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蘭のアドバイス(:灰)


View.グレイ



 よく分からない声は、その後どれだけ呼びかけても聞こえる事は無かった。

 なんだったのだろうかという疑問はあるし、最後の私に対して言った言葉の意味も分からない。しかしなんとなく前向きにはなれたので感謝はしている。

 前向きになれた所で早速私の感情はどういうものかを知るため、この早朝から相談出来る相手はいないかと探してみた。


「ククク……なるほど、自分の中の感情を知りたい、か」


 そして出会ったのはオーキッド様。丁度狭間にある亜空間から空間を捕食し暴走した空間簒奪者(アリゲーター)を討伐した所に出会い相談している。お疲れかもとも思ったが、討伐が終わって亜空間休息で疲れと身体の感覚を曖昧にしてリフレッシュしたので大丈夫とのことである。ウツブシ様は席を外している。


「女性の身体のゴルド様にはなにも思わなかったのに、元の身体であるゴルド様に抱く複雑な感情……もしやこれは、私は男性であるゴルド様に恋慕の情を抱いているのでしょうか!?」

「ククク……それは絶対に違うと断言しておくよ」


 違うのか。もしかしてと不安だったのだが。

 かつて私を攫った男が熱く語っていたのでもしや私がそうなったのかと思ったのだが、オーキッド様は見えない顔ながらも雰囲気と言葉で違うと断言してくれた。良かった。


「グレイ君。君が抱いた感情は嫉妬だよ」

「嫉妬ですか?」


 だが次に出てきた言葉は違う意味で私を不安にさせる言葉であった。感情の大罪にも含まれる感情であるような、良くないとされる事が多いものだ。私も少なからず、シキの才能溢れる皆様方にその感情を抱く事はあるにはあるが……今回の場合今まで感じてきたものとは違う種類のように思える。……ようするに良くない感情なのでは、と思う。


「恋や愛が関わる嫉妬は確かに良くないものが多い。私だって付き合っても居ない女性に、別の女性と話していたからとその女性に嫌がらせをしたり、その事を問い詰めたら“貴方が好きだからやったのに! 酷い!”と理不尽に怒られたりとまぁ……酷いものは本当に酷い」


 オーキッド様が遠い目をしているような気がする。持ち前の美貌が原因で女性関係で故郷を追われた彼なりに思う所があるのだろう。

 そしてオーキッド様が遠い目をしてアレは本当に酷かったと言うような行動の原因となった感情を私も抱いているというが、大丈夫なのだろうか……?


「何事も用法用量を獲れば大丈夫さ。エメラルド君の毒だって量を調整すれば薬になり、その逆もしかりだ」

「ですがそれは恋愛にも含まれるのでしょうか……?」

「ククク……君の両親を見てみると良い。他の男、女に目を取られたり良い感情を引き出されたりした相手を嫉妬して、結果的にイチャついているだろう?」

「確かに!」


 父上達の事を引き合いに出されるとしっくりくる。確かに父上も母上も、嫉妬と言えるだろう感情を使って仲良くしているのをよく見る。嫉妬して、ちょっと拗ね、それを見た相手が大いに愛を叫んでラブラブになる。言われてみれば何故気付かなかったのかと思うレベルである。


「つまり恋愛において嫉妬は扱い次第では良いスパイスになる、という事でよろしいのでしょうか」

「ククク……そういう事さ。もちろん嫉妬が無い恋愛で良いものもあるけどね」

「例えばどのようなものでしょう?」

「互いが互いに“相手も自分も、互いを疑いようもなく愛している自信があるから、嫉妬する必要が無い”とかね」

「王者の余裕のようなものでしょうか。ですがそれは……」

「そう、一つの理想ではあるが、下手をすれば慢心になり愛を紡がない怠惰となり破局の可能性もある。自分だけしか見えていないとも言えるからね」


 しかし私はそんな恋愛に憧れもする。

 アプリコット様と疑いようもなく愛し合い、どのような障害が待ち受けていようとも私達の愛が揺るぐ事は無いと断言できる愛を有している。

 怠惰ではなく間違いなく自信といえるような、恋愛。それを私は紡ぎたいとも思う。

 だが……


「いずれにしても、グレイ君は理想とする恋愛を紡げるほど自分に自信はない。……そうじゃないかな?」

「……はい」


 王者のような恋愛を紡ぐには自信が必要だ。自分が愛されるのに相応しい存在だという自信。だが今の自分は若輩も若輩だ。そんな愛を紡げるほど今の私は成熟していない。

 そして嫉妬がスパイスというのも難しい。私はシキの皆様の素晴らしい点を羨むし、学園の同輩先輩方も私にない良さが多く、いつかあのようになりたいと思う方々が多い。目指しても上手くいかず不貞腐れる事もある。そんな精神的にも未熟な私が、ゴルド様に向けた嫉妬をスパイスとするほどコントロール出来るとは思えない。

 どちらも私は未熟であるがゆえのものであり、今の私にとって嫉妬はやはり良くない事という事だ。……どうすればこの良くない事を抑えられるのだろう。


攻撃(ぼうりょく)的になるほど嫉妬するのは良くないし抑える必要はある。けれど、まぁ、それ以外は抑えなくて良いよ」

「そうなのです?」

「だってグレイ君だって君が他の女性と、例えばキスをしたとしてアプリコット君が嫉妬しなかったらどう思う?」

「……嫌ですね」


 その状況なら悪いのは間違いなく自分だろうけど、せめてなにか反応は欲しく思う。だからといって嫉妬させるためになにかをする、というのはしたくないし……でも嫉妬はよくないはずなのに、その状況だと嫉妬してくれた方がうれしく思うし……むむ、難しい。


「ククク……悩むのも含めてそれで良いんだよ」

「良いのですか」

「うん、大事なのは二人が“良くあろう”と思いあう事さ。嫉妬もしない、なにがあろうと一切揺るがない、簡単に思いを通じ合える、年月で衰えも腐りもしない。そんなものが当たり前に手に入ればそれに価値は無いんだよ。君が憧れるクロ君達も互いが良くあろうといつも思い、そのために清濁を行っているから彼らは愛を紡いでいる。グレイ君も悩み、考え、それでいて自分にとって良いと判断して頑張れば良い。もちろん天災や運、他者のせいで上手くいかない事もあるだろう。けれど、それを乗り越えれば必ず愛はある。ーー少なくとも私はそう信じているよ」


 相変わらずオーキッド様のお顔は黒い靄の影響で見えない。

 けれど今の彼の瞳は、私が憧れる成し遂げたヒトのものであると感じていた。


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