表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1823/1904

無色の応え(:灰)


View.グレイ



――いけない、落ち着かなければ。


 私はゴルド様に対し、自分でもよく分からない感情を抱いて心を乱してしまった。ゴルド様に簡易的な服を着せ、紅茶を飲み終えて帰られた後もその心の乱れは続いていた。このような姿の私をアプリコット様に見られたくなく、若干強引に場を離れてしまったのも良くない状況である。


――乱れるな、私の感情。折角の素晴らしい一日になのに、私のせいで父上達の心情に陰りを見せたくない。


 今日の主役と言える父上や母上、そして特にシアン様は相手の機微や感情に気付きやすい。私がこのような感情のままで居ればすぐに見抜くだろう。そうすれば私の気を使ってしまい、そして結婚式という素晴らしい日が引っ掛かりを覚えるようになってしまう。

 そうなっては迷惑をかけてしまう。何故このような感情を抱いているかを考え、知り、対策を練るとしよう。もし自分で分からなければ相談すればいい。父上達は今回は駄目として、ハートフィールド家の皆様は忙しいだろうし……カーキー様かオーキッド様辺りにするとしよう。場合によってはトウメイ様も良いかもしれないが、このような事を女神様である彼女にするのは失礼ではないかとも思う。

 あまり気にされないかもしれないが……いや、今回の事はなんとなく女性には話したくない。これも自分では理由が分からないが……ううむ、これも含めて誰かに話した方が良いのだろうか。自分では分からない事だらけである。……情けない限りである。


――「それはそうだ。だって君は自分の事も分かっていない。そんな存在が人と同じ理解を得ようなんて出来るわけないじゃないか」


 ふむ、それもそうだ。

 なんだか急に私の脳内に知らない声が流れてきて少々驚いたが、まぁそういう事もあるだろうし、言っている内容はなんとなく理解出来る。

 確かに私は自分のポテンシャルを分かっていないような未熟者だ。そんな今更情けないと暗くなって心を乱してどうするという話だ。それを理解した上で前を向くことが大切だと、声は教えてくれている。誰かは知らないがありがとうございます見知らぬ声の持ち主様!


――「いくらなんでも異常事態を受け入れすぎじゃないかな。幻聴とか攻撃とか疑ったり、慌てても良いんじゃないかな」


 そう言われても、実際起きている事を驚いて否定するよりは、受け入れた上でどういうものかを考えた方が私にはあっている。否定するのは考えて嫌いだと判断した後で良いし、今は私にとってありがたい言葉を聞けたのだから感謝するべきだと思い、感謝したというだけである。


――「その“だけ”が難しいんだけどね」


 ところで貴方は何者なのだろう。もし他の方にも聞こえるのなら、ご紹介したいのだが。


――「うーん、本来ならもう表に出る事ないのだけど、君には一度触れて魔力を直接流し込んだから偶然意思を得ただけの、もうすぐ消える泡沫の夢のような存在さ」


 つまり話せるのはこの時だけ?


――「そうなる。驚愕の一つでもすれば精神を乗っ取れたかもだけど、機会はもうなさそうだ」


 それは申し訳ない。貴方が消えてしまうのは残念としか言いようが無いが、だからといって私の意識を渡すわけにはいかない。


――「別に構わないさ。僕は負けた存在だからね。ただそう言えば君は僕の事を覚えているだろうっていう呪いの言葉さ。外れた存在である君を呪う、ね」


 くっ、呪われた……! ですがこれを解呪すれば貴方という存在が本当に消えてしまう事に……! ……だが外れた存在とはどういう意味だろう?


――「そのままの意味さ。君はこの世界では外れた存在。覚えてないかな、君が無意識に知らない唄を歌いながら周囲を蹂躙した時を」


 そういえばそんな事もあったような気がする。

 つまり……私は【キレたら我を失い創作の唄を歌って周囲を圧倒する】ポテンシャルを……ハッ、つまり私には作詞作曲の才能が! 私がすべきは怒らずに作詞作曲をするように自分の感情をコントロールする事、なのか!


――「よくもまぁそこまでズレた回答を得られるね。外れた存在というのは君は人とは違うということだ。人間じゃない事にショックを受けたりしないのかな。それとも分からないふりをしているだけなのか、それを考える知性が無いのか。人とは違うことに苦しみを覚えたり、特別感を味わったりはしないのかな」


 そう言われても困る。

 学力不足を指摘されたら認める必要があるのだが……申し訳ないが、貴方の指摘はよく分からない。


――「どのあたりが?」


 まるで人間である事がこの世界では重要かつ上のように言っている点だ。例え私が外れた……この世界では存在しない、未発見の種族だとして、ここに居る私が人間である事は重要なのだろうか。大事なのはそこからする行動であるので、ショックも特別も苦しみもよく分からない。


――「…………」


 もちろん貴族や平民と言った生まれは重要だろう。私も昔はそれでスラム街や奴隷など苦労をしたし……ううん、使う言葉が難しい。

 人間である事はコミュニティで大事ではあるけど絶対ではなく、人間でないのならその特性を理解した上で過ごす事が大切で、絶対に出来ない訳ではなくて……よし、よく分からなくなってきた。

 ともかく私が私にとって重要なのはグレイ・ハートフィールドという事だ。自分を知る事も大事だが、それを忘れずに日々を過ごせばそれで問題ない。……そもそも自分の全てを知る事が出来るヒトというのは、そう多くはいないだろうと思うのが私である。父上も「何事も極める事は出来ない。それはその人の思う自身の限界値というだけだ」と言っていた事があったし、知る事を諦めたらそれがその人の全てというだけだと言うのが私の考えだ。


――「それが絶対正しい、とは言わないんだね」


 それはそうだ。考えに固執すれば知る事が出来なくなるし、あくまでも今の私が考えるだけの一つの意見である。


――「そうかい。君と最期に話せて良かったよ」


 そう思ってもらえるのなら嬉しいが、結局貴方は何者なんだろうか。


――「ただの存在しない色だよ。まぁ良かったお礼に良い事を教えよう」


 なんだろうか。


――「君はグレイ・ハートフィールド。間違いなくクロ・ハートフィールドの息子だ」


 ? それは知っているが……


――「ま、分かるはずのない問いで答えという事さ。頑張ると良い、未来ある少年。――クリアに“ごめん”、と伝えておいてくれ。誤って許される訳ではないが、言わないのは違うからね」


 それを最後に、謎の声は聞こえなくなった。

 ……なんだったのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ