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軽口を言い合える察しの良い男友達(:白)


View.メアリー



「おはようございます、シャル君。朝の鍛錬ですか?」


 ヴァーミリオン君を探し始めて、一番最初に出会ったのはシャル君でした。正確には土から顔だけ出して野菜の気持ちになっている八百屋の主人や、その妻であり夫に水をかけては恍惚に浸っている八百屋の奥さん、殺し愛で互いの胸を物理的に貫いている仲良死夫婦などは見かけたのですが、外で挨拶をするのはシャル君が初めてです。


「おはよう、メアリー。鍛錬中だが今は鍛錬の合間の小休止、だな」


 汗を掻き、刀を持ってはいても素振りなどはせず空を見上げていただけのシャル君は、私に気付くと去年と比べると表情豊かになった表情(他の学年の方々から見るとまだ仏頂面に見えるそうですが)を見せながら挨拶を返しました。


「空を見上げていましたが、雨が降るとかを見ていた感じですか?」

「それもあるが、ふと思った事があって試すかどうか悩んでいた所だ」

「試すような事ですか」

「ああ。私は限られているとはいえ手近な空間を斬れる訳だが、その応用で斬る空間の距離を伸ばしていけば雨雲まで届き、雲を晴らして空を晴れに出来るのではないか、と考えてな」


 シャル君の今の成長振りを考えると普通に出来るようになりそうですね。……というより空間を裂いて時空の狭間を生み出すのと雨雲を晴らすってどっちが凄いんでしょうか。空間を裂くという特殊すぎる事象を当たり前にやる人が身近に三人(シャル君、クレールさん、オーキッドさん)もいるので感覚が狂っている感が凄いです。


「出来るかどうかを試すのは良いとして、出来たとしても気軽にやらないでくださいね?」

「もちろん気軽にやる気は無いが、何故だ?」

「知らない内に遠い場所が影響を受けたり、晴らした場所の気象バランスとかが崩れるので……」

「なるほど、気をつけよう――崩れる? 崩れそう、ではなく、か」

「湖が干上がりかけたので雨を降らせる物を錬金魔法で作ったら、その街だけに雨雲が留まり続け局所災害を引き起こしかけた迷惑な師匠がいまして」

「……なるほど、気をつけよう」


 気をつけはしても、やれるのならやりたい、という感じですね。師匠と違って災害には発展しなさそうではあるので大丈夫だと思いますが。……空を裂こうとして大地の方が先に裂けたとかなりませんよね。大丈夫ですよね?


「ところでそちらは散歩か? 昨日のように模擬戦でも――」


 私が不安視しているとシャル君は私に昨日のような模擬戦を頼もうとし、


「――いや、なんでもない。私はここでもうしばらく鍛錬する予定ではあるが、なにか手伝える事はあるか?」


 私の様子を見てなにかに気付き、模擬戦の誘いを中断させました。何処と無く優しい微笑みを浮かべ、祝福するような嬉しさをにじませています。

 ……これは私が相変わらず分かりやすいのか、シャル君が鋭いのか微妙なラインですね。シャル君は私も無自覚な部分のヴァーミリオン君への気持ちも言い当てた辺り、後者の線が濃そうですが。

 しかしシャル君に手伝ってもらえるような事ですか。告白自体は私だけで解決出来ますし、すべき事ではありますが……


「そうですね、では昨日のように模擬戦をしましょうか」

「……良いのか?」


 私は折角なので、シャル君との模擬戦をする事を選びました。こちらの選択は予想外だ(見抜けなか)ったのか、心配するような表情を浮かべてきます。その心配は告白するであろう決意を決めた日に、寄り道をし汗を掻いてしまって良いのだろうか、というものでしょう。あるいはセットや服が乱れるというのもあるでしょうか。


「シャル君、心配して頂けるのは嬉しいですが、その心配にはこの問いで答えましょう」

「問い?」

「はい。貴方の好きだった相手は、その程度で嫌いになってしまうような女ですか?」


 自惚れ、自意識過剰、驕っている。そのように取られても、嫌悪を抱かれてもおかしくは無い問い。というより実際自惚れていますし自信に満ち溢れています。ただ自堕落ではないというだけです。


「嫌いにならないな。どのような姿のメアリーも俺は好きだった。今でも友人として好きではあるが……しかし、随分と自信に溢れた発言だが、どういった心境の変化だ?」

「私が私らしく善くあろうとすれば、それで充分だと気付いただけです」

「なるほど。それが難しいのだろうが――」


 私の回答に何処と無く「相変わらずであって良かった」と小さく笑ったシャル君は、近くに置いてあった護身符の所まで行き、魔力を込めると一つを私に投げ渡します。


「では、俺は善くあるために協力をするとしよう。――いや、折角だ。無残に負かせて今のメアリーでは善い状態で無くさせてみせるとしよう」

「ふふ。――やれるものならやってみてください」


 私達は互いの軽口にニコリと笑い。


「――行くぞっ!!」

「――行きます!!」


 それを合図として、本気の模擬戦が始まるのでした。



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