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仕様が無い(:菫)


View.ヴァイオレット



 クロ殿は力が強い。

 見た目は“しっかりしている”という表現が合うような引き締まった身体で、筋肉がついてはいるが、その見た目以上に力が強い男性だ。純粋な力自慢であるクチナシ義姉様やクリと比べればパワーは弱いが、力の使い方はクロ殿の方が上手い、というような強さを持つ。

 その強さは触れていたり、先のセルフ=ルミノスとの戦いの時のように背中を見ていると大いに感じられるような、私がクロ殿の好きな所の一つと言える。


「ふふ、ヴァイオレットさんの手……あったかい……」


 現在の私は、その強さに溺れかけていた。

 恐らく身体の免疫力と沢山食べた影響で体温が高く、私も温かく感じる身体。

 服越しに感じる皮膚の柔らかさと、その奥にある心地良い堅さの筋肉。

 自分の心音よりも間近に聞こえ感じる心臓の音。

 パジャマの洗濯した後の香りと、汗の香り。

 その全てが私に対し無防備に浴びせられているのである。


――そう、無防備だ。


 見えない物を見たがったり、未開の地を探検するような人間の性とでも言うべきなのだろうか。好きな存在の隠された物を解明したり感じてしまうという事は、人間にとって抗えない魅力と言えよう。

 ようするにこの無防備がいけない。意識的にされるのも良いのだが、無防備を曝け出せるほどの、ヒトには見せない姿を私が堪能しているというのが良くない、いや、良い、良くない、素晴らしい。クロ殿は普段から「トウメイさんのように隠さずにいると却って興奮しなくなる」と言っていたがまさにこの事であり、普段見せないあれやこれやそれやどれを――


――だ、駄目だ、すぐに離れなくては!


 上手く回らない思考の中で自分でも支離滅裂な事を考えている事が分かる。

 重要なのはクロ殿がヒトには見せない、見せたくない様子を私に曝け出してしまっているという事。ならば私がいくら堪能したくてこのまま眠ってしまいたくとも、クロ殿のために今すぐ離れる事が重要だ!


「ス、スミレ、頼むからこっそりと、起こさぬように私を解放してくれ……!」


 とはいえ、私の力ではクロ殿から解放される事は出来ない。クロ殿がちょっとでも力を入れて抱きしめれば抱きしめられたままになってしまう事を私は身をもって知っている。だからスミレに起こさないように解放してもらうよう頼み込み、


「現在私はスリープモードです」

「おい」

「現在私はスリープモードです」

「…………」


 なんだか今まで見たどのスミレよりも生気を感じない様子で、同じ文言を繰り返されるだけであった。……。


「もし私を解放させてくれた暁には、先程希望し却下されていたクロ殿を理解するための従事五日間連続を叶える味方をしても良いぞ?」

「…………」

「四日間」

「な、何故少なくするのです……!?」

「早く助けてくれねばどんどん下がるし、最終的にこの後すぐに風邪の看病をアンバーに引き継がせる事になる。……みっ――」

「わ、分かりました。分かりましたから下げるのをやめてください……!」


 小声で交渉をしつつ、三日半の契約で私はスミレを味方につける。表情が何処か「せっかくのチャンスをあげたのに……」というような不満に満ちた表情であったが、やると決めたからにはどうにかしようと私に近づき、クロ殿を起こさないように私を解放していく。


「ふぅ、完了いたしましたよ。……本当によろしかったのですか?」

「良かったんだよ。惜しくはあるが、そうも言っていられまい」


 クロ殿を起こす事無く、絶妙な力加減と腕捌きで私を解放したスミレ。流石と思うと同時に、私の心情を見抜くように聞いてくる。

 ……正直惜しくはある。あのように抱きしめてくれるのならば、私はいくらでも抱きしめられていたい。

 だが万が一傍に居て、私が風邪をひいてしまえばクロ殿に迷惑がかかる。私の身体は強くないため、万全を期しても風邪をひく事はあるのに、まだ治っていないクロ殿の傍……抱きしめられ吐息が当たるような距離に居れば風邪がうつる可能性は高くなる。ならば私の欲望は我慢――


「あれ、ヴァイオレットさん……居なくなっちゃった……寂しい……」


 …………。

 その言葉は、ちょっとズルい。


「スミレ」

「はい」

「私はちょっと、万全の準備をしてから再びこの部屋に来る」

「はい。私はその間、および後になにがあってもすぐに回復出来る準備をしておきますので」

「頼む。……まぁ、手を握るくらいは、良いだろう」

「ええ、そうですね。クロ様もそれを望まれていましたから」

「そうか、なら仕様がない」

「はい、仕様がありませんね」


 それ以上の事を望んでも良いと表情でスミレは言っている気がしたが、実際に言われてはいないので気付かない事にした。


 その後、何処か子供じみた最愛のヒトが起きるまで手を繋いで過ごしたりもしたが、深くは語らないでおこうと思う。語るとその時の感情に型をはめてしまう事になりそうで、それはなんとなく嫌であった。


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