愛の証明と恐さ
初めは一撃が力があるだけで技術が拙い、銃を持っている素人が乱射しているだけのような素手での殴りをして来た。
特殊な力で全速力で俺を追ってきて、場合によっては戦闘終了後に俺を処理しようとしていたブラウンと、フォーンさんが到達する頃には、武道の道を歩んでいるようなレベルの技術を持つようになった。
グレイに呼ばれて先行したクリームヒルトとシアン、クレールさんにスミレさんが来た頃には、俺が知る限りでは技術×力で俺が知る限りでは最強と言える成長をしていた。
駆け付けた皆が手を出せないような戦い、手を出せば銃撃を受けるため手を出せないような戦いをしている中、ここで仕留めるという気持ちが強まりボーダーを超えそうになる。
「成長というのは楽しいね、黒・一色」
「迫り来られる方からしたら楽しくは無いがな」
「おや、自分が上だと思っているんだ」
「上だからお前が成長せざるを得ないんだろう」
「成程ね。――じゃ、もっと上に行かなくては」
速度が上がる、鋭さが増す。先程のように腕の数が増えていないのに迫りくる数が増えたような錯覚を覚える。見える量が減った今の俺でも追う事が出来るが、このまま加速していくと取り返しがつかなくなる。
ボーダー云々の話ではなく、こちらの負けが視野に入り込んできてしまう。
「成長はそっちの特権じゃねぇ」
だったらこちらが上にさらに行くだけだ。
鋭さが増したなら鋭さを。
技術が洗練されたら数を増やして複雑さを自分の物にして。
力が増したなら強化魔法をさらに回して上限を上げ続ける。今まで出来なかった事が出来るようになっていく。これぞまさしく成長という奴だろう。
「それも愛の力かい?」
「よく分かったな」
「僕も同じ物を感じたからね」
「お前の愛とは種類が違うだろうが」
「同じかもしれないよ。――なにせ、お前を見て成長しているかもしれないのだから」
…………。
「は?」
ええと、うん。つまり、なんだ。
先程の問いは、“俺の成長”は、“ヴァイオレットさんとの愛”が元となった成長であるかと問い、俺は肯定した。
次の問う事が出来た理由の答えは、“同じ理由”で“成長している”と答え、俺は“クリア神への愛は自己愛”であると否定をした。しかしコイツは、今の成長は自己ではなく他者に向いていると答え、その対象は俺だと言う。
つまり。
――……コイツ、俺を愛そうとしているという事?
成程。……なるほどー。
「気持ち悪い!」
「美女に好かれてなにが不満だ!」
「不満が無いと思ってんのか!」
「思ってる! なにせ、愛は素晴らしいものだからね! クリアへの愛とお前の愛で、ダブルで強い愛を持っている僕は最高の状態さ!」
「最悪だな!」
こ、コイツ、俺の愛を乱そうとしているな、新たな愛をぶつけようとしているな!
クリア神への(自己)愛は据え置きで、新たな愛を増やすんじゃない! ヴァイオレットさんへの愛が揺るぐ事は無いが、愛とは別の感情が俺を揺さぶるんだ! ――はっ、これがクリノスの狙いか!
「というかなんだ、また変態が増えたのか。増えたのなら遠慮はいらんな! これ以上は容量が一杯だから消え去れ!」
「前世も含めお前はそういう星の巡りの下に生まれているのさ!」
「やめろおい、だからといって増えて良い理由にはならんわ!」
「ははは照れるな。照れなければこの身体を自由にできるぞ!」
やかましい。ヴァイオレットさんが居るのに自由にする必要などない。……それを言うとヴァイオレットさんに攻撃の矛先が向きそうなので言わないが。
「じゃあさっさと倒れろ、お前が負ければそれで俺は満足なんだよ!」
「愛で成長する、成長すればするほど愛があるという事だ。だからやめない!」
ええいこの愛の一方通行め。つまりは俺を愛していても俺に勝つ事が愛の証明になるから戦うのをやめない、という事か。……それを分かってしまうのも嫌だが、とにかく俺はコイツを倒さないと駄目な訳か。結局は変わらんな。難易度が精神面で高くなっただけだ。辛い。
「クロ殿、そんな奴はぶっ飛ばしてくれ! 私達の愛を証明しよう!」
「そうだよ黒兄、ぶっ飛ばして愛を証明だよ! ぶっ飛ばさないとこれから愛、(笑)って内心で思い続けるよ!」
「行ってクロ! ここで苦戦したら結婚式のスピーチでシキの皆に言うからね! そして私の結婚式を真の愛の前座にするよ!」
ありがとうございます、ヴァイオレットさん。お陰で精神的に余裕が出来、さらに上に行く事が出来そうです。
そして後者二人。後で覚えていやがれ。あと真の愛ってなんやねん。
「愛、愛、愛! ああ、素晴しい、この世には色んな愛があるようだ――それを教えてくれた責任を取って貰おう!」
「OK、取ってやる。だから倒れろ!」
俺は愛の肯定と否定のため、成長している拳――愛の拳で他の愛を否定した!
……こんな愛の使い方は嫌だ……!




