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移行(:菫)


View.ヴァイオレット



 A25。種族名(?)はオールバッキングシステム。個人名はA-25-37458番

 個人名は何処となく名前というよりは奴隷に対する識別名のような感じなので好かないが、ともかく彼女は遥か昔に存在していたとされる文明の生き残りだ。

 その実力は、魔法こそ使えないものの魔法のような“技術”を駆使し、純粋な身体能力がクロ殿を上回ると言えるような強者。私が戦い、A25が本気を出せばA級モンスターなど敵ではなく、敵対すればまず間違いなく私はあっさりと肉塊に変えてしまうような実力を持つ。

 だが、その評価はA25の実力の“一端”を見た私がする予測に過ぎない。過大評価かもしれないし、過小評価かもしれない。今の私に出来るのは彼女が敵対しないように立ち回る事だと、彼女を味方として接しつつも警戒は怠らなかった。


「――ERROR.ERROR

権限を移行いたします」


 だがその警戒は甘いものであったと、平坦な声で同じ言葉を繰り返すA25を見て気付かされた。

 目を見開き、警告を示すかのように瞳を赤く光らせる姿は異様という他ない。そしてその身体から発せられる圧力は――


「処理を実行いたします」


 闘技場でドラゴンと相対した時以上に、私に死を身近に感じさせた。


――ふむ、グレイだけでも逃がすか。私は死ぬが。


 そして私は異常な様子のA25が、私達を処理しよ(殺そ)うとしてくるのを見ながらそのような事を考えていた。自分でも驚くほどに冷静に自分の命を切り捨てようとした。

 死ぬのは嫌だ。殺されるのも避けたい。だが今のA25に対してどちらも避ける事は難しい。二人で戦った場合下手をすれば――いや、最善手を取り続けても一つの小さなミスで私もグレイも死にかねない。それは絶対に避けなければならない。

 ならばグレイには逃げて貰うとしよう。悪いが先程は微笑ましく思った、変わらない素直に言う事を信じてしまう純粋さを利用させて貰う。すまないグレイ。最低な母だと後から罵ってくれても構わない。


「大切な場所の領主になにをしようとしているのかな」


 私が自分の命を捨て駒(チップ)として動こうとした瞬間、私よりも早い速度でクリア神が割り込んできた。長い髪を靡かせ、すっかり芸術品のような(きずのない)身体へと回復したクリア神。その姿は先程まで自分の命の危機を感じていたのにも関わらず、物語に出て来る戦いの一場面のようで見惚れてしまう。


「ERROR」


 私達に割り込んだクリア神は、異常な様子で攻撃を仕掛ける拳を受け止め、その威力を得意の【解法】という魔()相殺しきっ(キャンセルし)――


「――っ!?」


 ――たのように見えたのだが、A25の一撃は周囲の空間を響かせた。

 クリア神に当てられた一撃は間違いなく威力は消え切った。しかし当たる前の一撃が周辺の空間を震わせたのである。


「っ゛ぅ……!」

「ぅ、ぅ゛……!?」

「ヴァイオレット、グレイ!?」


 震わせた一撃はまるで地震のように空間に拳の一撃が伝播して、クリア神を素通りして後ろに立つ私とグレイにダメージが入る。実際に拳を受ける事と比べればダメージはかなり少ないが、平衡感覚を奪われるような揺れを身体に覚える。


「敵対するって言うなら容赦はしないよ」


 クリア神が戦闘モードのように周辺に魔力を漂わせ、神聖な魔力が私達すら覆う。覆われた私達は揺れた身体が治っていくような、安らかな感触すら覚える。なるほど、これは当時にクリア神を信仰していたヒト達の気分が分かるなと思わせるような魔力であった。


「急に襲い掛かって来た理由は分からないけど、その攻撃は――」


 と、私達が落ち着いてすぐに戦闘に復帰して距離をとろうとした時、安らかな感触の中に何処か攻撃的な魔力を感じた。

 回復してきた意識をクリア神の方に向けると、


「――今度は身体すらも変えたか、セルフ=ルミノス!」


 そこに居たのは敵意を隠そうともしないクリア神と。


「――よく気付いたね、愛しのクリア」


 声はA25なのに対し、喋っているのは別の者だと分かる雰囲気へと変貌したA25の身体を持つセルフ=ルミノスであった。


「ああ、気を付けた方が良い。僕の身体は確かに死んで、精神がこの身体に移った。つまり身体はA25と呼ばれている女の物だ。この身体を殺すという事は、A25を殺すという事にもなる。それをお前は出来るのかな、クリア?」

「この、奪っておいていけしゃあしゃあと減らず口を……!」

「そりゃ言うとも。なにせその方が君の、お前の、貴女の、(きみ)の感情を引き出せるし――楽しいだろう?」

「……っ!!」


 A25の口と姿でセルフ=ルミノスは嗤いながら、クリア神に攻撃を仕掛ける。見た目が美しい顔と可愛らしい服であるにも関わらず、その姿は先程までの天使のような悪魔の姿である、邪悪そのものであった。

 そしてそんな邪悪に対してクリア神は攻めあぐねいていた。

 魔法は無い。銃による攻撃も無い。恐るべき身体能力による攻めは確かに驚異的ではあるが、クリア神が全力を出せば攻められないという事はないだろう。

 私達にも被害が及べば攻撃を仕掛けるかもしれない。もしくは精神を乗っ取る仕組みを解明できれば対策が出来るかもしれない。しかし相手の身体がクリア神にとっては無辜の民であるという事が攻める手を鈍らせていた。

 そしてそれを分かった上で嗤い、楽しんでいるセルフ=ルミノス。その嗤い顔をどうにかして止めたいと思うが、私では――


「クリア様。お気になさらずぶっ飛ばしてください」


 と、私がどうすべきかと悩んでいると、私の懐から声が聞こえた。


「その声は、A25か!? 一体何処から……!?」

「はい、ヴァイオレット様の所持している端末から声を出しております。システムをこちらに移行させました」


 そういえばそのような物を持ち、ずっと懐に入れていた気がする。すっかり忘れていた。


「え、えっと、A25だっけ? 身体を移行させたってどういう……?」


 戦いながら、A25の事をよく理解していない(私もよく分かってはいない)クリア神が戦闘の守る手を緩ませずに尋ねる。


「詳細を説明すると七十七時間かかります」

「五秒で」

「その身体は私の複数ある身体の一つで、精神の大元の本体は無事です」

「つまり」

「その身体、ぶっ飛ばしてオーケーです」

「了解! 死ねぇセルフ=ルミノス! 少しでも有利を取ったと思い込んだその嗤い顔を壊してやる!」

「……もう少し躊躇ってもいいんじゃないかな」

『お前が言うな!』


 まったくである。


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― 新着の感想 ―
[一言] 機械は物分かりがいい。だからこそデータ移行でさらっと回避可能
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