金色の新たな楽しみ(:灰)
View.グレイ
「~♪」
私はご機嫌に、鼻歌も交えながら屋敷で父上と母上の結婚式の荷物の準備をしていた。
荷物とはいってもそう多くはない。服装を除けば両の指で事足りるほどの数である。
――早く教会に行って、結婚式の準備を手伝いたいところではありますが……まずは落ち着かなくては!
何故今更昨日した荷物の確認をしているかと言うと、結婚式が楽しみ過ぎて早く起きてしまったためソワソワしていた所、同じく早く起きていたアプリコット様に確認作業をして落ち着くように言われたからである。教会には教会の担当者が余裕をもって準備をしているので、行った所で向こうの予定が崩れて迷惑になるだけであり、仮に手伝いが必要でも屋敷でするべき準備が疎かになるのはよくない、という事である。
――まぁ大体は私がしなくても終わっているのですがね!
バーント様とアンバー様は数日前から張り切って準備をされている。普段から優秀で私が尊敬し、見本としているような御方が準備をすれば、私が手伝った所で手助けになる所か邪魔になる可能性すらある。だからといって手伝わない、というのはおかしな話なので手伝いはして、お二人のようになれるように学んではいるが。
そして最近入られたスミレちゃん(様付けをすると複雑そうな表情をされたのでちゃん付けである。呼んだらとても嬉しそうだった)も優秀で、彼女の行動中は手伝うという発想が浮かばない程の作業スピードだ。それでいて正確。私の中に尊敬すべき御方がお一人増えた。ただ偶に失敗されるので、それをフォローをしたりする事はある。そこがとても可愛らしいのだが、スミレちゃんは恥ずかしそうにしている。
そんな御三方のお陰で私が屋敷でする事など、荷物の確認と今日の予定の確認程度なのである。……一応私はハートフィールド家の長男ではあるので準備作業はそこまでしなくて良いと言えば良いのだが。去年までの事を考えると楽にはなったが、ちょっとだけ寂しく思う。
――あ、そろそろ紅茶でも淹れますか。
しかし私でも皆さんのためになれると自信を持って言える事がまだある。それが紅茶や珈琲を淹れる事だ。
日々の精進のお陰で、今の所はハートフィールド家で一番美味しく淹れられているという自負を持つ事が出来ている。スミレちゃんも「何故……同じように淹れているのに何故こちらの方が美味しいのです……!」とお墨付きである。そんなスミレちゃんの味の好みをしるのは骨が折れたが、なんとか美味しくて進んで飲んでもらえるような物を淹れられるようになった。
なので今から私は、私と同じように予定より早起きしてしまいソワソワしながら確認作業をされている、先程尊敬しているとあげた皆様のために飲み物を淹れようと思う。そして安らぎ、素晴しい一日の始まりとなる補助になると嬉しく思う。
「少年、もし紅茶を淹れるつもりなら私にもお願いできるか?」
「あれ、ゴルド様? おはようございます」
と、考えて“流石にまだ早いかな?”とも考えていると、ふと女性……身体は女性な男性? であるゴルド様に話しかけられた。先程まで気配は無かった気がするが……まぁゴルド様だから気配も消せるし、存在の認知を歪めるくらいはするだろう。ゴルド様であるし。
「や、おはよう。それで、急に来て悪いが紅茶を淹れて貰えるかな。昨日からあんまり寝て無くてシャキッとさせたいんだ」
確かにゴルド様は普段と比べると全体的に肌の艶が悪く、覇気が無い気ように見える。ならばスッキリするお茶を淹れるとしよう。確か丁度良い茶葉がまだあったはずだ。ゴルド様は淹れたて熱めから二分ほど置いた状態の温度が好きだが、今回は眠気覚ましも含め一分のにするとしよう。
「ゴルド様は準備……いえ、飲み会ですか?」
「そうだな。明日が結婚式だというのに騒いでいた輩と一緒に飲んで来た」
「つまり夜通しレッツパーリーナイヒヤウィゴーでジョッキ六杯を同時飲みですね」
「それは違う。誰だそんな事教えたの」
「メアリー様です。この間されてました」
「うちの馬鹿弟子って俺の事災厄とか言える立場じゃないと思うんだよな……」
ゴルド様とメアリー様。どちらも間違いなく素晴らしい才を有しているが、同時に常識では測れない部分も多く有している。私が学園で見る限り、学園で一番常識が通用しない……つまり変人が誰かと問われればメアリー様だと即答するレベルである。ゴルド様はそこまで接して来ていないが、以前の説得以降は少なくともそこまで常識に測れない事はしていないので、メアリー様の方が災厄? かもしれない。今度会ったら伝えてみよう。
「ま、夜通しというのは確かだがな。今までああいうのはした事が無かったから、新鮮だったよ」
「今まで無かったのですか?」
「ああ、大抵飲んでも日付が変わる前に帰った。ああいうのはつまらん、と思っていたからな。だが、まぁ、見方を変えると割と良かったよ。シキだからかもしれんがな」
ゴルド様はそう言うと、小さく笑う。
私はその様子を見て少し安心する。飲み会に今の状態といい身体に悪い事はあまりして欲しくないが、それでも楽しい事をしようとしてくれているのは嬉しく思う。そして気分が悪いというマイナスな気分の時に私を頼ってくれるのも嬉しく思うし、要望に出来る限り答えたいと思う。
「ああ、ところでもう一つお願いがあるのだが」
「はい、なんでしょう。私めに出来る事であればなんでも仰ってください!」
「良い返事だ。じゃあ――」
ゴルド様はそう言うと、私に近付いて来て――
「我の彼氏にそのような格好で近付くなこの痴女がーー!!!!」
「ぐふっぅおぅ!!?」
そして急いで走ってきたアプリコット様にふっ飛ばされた。運動がやや苦手なアプリコット様ではあるが、見事なドロップキックである!
「イタタ……なんだ魔法少女。私はたんに紅茶だけでなく、珈琲も欲しいと要求しようとしただけなのに、それだけでこの仕打ちはいかんのじゃないか。暴力はいかんぞ暴力は!」
「お主、今の自分の格好を言ってみろ」
「酒場で酒がかかったから全部脱いでそのままだが」
「それが! 理由である! 身体は女がなにを普通に男に接しておるか!」
確かにゴルド様は出会った瞬間から全裸であった。別に服を着ている、と言っていないので服を着ていなくてもおかしくはないのだが。
「おお、確かに。これがアルコールの影響か!」
「それだけではあるまい、さっさと服を着ろ!」
「そうだな。少年、服を貸してくれ」
「だからグレイに近付くでないわ!!」
それはそうと先程言われた、我が運命、という呼び名は良いなと思う。今度もう一度呼んで貰うとしよう。




