翠の注意と恋愛観(:紺)
View.シアン
今日は結婚式だ。
私と神父様の結婚式だ。
そう、私と愛しのスノーホワイト神父様との結婚式だ!!
「素晴らしい日だと思わない、エメちゃん!」
「私はこの数日で何度その言葉を聞けば良いんだ」
早朝、シキの少し外れ。
今日という素晴らしい日を前に私は色々と気分が上がり、早くに目が覚めて興奮を鎮めるために外の空気を吸っていた。
しかし!
その程度で私のこの気持ちが鎮まるなんて起こりうるはずがない!
というわけで偶然薬草採取をしていたエメちゃんを捕まえこうして生贄……もとい、話し相手になってもらっていた。この衝動を内に秘めておけばいつ爆発するか分からない。なのでこうして定期的に発散しないとね! エメちゃんは私の顔を見るなり嫌な顔を露骨にし、今も薬草採取の手は止めていないが聞いてはくれるので問題なしだ!
「まー、お前が嬉しいのはよく分かる。傍から見てもとっとと告白して結ばれるか玉砕しろと思っていたレベルの長期間片思いぶりだったからな」
「玉砕しろって思ってたの」
「当の神父以外は気付いていたレベルだぞ。どうあれ早く進めと思うのはおかしくないだろう」
それを言われると言い返せない。色んなヒト……本当に色んなヒトに言われ続けたし、付き合った時は妄想を疑われたレベルだしね。なんなら私が言った後隣にいる神父様に確認されたくらいだ。
けど今の私はそんな事を過去とし「そんな事もあったなー」と笑い話で済ます事が出来る女! 結婚式を前にし幸せ真っ盛りのシスターである!
「その主役といえる女がなんで当日の朝に、薬草が取れる森に独りで来ているんだ。マリッジブルーで自暴自棄になったと思われてもおかしくない行動だぞ。私の自前の草があるが食うか?」
「それ毒でしょう」
「丁度良い吐き気に襲われるから、吐いて気分をリセットしたい時にお勧めなだけの薬草だ」
「毒でしょ」
エメちゃん大丈夫かな。一応薬師として合法にしか手は出していないけど、このままだと自傷にすらいかないかな。大丈夫かな……?
「そこはレットちゃんが面倒見てくれるから大丈夫かな」
「何故急にあの女の話になる」
「グリーンさんでも完全に抑えられていない、エメちゃんの毒愛好が行き過ぎないかと不安だけど、レットちゃんが傍にいるから平気かなって」
「あの女は私のそこも含めて好きだ! と言うやつだぞ。あと私の気を引くために結婚式が終わったら国中を周り珍しい毒草を探してくると言ってるくらいだ」
ますます不安になってきたなぁ。まぁ行きすぎなようならレットちゃんも流石に止めるだろうし、そこのライン引きはキチンとしているから大丈夫かな。多分。
「というか愛しの相手が旅立っちゃっても大丈夫なのエメちゃん?」
「そのような事を言われても、そもそも王族が冒険者やったり、仕事を片付けた上で護衛も無しにシキにきている時点でな。自由すぎて会わない期間が多くてもおかしくはない。というか今が会いすぎだし、せいせいする」
エメちゃんの言葉は強がりではなく、本気で言っているようである。
会えたら会えたで嬉しいが、一緒にいる時間が長ければ長いほど愛が深まると思っているのではなく、互いに自分らしくいられる行動をした上で、時が来たならば一緒にいられればそれで充分だ、という感じかな。なんか大人の恋愛をしている感じがある。私だったら数日でも寂しいか不安に思う。
「エメちゃん……まだまだ子供なんだから、寂しかったら言ってね。私達は相談に乗るよ」
「新婚で頭が甘々なお前らに相談するくらいなら、ブライか、最近来たアンドロメダ流星とかいう女鍛冶にした方がマシだ」
「アリスブルーね」
「そうそれ。今の教会は新婚のお前達に、頭が性欲に特化しているようなカップルが居るだろう」
「スイ君は違うけど、まぁ言いたい事は分かるよ」
「そんな教会には今は相談したくはない。そして邪魔もしたくない。……性に溢れた教会と言われるなよ?」
「……言われないように気を付けるね」
うん、気を付けはする。気を付けは。
スイ君とマーちゃんに関しては強く言っておかなくてはいけないけど、今の私に強く言えるだろうか……
「……さて、戻るか。今日が主役のシスターを借りっぱなしもよくないし、そろそろ今回最後の補給とかいってくるスカーレットが起きて私を探し始める頃だ。見つからないと騒ぐ前に戻るか」
「あ、だからこんなに早く薬草の採取を?」
「まぁな」
他にも理由はあるんだろうけど、レットちゃんの要望を叶えるために、早く起きて薬草採取……なんだかんだ言いつつエメちゃんも好感度が高いようである。
「後はお前達がはしゃいでなにが起きても良いように、多めの新鮮な薬草を採取する必要があるからな。私の働きに感謝しろ」
「ありがとう!」
「ええいだからと言って抱きつこうとするな、結婚式前に土と草の香りを漂わせたいのか!」
「そんな私も神父様は好きだと言ってくれる!」
「言うだろうが今日は別の方向性で言ってもらえ!」
私とエメちゃんはそんな風に気安い会話をしながら、シキへの帰路に着くのであった。




