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灰-風邪をひいて_1


 グレイが風邪をひいた。


 グレイの身体は強くも無ければ弱くも無い。

 前領主の頃に栄養不足気味で育てられたため、免疫が低下していたのか俺が来た頃はよく風邪をひいてはいた。

 徐々に体を慣らして栄養をつけていったので一応今では一般的な耐性程度は持っているが、今回はどうやら首都への観光といった慣れない出来事が重なって風邪をひいたようだ。

 風邪、というよりは前世で言う所のインフルに近い形かもしれない。本来なら大事を取って何日も看病する必要があるのだが……


「グレイー大丈夫かー? この薬は食後に一錠ずつ飲めば回復していくからな。治ったと思っても三日は飲め」

「くくく……グレイクン、これも飲むと良いぞ……呪と解の力を込めた冥寿水(みょうじゅすい)だ。エメラルドクンの薬と一緒に飲むと良いぞ……くくく……」

「ありがとうございます……エメラルド様、オーキッド様……こほっ」

「無理して返事しなくていい」


 だがここはシキである。

 能力はあるけれど居たら困るという理由で追いやられた奴らが居るシキという場所である。ようは病気にかかっても大抵は治る。例えば今居る黒魔術師(オーキッド)とかの不思議な黒魔術による逸品や毒物愛好家(エメラルド)の薬などだろうか。お陰でグレイの症状も大分落ち着いている。

 しかし完全に全ての病気が治る訳でも無い。風邪と似た症状でも別の病気なんてものも良くあるし、耐性や抗体などで同じ薬が効かない事もある。それに潜伏期間とかの心配もある。

 なので落ち着いているとはいえ、後は経過観察も含めた看病だ。


「それじゃ領主。私はこれで行くからな。後は任せた」

「ん、ありがとなエメラルド。オーキッドもありがとう」

「くくく……ありがたく礼を受け取ろう」


 グレイの部屋を出て、防寒具を着て帰路につこうとするエメラルドとオーキッドに俺は礼を言う。


「しかし、私が言うのもなんだが、よく私の新薬をグレイに試させるのを躊躇わないな」

「お前の調薬技術は信用しているからな。はい、料金と柑橘類。親父さんと食べるといい。オーキッドも」

「……料金はいらない。新薬実験も兼ねているからな」


そう言って受け取ろうとしないエメラルドに、受け取らないと直接渡しに行くぞと無理矢理握らせて一緒に蜜柑とかを渡す。

 エメラルドは新薬実験とか言っているけれど、症状を診て純粋に一番効く薬を服用させただけだろう。


『くくく……なるほど、そのように調合するならばこちらもこう配合して……呪の力と黒の力をくくく……よし、完成だ。一緒に飲む事で効果は飛躍的に上昇するぞ……』

『待てこの闇魔法使い。私がこの薬を調合したのは今初めてだ――なっ、この配合はなんだ、確かに効果が……!?』


 ……まぁその調合した薬に対してすぐさま効果を高める水を作り出したオーキッドは何者なんだという話もあるが。飲んだら大分グレイも落ち着いたし。

 ともかく、お金関連はなぁなぁで済ませては良くない。キチンとしなくては。

 そしてオーキッドには好物の柑橘類の代わりに好物の林檎も一緒に渡すと「くーっくっくっくっく!」と喜んで貰えた。ただ妖しいだけだったが。


「というか、領主夫人はどうした」

「ヴァイオレットさんなら、グレイが熱で倒れた時に慌てすぎて食材保管の所に頭から突っ込んだから、今頃その片付け中だ」

「なにやっているんだあの女は」


 グレイが熱を出していると判明した時、ヴァイオレットさんの慌てぶりはこっちが逆に落ち着くほどであった。

 なんというか振る舞い自体はいつも通りの毅然とした態度なのだが、言っている事とやっている事がちぐはぐであったのだ。


『風邪か。ならば療法として栄養と発汗作用と滅菌作用があるモノを用意しなくては』

『ヴァイオレットさん、そのお酢をどうするつもりですか』

『身体を温めなければな。冷えは大敵だ』

火術温石(カイロ)五十は火傷します。てか何処から取り出したんですか』


 一応グレイを布団にいれて温かい格好をさせた後の行動で、多分実際に行動に起こす前には間違えに気付いていたとは思うけど……まずはヴァイオレットさんを落ち着かせなければ看病を出来るものも出来なかった。

 しかしグレイを大切に想ってくれての行動なので、慣れ親しんでいるという事だから良いのかもしれないが。あとは不謹慎だが慌てているヴァイオレットさんは意外な一面を見れて良かったなともちょっとだけ思った。

 ともかく今は落ち着いて貰って、おかゆを作ろうと食材保管庫の食料に突っ込んだので掃除をしてもらっている。


「ああ、ちなみにあの馬鹿には今帰る時に伝えておくからな」

「あの馬鹿?」

「グレイの師匠のあの馬鹿だよ。……患者の体力低下は見舞いが多いんだがな」


 エメラルドはそう言うと、「言わないと後で面倒だからな」と包帯に巻かれた手で頭を掻きながら面倒くさそうにしていた。

 確かにすぐにエメラルドに薬を貰いに行って、他の誰にも伝えていないから、アプリコットはグレイが熱を出した事は知らない(オーキッドは偶々エメラルドと共に居た)。もし知っていたら――


「弟子が熱と悪魔にやられて最終決戦(ラグナロク)中だと聞いた! 無事だろうな!」


 ――こんな風に、駆け付けるだろう。

 唐突に現れたアプリコットにエメラルドは溜息を吐き、オーキッドは身体周りの黒い靄を濃くした。というかその黒い靄ってどういう仕組みで掛かっているのだろうか。


「……まぁ、なんだ。領主も領主夫人も領主としての仕事があるだろう。後の看病はあの馬鹿に任せた方が良いのではないか?」

「……そうだな」


 色々と心配だが、料理も看病もアプリコットの方が手馴れている。

 ここは任せた方が……


「ふっ、後は我に任せておくが良い! まずは御粥を――しまった、調理器具(パスワード)を忘れた、取りに行かねば!」

「アプリコットクン、器具はここにあるのを使えば良いと思うぞ」

「む、むぅ、そうであった。あとは食べやすい甘い蜜柑を用意したぞ! 冬と言えば蜜柑だからな!」

「風邪ひきには柑橘は良くないぞ。林檎なら良いがな……くくく」

「あっ……くっ、そうであった……!」

『…………』


 ……ヴァイオレットさんと似た慌て方をしているが、大丈夫だろうか。


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[良い点] リアルにオーキッドは友達になりたい
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