幕間的なモノ-恋や愛に頭を悩ませるとある第一王女-
幕間的なモノ-恋や愛に頭を悩ませるとある第一王女-
最近は仕事がとても多い。
第一王女であり宰相業務を行ってもいるため忙しいのは当然と言えば当然だ。その上我が夫は怪我のためとてもではないが仕事を出来る状態ではない。しかしそれを踏まえてもここ最近はやる事が多い。
まぁ王国崩壊の危機が起きたのだから仕方がないと言えば仕方は無い。いくら起きた規模の割に王国の人的物的被害が軽微とはいえ、心的被害は大いにある。
王位簒奪や暴動、他国から戦争を仕掛けられる。正直言うならこれを機にいずれかが起きると思い、起きないように必死に方々を駆けずり回った。
――その辺りは私達の親弟妹のお蔭でどうにかなりましたが……
お父様は怪我を隠して無理にでも前に立ち弱さを見せず、お母様も力強さを民衆に見せ女王としての格を示した。
そして普段は冒険者をやっていたり、愛のために私の腹部を切り裂いたり、ついこの間まで未成年だったりで色々苦労させられていたものですが、流石は弟達と言えよう。私には無い溢れんばかりのカリスマ性と仕事ぶりで混乱を収束させた。……中には幽閉されていた場所からいつの間にか脱出し、「ただいまです姉上!」と観光から帰ってきたかのような困った弟も居ましたが。そんな弟でも帰るまでに私が欲しい情報(指示を出していないのに何故か欲しい情報をピッタリ)を持って来たり、混乱に乗じて詐欺・情報流出行為まがいを行おうとした貴族の情報を持ってくるついでに、しばらく動けないよう細工をしたから混乱している内に捕まえておくようにとリストを渡してきたりしたので流石と言わざるを得ないが(キチンと叱った。それとこれとは話が別なので)。
――あとはバレンタイン家のお蔭ですね。
長兄問題、長女の婚約破棄問題で様々な事を言われていたバレンタイン家。彼らは流石公爵家と言える動きを今回もしてくれた。ハッキリ言って彼らがこのタイミングでクーデターを起こしていれば成功していたかもしれない。いや、かもではなくしていただろう。彼らはそれほど領民からの支持を得ており、政治的手腕を有している。
だが彼らはそれらを理解した上で王国への忠誠を示してくれて、混乱を抑えてくれた。他国への牽制もし、様々なマイナス要素を経ても“バレンタイン家は健在である”という事を示したのである。今回の件はいくら感謝をしても足りないだろう。落ち着き次第相応の礼をせねばなるまい。
――落ち着けば……ですが。
そう、落ち着けば、だ。
今回の件、というよりこの一年で起きた事を処理していると落ち着くのは相当に先になり見通しがつかない。
先ほど言った親兄弟、バレンタイン家の力、その他貴族の力があったおかげで混乱は少ない。少ないがやる事が尽きる事はない。あと愛する夫が怪我をしてるのも痛い。弟達には一旦王都を離れて貰う事が出来る程度には抑えられてはいるのだが……
「ローズ姉様、ひとまず報告や所感を。
ルーシュ兄様は今回のノアの箱舟の件でロボ嬢と絆が深まったので、仲が進展します。帰って来ても仕事の情熱は彼女のために増すでしょうが、その分手紙の期間が開いたりすると今まで以上に面倒になります」
「つまり会いたい症状が出てシキにこっそり行きかねないと。なるほど」
「スカーレット姉様は結婚式を見て盛り上がりエメラルド嬢に求婚し却下されるでしょうね。そして好感度稼ぎに“色んな場所で植物を採っては送る!”と意気込み、各地で混乱を抑えるという名目でしばらく帰ってこないかと」
「下手に制限かけるより各地を周らせたほうがいいですね。なるほど」
「ヴァーミリオンですが、今頃“そうだ、俺はメアリーが好きなんだから余計な事考えずに告白しよう”となって、相手も似たような感じになり告白成功を成し遂げているかと。ただ面倒なのは付き合った喜びで夏休み後には貴族達への噂の処理で忙しくなると。主に東側の貴族とか相手に。あとメアリーの光を浴びすぎて“メアリー様万歳!”という動きが方々の貴族に見られます」
「素直に弟を祝福するとしましょう。ついでにメアリーは……爵位を与えましょうかねぇ……ともかくなるほど」
「バーガンティーは健全に青春をして仲を深めていますし、相手も兄であるエクルの心が変わってきている時期でしょうから、その姿を見てフォーサイス家として勉強し始めます。ようは私達兄弟の中では恋人共に手のかからない良い感じです」
「相変わらず良い子で助かります。恋人とも仲良く慣れているようでなによりです。なるほど」
「フューシャは愛が暴走しているでしょうね」
「……なんです?」
「引きこもりのせいで他者との接触距離が上手くつかめず、あと下世話な話ですが性欲も抑えてきた分変な方向に暴走しています。対象が一人に絞られているのと、対象の我慢する力が高いのでどうにかなっていますが、まぁ……下手したら拙者のようになりますよ」
「貴方のように、というと」
「俺様がクロ・ハートフィールドに抱いている愛みたいな感じです。血の繋がった兄妹ですし、フューシャにも素養はありますからね。マゼンタ叔母様だって似たような愛なんですし、フューシャはどうにかしないと暴走しますよ?」
「……なるほど」
私はカーマインに報告と所感を聞いていた。
なにやら話があるというので、おそらく未来予知にも近い観察眼で考えた事を報告するとは思っていたのだが、想定とは違う報告を受けた。
……弟も妹も可愛い存在であり、尊敬している存在だ。助かる事も多いのだが、彼らにはこれから今までとは違う対応をしなくてはいけないと思い、頭を痛めた。特にフューシャに関しては色々指導をすべきかもしれない。
「というよりローズ姉様。こんな軟禁されている弟の話を鵜呑みにするんですか?」
「確かに貴方は性格は破綻していますし、私のお腹はクロ子爵への愛のために裂くとかいう行為は違う愛を紡いで欲しいと思いますし、オール嬢への態度は夫としてどうかと思うような態度ですし、軟禁されているのに悠々自適に過ごしているのを見ると姉として鳩尾をぶん殴りたくなります」
「思ったより悪口を言われますね、僕」
「ですが可愛い弟ですからね。私とて貴方が嘘を言っているかどうかは分かりますよ」
「クロ・ハートフィールドの一件を止められなかったのにですか?」
「嘘を言っていないだけ、をされていましたからね。だから私を避け、バレそうになったから急な行動に移したんでしょう」
「……まぁそうですね。ところでもし仕事が忙しい場合、麻呂も仕事を手伝いますのでどうぞいつでもお声掛け下さい。姉様の力にいつでもなりますよ」
「出来ない事はキチンと周囲に手伝わせています。私にどうこう言う暇があったら、オールの相手をしていなさい」
「ですが姉様の――」
「良いですね?」
「は、はい!」
私が姉としてにこやかな笑顔を見せると、何故か可愛い弟は身を正して返事をした。その姿は上官が怖い軍人のようであったが……気のせいだろう。姉に対してそんな対応をするはずが無い。私は優しく接しているのだから。
「ところでなんだかランドルフ家は愛や恋に暴走する事が多いですね。私もそうなるのでしょうか」
「姉様がなったら私達兄弟でマトモなのがバーガンティーだけになるので、暴走しないで欲しい所ですねぇ」
「暴走しているだけで皆マトモですよ?」
「えっ」
「えっ」
「…………」
「……ともかく。彼らもクロ子爵達の結婚式を見て、暴走しない愛を学んで欲しいものですがね」
「参考になりますかね……?」




