出会えない!(:白)
View.メアリー
告白をするかされるかはコイントスで決めました。
思い返すと贅沢な悩みで賭けで、これ以上の事は無いだろうと思うような非日常で当たり前かもしれない行動でした。
そしてその行動を経て決心をした日。
朝から会うのは、私が奪い取った故に婚約破棄された女性で友人でライバル。
私にフラれる前提で告白し、気持ちに気づかせて後押ししてくれた友人。
前世でもお世話になった、私がこの世界を謳歌出来るようにしてくれた大切な人。
弟のように可愛いと思ったら、気付けば私より大人びていると思えた友人。
気持ちの良い腹黒さを垣間見せても苦労性が垣間見えてこれからもお世話になる友人。
ある意味では告白の前に出会うべき人に出会った、というような相手ばかりと出会いました。偶然ではありましたが、幸先の良いスタートをきれたと言っても良いでしょう。
あとは一番大切な告白相手のヴァーミリオン君と出会う事です。
彼が昨日の気持ちのままであるかどうか、私が告白するかどうかもまずは会わなければ話にならず、まだ出会えていません。
ですがこうして幸先の良い日となったのですから、多少会えない程度では問題ないと言えましょう。私の手にかかれば、ヴァーミリオン君と出会う事なぞ造作もないです――
「出会えないです!!」
――時刻は昼も過ぎて数時間。三時のおやつが食べたくなるような時間です。
朝から色々探し回っている事を考えると、出会えない事に焦りを覚え始めました。
「え、私の愛する息子? さっき誰かを探していたのを見たから、シキの外に出たという事は無いんじゃないかな? しかしううん、メアリーちゃんもそうだけど、いつものヴァーミリオンっぽくなかったんだよね。なんだろう?」
と、告白云々はバレなかった人の感情には疎い将来に母と呼ぶであろうマゼンタさんが言うので、考え直したとかで外に出た訳ではないようです。他のシキの人達も似たような事を言いますので、間違いなく向こうも探しているのです。
「え、メアリーさんヴァーミリオンとまだ会っていないの? 僕はさっき会ったんだけど……」
「……すまない。先程向こうに行ったと伝えたのだが、余計なお世話だったかもしれない」
「メアリー様、大丈夫ですか? いっそ分かりやすい所で待つのも一つの手ですよ?」
「メアリー。打ち合わせをしているかのように交互にヴァーミリオンと来てますが、まさか私を――ああいや、なんでもありません」
ですが会えません。
入れ違いはよく起きているようなのですが、何故か会えないのです。それなのに他の皆さんは普通に遭遇しているようです。なんか運命的な感じの見えない力に阻まれているような感じすらします。
「という訳でなにか知りませんかトウメイ」
「確かに私は神と崇められているけど、そういうのを司る神じゃないからね? 正直特殊体質以外ほぼ人間だからなにかを司るとかないよ?」
なので現人神であるトウメイさんことクリア神に聞いてみましたが、当然の事ながら知りませんでした。……よほど慌てていますね、私。そもそも彼女は神ではありますが英雄という方が正しいかもしれませんからね。
「生憎とどっちも知らないけど、彼なら呼んで連れてこようか? ここで待っていて貰って彼を空に浮いて探して連れて来るとか」
「ありがたい申し出ですが、自分の手で見つけたいので……」
「そっかー」
エクルさんにも言いましたが、出来ればこれは私とヴァーミリオン君で解決したい事なのです。ここまで探し回って今更な気もしますが、そこは譲れません。
「あと正直貴女に案内して貰うと、彼の性癖が刺激されて落ち着くのに時間かかりそうですし」
「そっちが本音か! ……まぁ頑張れ若人、恋力を楽しみにしているよ!」
「はい、ありがとうございます」
私はトウメイさんに礼をしてヴァーミリオン君を探すのを再開しました。
教会。いません。
酒場。いません。
薬屋。入れ違いです。
魔力探知。痕跡はあっても方向が分かりません。
温泉。居なかったのでもう一度汗を流します。
クロさんの屋敷。居ません。
ライラックさん邸。夫婦でいちゃついてました。
広場。クロさんのあらぬ噂でもちきりです。
カーキーさん邸。聞こうとしましたが中から聞こえてくる声を聴き踵を返しました。
もう一度酒場。居ません。
「もういっそ飲んで騒ぎましょうか……そうすれば見つけれくれるかもですし……」
「やめた方が良いですよメアリー。私のようにお酒に無理矢理酔った勢いでいき、気が付けば翌日夫に土下座をされて“責任は取るから”とかいう夫婦の始まりは嫌でしょう?」
「え、ええと……というかレモンさんある意味強いですね」
一瞬気の迷いはありましたが、レモンさんレインボーさんの馴れ初めを聞いて思い直しました。
のどは乾いていたのでノンアルコールを注文して一杯だけ飲み、身体を落ち着けた所で再び教会に向かいます。先程は祈りの人が居ましたが、時間も時間なので今は誰も居ないかもしれません。そう思いつつ教会の聖堂の扉を開けると――
「メアリーか?」
――そこには、私が探し求めていた彼が居たのです。




