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IFルート もしコイントスが逆だったら


IFルート もしコイントスが逆だったら



 聖堂で出会ったヴァーミリオンとメアリーは互いが瞬時に理解した。 

 この少年/少女はすぐに自分に告白をする気だ、と。


「ヴァーミリオン君!」「メアリー!」


 二人は互いに名前を呼び合う。

 理由は単純。自分から告白をするためだ。

 当たり前に気付いた感情を当たり前に言う事に躊躇いは無い。そして告白を受ければ迷わず受けるであろうと互いに自覚はある。

 しかし決めた以上は自分が先に告白をする。

 起きてしまえば受け入れて覆す気はないが、起きていないのならば自分が告白をするという決意をやめる事も無く、全力で相手よりも早く告白をするという事だ。

 だからこそ互いが名前を先に力強く呼ぶ事で、なにか言う前の牽制をした。しかしそれも同時に言葉が重なる事で目論見は達成できなかった。

 ならば次に二人がする行動はなにか。先に言うために告白の言葉を続ける――


「……そちらに行っても良いですが、ヴァーミリオン君」

「……ああ、構わないぞ、メアリー」


 ――ではなく、一旦仕切り直しとした。

 このまま告白の言葉を続ける事は出来た。その場合同時、あるいは告白の言葉の長さによっては自身の方が早く告白を終えたと言えるかもしれない。しかしそれを互いは良しとしなかった。

 愛の告白は“受ける”相手がいるからこそ成り立つものだ。互いに“する”側であればそれは告白ではなく、ただの言葉の一方通行となってしまう。その辺りは個人の感想によるものであり、実際はどうであれ少なくとも二人はそのような共通の認識を持っていた。要するに無駄な所で以心伝心のお似合いカップルをやっていた。アッシュ辺りが見ていれば「イチャつくなよ」と敬語も忘れた素の言葉でなにやっているのかというツッコミをしていた事であろう。


(どのタイミングで告白をするべきだ……!?)

(止まったタイミングでするべきでしょうか……!?)


 そしてメアリーが近付きながら二人が考えるのは、どのタイミングでするか、だ。

 不意なタイミングだと一方的になるので良くない――という訳ではなく。あくまでも同時に言い合うのが二人的にはNGなだけであり、互いの言葉さえ被らなければそれで良いのである。不意だろうとなんだろうと、極論自分だけが言えれば良いのである。シルバが見れば「ええー……」とどう反応するべきかと呆れていたであろう。

 しかしここで別の問題が発生した。


(告白の言葉とは……なんだ……!?)

(言うにしても告白の言葉ってなんです……!?)


 そう、二人共告白をするという事だけを決めて、なにを言うべきかを考えていなかった事を思い出したのである。

 これがもし、どちらかが告白を受けるという覚悟を持ち、言葉を待っていれば考えに至らなかった事態だ。恐らく自然と、短く、簡潔に告白の言葉を言い、互いに受け入れ付き合う事になっただろう。

 しかし二人が“相手が告白前に告白をしなければならず、最初の一声は上手くいかなかった”というのが二人を告白言葉思考の迷路へと誘ったのである。シャトルーズ辺りが見れば「……そうか」と、自分の感情を敢えて言葉には出さずに二人を見ていたであろう。


「…………」

「…………」


 そしてメアリーはヴァーミリオンの近くで止まり、互いが無言となる。

 タイミングを逃したというのもある。同時に自分が先に口を開こうとした瞬間、先程のように言葉をかぶせられる事で攻撃の手を奪われるという懸念もあった。故に無言。告白の攻防は膠着状態にあった。エクルが見れば「……頑張ってね」とひとまず心の中で応援をする事で、見守るというスタンスを取り関わりを避けていたであろう。


(しかし格好良いですねヴァーミリオン君。やはり好きです)

(しかし可愛く美しいなメアリーは。やはり好きだ)


 というより二人をある程度知る者からすれば今の状況に関わりを持ちたくないと思うであろう。それほどまでに彼、彼女らは面倒くさい戦いをしていた。なお、戦いと思っているのは二人だけで、この状況を偶然覗き見てワクワクしながら見ているヴァーミリオンの兄、姉、弟、妹とこの教会の神父とシスターは「なによく分からないイチャつきをしているんだ……? シキの領主のような感じでも目指しているのか……?」という気持ちで見守っている。母だけは「え、言うの? 言っちゃうの!? 頑張れ息子! そして娘候補!」とひたすらワクワクしているが。


「メアリー」


 先に口を開いたのはヴァーミリオン。メアリーと比べ、早めの決意をしていたが故の先手であろう。


「伝えたい事がある。俺はメアリーの事が――」

「待ってください。私も伝えたい事があるのですが、先に言っても良いですか?」


 しまった、とヴァーミリオンは内心で焦った。

 メアリーの言葉を遮るのは失礼にあたる。しかしそれを理解した上で先に言っても良いかと許可を得ている。そこで言葉を止めてしまえば聞かざるを得ない。だがこのまま続ければヴァーミリオン側に無理矢理な流れを作ってしまう事になるのである。メアリーはそれを狙い、ヴァーミリオンはそれを理解した。


「駄目だ、先に言わせてくれ」

「くっぅ……!?」


 しかしそんな事は関係無い。先に言った方が勝ちという謎の共通認識を得ている二人にとってその程度の焦りは些末であった。


(つまりここで私がするべき事は……!)

(つまりここで俺がするべき事は……!)


 その共通認識を再確認した所で、二人は瞬時に次の行動をする。

 無理矢理だろうと焦りだろうと失礼だろうと目的――先に告白をするという謎の意地の張り合い――を達成するために、二人がする事。それは……


((最速、最短で、次の言葉で告白をする!))


 という事である。

 アッシュ、シャトルーズ、シルバ、エクルがこの状況を見たとしよう。その場合の共通認識は「はよ付き合え」である。


「ヴァーミリオン君、私は――!」

「メアリー、俺は――!」


 そして二人は言葉を続ける。

 どちらが先に告白で来たかは――IFの世界なので、確定する事はない。

 ただ少しだけ語るのならば、過程は違えど結果はコインに左右はされなかった、とだけ記述しておく。


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