冥途の土産
「ほら帰れ。オールさんがお前の帰りを待っているぞ。愛してくれている妻を待たせるんじゃない」
「まぁそう言うなクロ・ハートフィールド。確かに僕はお前のその反応を見るため、自罰を反して此処に残ってはいる」
「相変わらずだなお前。どうせシュバルツさんが来た時も、“説明して戻って来た時に俺に感謝されるのも良いが、此処は放置して俺が安心した時に声をかけた方がより嫌そうな顔を見れる!”とか思ったんだろう」
「そうだな。よく理解してくれるようで嬉しいぞ」
「美々」
理解するのは嫌だが、この男の行動パターンは読めてきた。読めてはきたが、未だに「後から考えるとこういう事なんだろう」という程度しか分からないので、事前に防ぐとか驚かないとかは出来ないのだが。防ぐためにはコイツをより理解しなくてはいけないので、防ぐ事は無理だろう。というか理解したくない。コイツは理解不能のままで居てくれ。
「クロ殿、その感想はカーマインを喜ばせるだけにならないか」
「以心伝心ですが、ヴァイオレットさんが言うんですね」
確かに「お前はずっと理解不能なままで居てくれ」とか、なんかライバルキャラっぽいセリフだなとは思ったけど、まさかカーマインではなくヴァイオレットさんに言われるとは。言う人が違うだけでこんなにも気持ちが穏やかになるのだなと思う一瞬である。
「妻に言われて落ち着いた表情を取り戻すのを見ているのも中々に乙な物だが、続けて良いだろうか」
「おう、俺の妻との愛を見せつけてやるから続けろ」
「続けて良いんだねクロ君」
「シュバルツさん。なんだかんだでこの男の言う事自体は、役に立つというか俺の知りたい情報なんですよ……」
「悔しそうだね」
そりゃあ知りたい情報という事はこの男に理解されているという事だからね。苦虫を噛み潰したような顔にもなるさ。
「続けよう。まず一つ。ノアの箱舟がシキに来た理由は、とても簡単に言えば“シキに居るクリアに見せつけるため”というのは分かっているか?」
「そうだろうな。墜落とかも含めた人質……地質? みたいな感じだったんだろう」
セルフ=ルミノスの最期の足掻きとも言える墜落はあの時に考えついたからやった、みたいな感じではあったが、あらゆる魔法障壁で防御された動力炉に傷をつけ、墜落させる道筋をあっさりと熟していた辺り予定通りではあったのだろう。場合によっては洗脳者を向かわせて、トウメイさんと融合する前の戦っている状態で実行し、時間制限を持たせて慌てる姿を見たかった、という感じだったのかもしれない。
ただ、動力炉に居たメアリーさん達が思ったよりも強者だったので、ただの洗脳者では壊す前に気付かれると判断して向かわせなかった、という所だろうか。今となってはもう分からないが。
「それもあるが、例えあの女がシキに居なくてもシキに来たんだよ」
「……何故だ?」
「知っているだろう、この地が乙女ゲームでそこの女が雑に殺されるような地である事を」
「ヴァイオレットさんとそのヴァイオレット・バレンタインは別存在だが、まぁ知っている。つまり……闘技場下のドラゴンを呼び起したように、この地の封印されているモンスターを復活させようとした?」
シキはあの乙女ゲームでも厄ネタが眠り、今この地でも厄ネタだらけだ。王城とか学園には負けるが。
ヴェールさん含む調査隊やメアリーさん達がどうにかしてくれて今の所心配は薄いが、セルフ=ルミノスのあの実力を考えると不安はある。……既になにかされていた場合も含め、念入りに調査はしておくか。
「そちらはついでだろうが、あるだろう。シキの近くに昔の研究施設が」
「研究施設……というと、私が来る前にクロ殿達が壊したという?」
「壊したというか自爆装置があったというか……まぁそれでしょうね」
触手に襲われるという二度と体験したくない思いをした、「芸術はモンスターと爆発だ!」がモットーの研究者がいた研究所だ。割と本気で貞操の危機だったので正直思い出したくない。
「で、それがどうかしたのか」
「そこにいた研究者は“美しくない”と封じていたようだが、あったんだよ。そこの遥か地下にハンプ社が」
「……はい?」
帆布社とは、A25さんとかスミレさんとかを製造? していたクリア神が居た古代よりも遥か古代にあった文明の会社の名前である。…………え、どういう事?
「セルフ=ルミノスはクリアの現状を見るためと、一度シキに来てシキの情報を探ると同時に、とある自動人形を発見した。そしてそのままハンプ社と契約を交わして後にノアの箱舟でシキに移動。そしてシキの地下にあるハンプ社をノアの箱舟の直下に置き、引き上げてノアの箱舟に組み込んだ。という訳だ」
「……え、つまりシキの地下ってもしかして今、空洞だったりする? その帆布社があった分の地下が無い訳だし……」
「そうなるな」
「……私が捕らわれていた時見た限りでは、大分天井が高く、面積も下手をすればシキの居住区全体を覆っていたと思うのだが」
「そうだな。遥か地下のため地盤は固く影響は少ないかもしれない。一応お前が来る前に私が調べておいたが、早々影響がある物ではないとは分かった」
「つまり早々でなければ、影響が?」
「下手すれば謎の地盤沈下でシキという地が王国から消滅するだろうな」
『ええい、セルフ=ルミノスめ!!』
俺とヴァイオレットさんは同時にこの様子を見たら楽しそうに嗤いそうだと思いつつも、名前を恨みがましく叫んだ。
帰ったばかりだと言うのに、早速あの男の冥途の土産が出て来るとはな!
「うん、夫婦揃ったその表情を見られて、俺は満足だ!!」
『喧しい!』
そしてこの男もこの男だな!
備考 研究所
442話、リクエスト話:なろうテンプレ的なダンジョン攻略に出てくる、クロとオーキッドがエッチィめに会い、カーキーが愛を囁くお話があった研究所です。




