頼れて不器用な幸せを願う女性で男性(:白)
View.メアリー
結果、シャル君との模擬戦は私の勝利で終わりました。
昨日のような心理的言葉を突いての不意打ちも無く、互いが互いの全力を出し切っての戦いを経て私は先に護身符の耐久を削りきる事が出来たのです。ただ、私が最後の一撃を加えた時にシャル君の刀も私の首に届きかけていたので、実際の戦闘だったら引き分けだったかもしれませんが。
「ふぅ、良い汗をかきましたねー」
ともかく、朝からの激闘は私に良い運動をさせ、とても晴れやかな気持ちにさせてくれました。……模擬戦が終わった後に「やりすぎだよ」とオーキッドさんに軽く怒られはしましたが、ともかく気持ちの良い汗をかきました。……気持ちの良い、汗を……
「……温泉でも行きますか」
シャル君にはああ言いましたし、今出会っても良いと言えば良いのです。ですが今会うよりは心情だけでなく身体もさっぱりした気分で出会った方が私らしいのでシャル君に言った事とは矛盾しない。そんなよく分からない言い訳を自分の中で言いつつ、私は温泉に向かいます。
「ととのう、というやつやってみましょうかね……!」
シキの温泉には最近サウナが出来、ふと前世で「よく名前は聞くけど身体に悪いんじゃ……?」と感想を抱くだけで試した事が無かったととのう、という奴をやってみようかなと思いながら温泉へと向かいます。身体を整えてレッツ告白です!
「身体に負担がかかりますから知識無しにはやめた方が良いですよ、メアリー様」
「あれ、エクルさん。おはようございます」
私がウキウキしながら歩いていると、何処となく呆れた様子のエクルさんに話しかけられました。どうやら朝の軽い運動は良いとアイボリーさんに言われ、外でラジオ体操をして居る最中だったようです。
「私も前世でやった事はありますが、感想は“命を縮めている感じがある”です。気持ちは確かに良いのですが、これ大丈夫なのかな……? って思いますから、やるにしてもお気を付けて」
「なるほど……あ、そうです。エクルさんも温泉に行きませんか?」
「許可を取れば大丈夫かもしれませんが……その前にお聞きしたいのですが」
「あ、はい。多分エクルさんの予想通りで私は今日決めるつもりですよ」
「そ、そうですか。……質問の内容が分かったので?」
「シャル君にも先程見破られましたし、もう開き直ってます」
エクルさんの様子を見て、「あ、この様子はさっき見た表情だ!」となりもう先んじて言っておきました。もうドンと来い告白見破り、の気持ちで言っています。
「もし可能なら、何故急にそう思ったかを聞いても良いでしょうか」
「んー……ノリで?」
「え゛」
「誤魔化しとかではなく、一言で言うならそんな感じです。色々考えた結果ふとやろうと思った感じです。いえーい」
「棒読みなイエーイですね……」
私がダブルピースをエクルさんに見せながら説明すると、呆れたように、しかし何処となく嬉しそうな表情を作ります。理由はともあれ、自分の意志で、そして追い込まれた訳でもなく自然に前に進めた事を自分の事のように喜んでいるように見えます。
「まぁメアリー様が決められたのならば私はとやかく言いません。吉報を待っていますよ」
「凶報になったさいにはクリア神スタイルでシュヴァルツさんを見習う感じになるんでよろしくです」
「よろしくしないでください。凶報は無いとは思いますが、絶対におやめください」
「何故無いと言えるんです!」
「そこで何故詰め寄るんですか!? 私がメアリー様が失敗しないと確信しているという方向に見てくださいよ!」
「何故確信しているんです?」
「急に落ち着かないでください。え、ええと、メアリー様が告白して彼が断るとは思えないからですよ」
“私が”告白する、とはまだ言っていませんが、エクルさんの立場ならばそう思ってもおかしくは無いですね。まぁそこは置いておくとして、確信を得ているのは……はい、もう今更感があるという感じですね。そこを追求すればエクルさんの生易しい目でお説教が始まりそうなので触れないでおきましょう。
「私に手伝える事はありますか? 病床の身ではありますが、多少ならこの通り動けますので」
「そうですね……」
シャル君といいヴァイオレットといい、皆さんが告白のお手伝いを申し出てくれるのは嬉しいのですね。……嬉しいですが、元好きな相手や恋の略奪者に申し込むって凄いシチュエーションですよね。
「では一つエクルさんにお願いが」
「お、なんです?」
シチュエーションに関しては気にしたら負けですが、ともかくエクルさんにして欲しい事と言えば……
「私の事は良いんでさっさと恋人を作ってください」
「……はい?」
私は親指を自身の首の前で斜めに割くようなジェスチャーを笑顔で言います。エクルさんは予想外の言葉に少しフリーズをします。
「あ、ちゃんと“好きな”恋人じゃないと駄目ですよ。政略もOKですがテキトーは駄目です。ファイトです!」
「ファイト、じゃ無いですよ!? え、なにを急に……!?」
「あ、別に男性でも良いですよ。あとはホリゾンブルーとアップルグリーンさんのような異種間でも構いません。とりあえずレッツ恋愛!」
「そういう事ではなく! 何故急にそんなことを!?」
「だってエクルさん、私の告白が成功しても、なんかクリームヒルトとティー殿下に家を任せて宮仕えもしくは私達の執事とかやりそうですし……」
「うぐ」
まさかのドンピシャですか。このまま放っておくと私のために人生を費やしそうですしね、エクルさん。王族に仕える執事としては立派かもしれませんが、下手したらカナリアと出会わなかったシロガネさんのように、自分を卑下して自分の恋愛すら否定して仕えるようになりかねませんからね……それは流石に遠慮願いたいです。
「まぁ、とはいえ恋愛は強制してやるものでもありませんし、少しウエイトを置く感じで意識してください。目指せっ、ハーレム!」
「私の前世の女友達の恋人が他に女が居ただけでなくさらに妻が居た事も有りハーレムはノーサンキューです」
「そういえば言ってましたねそんな事。……ですが私のあの生徒会の状況は是としてましたよね」
「そこはメアリー様に許された特権と言いますか。……ともかく、カーキーくんのように人を幸せにする器量は無いと思いますので、私にはハーレムは無理ですよ」
正直今までのエクルさんの働きぶりを見ると、三人くらいまでなら妻全員幸せに出来る器量は有りそうなんですがね。めっちゃ裏で働いていましたし。偶に私にこの世界が乙女ゲームの世界だと認識させるために首痛め系立ち絵を再現するためよく首に手を当てる、という妙な不器用さはありましたが……
「エクルさんなら大丈夫ですよ。私がそうしたいから告白に踏み切ったように、エクルさんにもふとそう思える人が出来ます。――貴方が尊敬してくれている私が保証しますから」
ただ、この二つの人生を私のために頑張ってくれたような不器用な人が、これからも私だけのために人生を費やして欲しくはない。……そんな自分勝手な事を、私はいつも思い、願うのです。
「メアリー様……」
「あ、ちなみに私達の仲人もやって貰いたいので出来れば早めにお願いしますね!」
「恋愛は強制するものではないのでは!?」
「知らん!」
「口調まで変ですよメアリー様!?」
「あ、では私は温泉に行きますので、許可が取れたら後から来て下さいね! ではー!!」
「あ、待ってください。メアリー様、メアリー様ー!!?」




