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漆黒な弱音と祝辞


「今の中途半端な格好では恥ずかしいから、裸で居る事が美しいのだと教えを説きに来た美という存在こと、シュバルツの登場だ!」

「わぁ急になんか来た」


 日本の国民性をどう教えて良いものかと悩み、俺自体が理解している訳でもないので別に教えなくても良いのではと思っていると、こちらは服を着れるのに自分から脱ぐ事が多い美しい美の化身(敢えての重なり言葉)であるシュバルツさんが服を着たままポーズを取りながら現れた。最近はヴァイス君の影響で服を脱いでいないからこうしてストレス発散でもしているのだろうか。もういっそこの姿を見せても良いとは思うのだけど。ヴァイス君も割とシキの領民として受け入れる事に長けて来たし。


「ふふふ、トウメイ君。君は美しいのにも関わらず、姿を消したり隠したりで美への意識が足りない!」


 そういえばトウメイさんって姿を消せるんだっけか。俺は姿が消えている時を見た事無いので分からないのだけど、なんでも冒険者とか外部の人が居る時には姿を消しているらしい。あくまでも受け入れられているのはシキの領民だけで、騒ぎにならないように気を使っているようである。


「まぁ外見は気にしてはいるけどそこまで意識している訳ではないし……ダメージとか老化とか自動キャンセルされて生まれたてみたいな肌だったりするし……」

「え、気にしてはいるんですか?」

「混沌とした時代、人々の前に立つ者は綺麗な方が希望になりやすいからね。アイツ……大聖女と呼ばれたあの子にも言われて気にしてはいたよ」

「そう、美とはすなわち芸術にして希望! 美しければ美しいほど、美しい物を見るほど美的好奇心を刺激され心も美しくなるというわけだ!」


 美がゲシュタルト崩壊しそうである。


「まぁその子は“外見が美しいと、内面がどうであろうが好きなように喰えるから外見を取り繕うのさ!”って感じだったけどね」

「シュバルツさん、どう思います」

「ようは美しさで性的に爛れたって意味かな? 己が欲望に忠実になるため外見を磨いて、あるいは才能を活かして外見の美しさを持っていた。どちらにしろその美は努力を失えばいずれ剥がれるものだ。その子がトウメイ君に指摘できるほどであったのならば余程美しかったのだろう。であればその美しさを有していた努力と才能は褒めるべきで、むしろ自分の強みを理解していた私とは違う美しい輝きを持っていたというだけじゃないかな」


 お、おお、シュバルツさんがポーズを決めながら見た事の無い相手の発言を褒めている。嫉妬する事も見下す事もしないところがシュバルツさんらしいというか美しいというか。


「強いね君は。私も君くらい強ければ、体質とか気にせずに堂々と出来ていたのかもしれないけど……」


 それはそれでちょっと困るような……いや、案外堂々としながら浮いたりしていればそういう存在として皆気にしなくなったりするのだろうか。そういう妖精みたいな感じの認識に――駄目だ、シュバルツさん精神のトウメイさんは全世界で自分の美しさを誇示する存在となって世の中の人々の癖を歪ませる存在になりそうだ。

 時を超え美の曝け出し続ける全裸女神様。言葉だけでもヤバい存在になりそうである。


「はは、(わたし)はそう強いものでもないさ。なにせこうして君を利用してこの場に居るくらいだからね」

「私を?」

「そうだ。私はね、つい先程までシキをこのまま去ろうかどうかと悩み、美しさを交えた話題なら入り込めると思ってどうにか此処に来たくらいには心が弱いんだ」


 シュバルツさんはそう言うと、ポーズをやめ何処か弱々しい表情を浮かべながら俺を見る。……どういう事なのだろうか。シュバルツさんがそのような弱音を言うなんて珍しい。弟の事以外の大抵の事は自分の美しさへの自信と同じくらいの気持ちでぶつかってへっちゃらでいそうなものなんだが。


「クロ君、結婚おめでとう。出会いが出会いであっただけに言う資格は無いと思っていたけど、言わせて貰うよ」

「出会い……温泉で俺達に裸体を晒しながら“隠すところは無い!”と堂々としていた事ですか?」

「凄い出会いだったんだね君達」

「違う違う。もうちょっと後」

「普段隠しているからこそ脱いだ時に美しさが際立つ! といった服を縫う者として同意せざるを得ない会話ですか?」

「もっと後!」

「チョコレート売ってくれたお陰で俺のテンションは最高に上がりました。ありがとうございます!!」

「行き過ぎだよ!! というかそれ重要!?」

「重要過ぎますよ! 家族の事を除けば俺にとって一番と言っても良い衝撃的嬉しい事でしたもの!」

「そこまでなのかい……」


 だって基本チョコレートは大好きで前世では毎日の勢いで食べていたんだもの。それが今世では諦めていたのに、出会えた衝撃は今でも忘れられない。本当にありがとうと言わざるを得ない出来事である。


「そうでは無くて、私が――」

「シュバルツさんがヴァイオレットさんを殺そうとしたのは許せる事ではありません。ですが俺はあの時があったからこそ彼女を一人の女性として見て、夫婦になれたんです」

「…………。だけど……」

「その後に今言ったチョコレートのことや、布と糸の仕入れの件もありましたし、今は感謝こそすれ“結婚を壊そうとしていた自分がおめでとうという資格はあるのか”という弱々しい考えに無いというほどシュバルツさんを恨んではいませんよ。というか友人だと思っていたのですが、そう思っていたのは俺だけのようで寂しいです」


 結果論に過ぎないが、俺達は無事で俺はあの時の事があったからこそヴァイオレットさんを悪役令嬢から一人の女性として見る事が出来た。シュバルツさんが全く悪くないという事は無いが、そもそもアレは依頼をした奴が一番悪いのでそこはもう気にしてない。シュバルツさんもあの後(その前もではあるが)そういう方向性の依頼は受けていないようであるし、もう終わった事だ。一々気にしていられない。


「友人……か。そうだね。では友人として改めて言わせて貰うよ。――結婚おめでとう」

「はい、ありがとうございます」


 というかそれより祝ってくれた方が嬉しい。俺は素直に祝福されると嬉しくなってしまうような単純な男なのである。……何処かの第二王子のように例外は居ると言えば居るが、アイツに裏無く祝われたら……まぁ嬉しくはあるかな。


「……うん、スッキリした。勝手に悩んで、結婚式前の君に手を煩わせてすまなかったね」

「構いませんよ。スッキリしたのなら結婚式に出てくれますよね」

美美美(もちろん)さ。あ、でも結婚式で一番美しい存在として出席するのは良いかな?」

「その気構えで来て下さい。そして俺の嫁が世界一美しいと認めさせてやりますから」

「はは、それは楽しみだ」


 奇妙な出会い、敵対した相手。だけど今はこうして笑い合う事が出来ている。

 その事に不思議な感覚を覚えつつも、悪くはないと俺とシュバルツさんは笑い合うのであった。




「……ところでさっき大聖女って言っていたけど、どういう意味かな?」

「あ。どうも改めて初めまして。私の本当の名前はクリア。君の弟が信仰する女神様だよ。イェイ」」

「……クロ君」

「本当っぽいです。俺も例のノアの箱舟の時知ったんですが……というかヴァイス君とかに聞いてはいないのですか?」

「……言われたかもしれないけど、色々あって聞いて無かったような……え、私女神様に美しさを説こうと?」

「ついでに言うと女神様をだしにして俺との会話に参加しましたね」

「…………。脱ごうか?」

「しなくて良いよ」


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