逃がすとお思いか(:淡黄)
View.クリームヒルト
ティー君への洗脳、あるいは暴走は落ち着いてきたようだけど、まだ完全に解除とはならなかった。バーサーカーの如き挙動と咆哮はなくなったのだが、私達への攻撃はやめないし、なんか言動がおかしい。学園生一年組はいつもの事と言っているがおかしいったらおかしい。普段の彼は流石にここまでストレートではない。
「クリームヒルトさん、愛しています!」
「あはは、愛なんて言葉をそう何度も言うと、軽くなるってモノだよ!」
「そうですね!」
「うん、だから――」
「ですが! 究極に近くなるほど言葉というのはありきたりになるものだと貴女は言いました! つまり私の今の貴女への気持ちは究極なのですよ!」
「くっ、メルクリ●スめ……!」
「なんだか分かりませんが、今の貴女は照れているためあまり関係無い相手に八つ当たりしていますね!」
「あはは、そういうのは分かっても言わない方が良いってもんだよ!」
「折角責められて可愛い貴女を見られるのに、言わずにいられましょうか!」
「そういう事言ってると嫌われるよ!?」
「嫌いですか!」
「大好きだよ!」
「私もです!」
「――って違う、いや、違わないけど違うんだよ!」
「なにがですか顔が真っ赤なクリームヒルトさん!」
「やかましい顔色も分からないティー君め。そんな事言うって事は、普通に動けるよね! なんで攻撃やめないの!?」
「こうげき……やめる……?」
「急な洗脳済みのような片言!?」
「分かりませんが今の私は気分が良いのです! このままクリームヒルトさんと愛を叫びながら戦いたい!」
「くっ、これは酷い……! もしもこの状態が落ち着いた後にティー君が記憶を持ったままだったら、暴走ゆえの行動を思い出させないように殴って記憶を消さないと……!」
「割といつも通りであるよな」
「はい、クリームヒルトちゃんとティー君はよく闘技場で愛の模擬戦をやっていますからね」
「覚えていても“あれは本音です! 記憶を消すなんてとんでもない!”と言いそうだな」
「そこうるさい! こんな風に愛なんて流石のティー君もしてなかったでしょうが!」
「【雷神剣】!!」
「【対:雷撃防御術式】!」
「流石ですね、クリームヒルトさん。私の一撃を防ぐとは!」
「うん、正直自分でも防げて驚きだよ。なに今の技、今までの中で最高に威力が高くて死線を潜ったように心臓がバクバクだよ」
「それが愛です」
「それは違うと断言できるよ。いや、まぁ今の一撃が私への愛で可能となったティー君の最高記録な一撃と言われればそうかもとは言えるけど」
「おや、信じてくれるのですね」
「ティー君が私を愛してくれているのは分かっているからね」
「伝わっているのですか!」
「もちろんね。けど」
「けど?」
「今の状態のティー君は嫌いかな。――【草薙之剣】」
「っ!? 鎧が……!?」
「驚いた? 本当はティー君と模擬戦か、例の結婚前の戦闘とかそういう時に使おうかと思っていた技なんだよ」
「……雷神剣とよく似た、神に準ずる剣ですか?」
「あはは、本物には及ばないけどね。でも威力は充分な、私のかつての故郷での剣で、私の特性を活かした錬金魔法の剣だよ」
「特性……まさか……!」
「そう――斬ったら爆発するから、よろしくね! おらぁ!!!」
「わぁ!?」
「そこぉ!」
「地面が、壁が、庭が!!」
「あはははははは! 芸術は爆発だよ! 違った、愛は爆発だよ! 私の愛を受け止めて!」
「よし、来て下さい!」
「あ」
「ぐはぁっ!!」
「ああ、ティー君が真正面から一撃を!」
「鎧越しとはいえ、大丈夫であるか!? 確かバーガンティーめは……!」
「ええ、治療をしたとは言え、銃弾を受け、先程も中を掻き回された。大丈夫か……!?」
「――ふ、まだまだ!」
「おお、平気そうです! アプリコット様、ネロ様、これは愛ですか!」
「うむ、ひとつの愛である!」
「まぁある種の愛だな。でなきゃ真正面から受け止めないし――よし、せーので言うぞ」
「はい。せーのっ」
『愛されてるぞクリームヒルト(さん)(先輩)(ちゃん)!』
「ちょっと外野うるさいよ!!」
「ありがとうございます、皆さん、私は愛に愛している証明をできて嬉しいです!」
「ちょっと内野うるさいよ!!」
「さぁどんどん行きましょうクリームヒルトさん、私とどんどん戦い合いましょう!」
「…………」
「お互いの最高の力を思う存分、最高の力を持ってぶつけ合う事で、愛を――」
「つまり私に貴方を殺せというの?」
「――っ」
「お望みなら私は貴方を殺すつもりで戦う。貴方がそれを望むなら、私は応えたいと思うから。目も使う、力も惜しまない、例え嫌われようとも愛されるために本気を出す。そして必ず殺しきる」
「…………」
「ねぇティー君、私に最愛の人殺しをしろというの?」
「そうはなりませんよ。私は強いですから」
「そういう事じゃなくて――」
「全てを受け止める気でいるんです。貴女が恐れている、“外れていると思っている自分自身”も含めて私は好きだと言っているでしょう。それを受け止める強さが私にはあるんです」
「…………」
「貴女が自分を嫌うというのなら、私はそれも好きなのだと貴女に分かるまで伝えましょう。そのために強さが必要なら証明し続けましょう。殺しきるというのなら生き続けましょう。だから私は――」
「……うん」
「【雷神剣】!!」
「ここで!? くっ、【対:雷撃防御術式】! ――ちょっとティー君!?」
「なんです?」
「なんです、じゃないよ。そこはなんか格好良い事を言う所でしょ。なに攻撃して来てるの!?」
「こうげき……してきてる……りゆう……?」
「また!?」
「言ったでしょう、私は貴女愛している。だからそういうごちゃごちゃとした事を考えないように、戦おうという話です」
「くっ、結婚前に戦うなんて、ランドルフ家はおかしいと思ってはいたけど、ティー君はまだ大丈夫な方だと思ってたのに……なるほど、こうして見るとティー君がランドルフ家だと実感するよ!」
「ありがとうございます、そんなランドルフ家に入ってくれて!」
「まだ入ってないよ! それにバーガンティー・フォーサイスになるかもじゃん!」
「結婚は前提なんですね!」
「そうだよ今更逃がすと思ってるの!?」
「く、ぅ……!」
「そこで照れるの!?」
「く、ですが私はフォーサイスになるとしても、誇らしく、自分らしく、最大限に愛するためにも強さを証明してみせますよクリームヒルトさん!!!」
「ええい、もう納得するまでやってやるよティー君!!!」
『うおおおおおおおおおおおおお!!!!』
「……ヴァイオレット様」
「なんだA25」
「現代の恋愛とは……あのような感じなのです?」
「アレがよくある事ではないが、よく見ると言えばよく見る」
「見るのですね……」




