン君。ヒント頂戴?」
「僕の大好きなお姉ちゃん!」
「ブラウン君!?」
「えー誰だろうなー、分からないなー、もっとヒント頂戴?」
「シアンさん!?」
「綺麗でー、優しくてー、とっても大好きなんだ!」
「眠るよりも?」
「うん!」
「じゃあもし一緒に眠れたら嬉しい?」
「シ、シアンさん!」
「うん、うれしい!」
「ブ、ブラウン君!」
「そっかー、そんな時が来ると嬉しいね。抱き枕のように一緒に眠れると良いね!」
「うん! その時が来たら、とってもいい夢をみられそう!」
「~~っ!」
有邪気な私と無邪気なブラ君の言葉に、フンちゃんは分かりやすいほどに顔を赤くしていた。この時だけは陰の薄さは発揮されていない辺り、ずっと恋を放出し続ければ影の薄さも解消されるかもしれない。そんな事を思う結婚式の朝であった。




