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短く、簡潔に、これからを(:白)


View.メアリー



 初めて見た彼は幼馴染以外は全て敵だと思っているような雰囲気を纏っていました。

 裏事情を知っている私はそれも当然と思いつつ、文字通り彼を攻略しようと意気込みました。

 結果として裏事情という前情報があるお陰で上手くいき、彼の味方の立ち位置として私が居る事を大いに喜び、それで充分だと満足していました。

 ですがこの世界を直視し、ゲームの世界でないと分かってしまった時。

 彼らも見ようとして、私は自分に“私は卑怯をした女だ”と言い聞かせて誤魔化し続けました。友人ではなく男女としての好意から逃げていたのです。

 嬉しくも有り、でもどうして良いか分からず。

 悲しくも有り、けれどもそう思う資格は無く。

 結局私は最後まで――シャル君に男女ではない感情を向けられるようになるまで、彼らからの好意を見る事から逃げて来たのです。


 そして、彼に対しては、今でも変わらず。







 彼と私以外いない教会の聖堂。

 曇った外から入る光は、淡く室内を照らし、人里から離れた廃墟の静寂さを表しているかのように幻想的でした。


――やっぱり私は彼を……


 静けさと幻想さは私に先程までの焦りと疲れを忘れさせ、同時に自身の恋心を再認識させました。

 開き直り、決意をし、日常的な事だと飲み込み、告白に臨むという昨日までとはどこか違う私です。そんな私が今日、改めて正面から彼を見ての感想は、私はこの人の事をどうしようもないほどに好きという事です。

 燃えるような好きをぶつける推しの好きとは違い、傍に居て欲しいと願う静かな好き。私という存在の日常の中に溶け込む好き。当たり前で特別な、理屈や理論など投げ捨ててでもこの好きを我慢などしないというほどの好きを私は感じていました。

 今までは何故この感情から目を逸らして来たのかが分かりません 

 それほどまでに大きくて抑えきれない感情であり。

 目を逸らして来たからこそここまで育った感情でもあります。

 つまりは今の私はあまりにも大きな感情に支配され、


「おはようございます、ヴァーミリオン君。なにやら私を探していたようですね」


 そして大きすぎる感情を、これから来るちょっと未来の事を考えると内心へと抑える事が出来ました。これから起こる事を考えればこの大きな感情如き抑えきれずして覚悟を決めたと言えるのか。という既に覚悟を決めた私にとって当たり前に出来る事を当たり前にします。


「そちらも俺を探していたようだが、なにか用があったのだろうか。あるならそちらから言ってくれ。俺の用は後で良い」


 それは四連続で気付かれたような分かりやすい私の様子を見て、私が告白をすると踏んでの言葉なのか。

 あるいは単に用があるのなら先に済まさなければ告白云々で私の用が有耶無耶になる事を危惧したのか。

 もしくは私を前にして私のように感情が芽生え、抑えきれないから時間をおいてほしいが故の言葉なのか。

 いずれにしろ私が返すべき言葉は。


「貴方が私を探していると聞き、探していただけですよ。ですので、ここで出会えた時点で私の用は終わっていると言えますよ」


 コイントスで決めた、私の方からするのではなく相手の言葉を待つという選択肢に相応しい言葉を紡ぎます。もし彼がここで言えずにいるようならば私から言いますが、基本は待ちのスタイルで彼の言葉を待ちます。


「それで、ヴァーミリオン君。私を探していたようですが――なにか御用でも?」


 言いながら近づき、ある程度の距離の所で私は止まり言葉を待ちます。

 自分でもワザとらしい言葉と距離の詰め方であり、もしかしたら私の目的を見破られるのではないか、アッシュ君が後でバラしたのではないかと詰め寄られるのではとすら思えますが、私はそれを踏まえても「貴方の言葉を聞きたい」と全てを使って伝えます。


「メアリー」


 彼が私の名を呼ぶので、はい、と返事をします。

 いつもと同じような声色であり、なにか特別な事を言う前のような雰囲気ではありません。しかし何処か表情は本気であると覚悟を決めていて。


「好きだ、メアリー。――俺と付き合ってくれないか」


 捻った言い回しも飾り気の無い告白の言葉。

 だからこそ嘘偽りが無い言葉だと理解し。


「はい。私も大好きですよ、ヴァーミリオン君。――喜んでお受けします」


 捻った言い回しも飾り気の無い返事の言葉。

 だからこそ嘘偽りが無い言葉を、私は返したのです。


 あっさりとしていても、これが私達なのだと。

 これまで見て来なかった分をお互いに見ていこう。

 そう思い合うと、私は彼の胸に飛び込むのでした。


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