強いだけ(:淡黄)
View.クリームヒルト
「じゃ、シアンちゃんはクレール君達の治療をお願い! 終わる頃にはこっちも終えとくからさ!」
「あ、ちょ、リムちゃん!?」
シアンちゃんの返事を待たずに私は飛び出した。
私の動きに周囲の皆が驚き、真っ先にクレール君とA25ちゃんが私に続く、あるいは庇おうとして動こうとした。
「■■■■■■■!!」
「っ――!?」
動こうとした二人に対し、黒鎧ティー君は雷神剣の雷撃を強めて周囲に牽制をした。その威力は無視できるものではなく、A25ちゃんも対策なしでは突っ込むのは難しい高威力だ。
それをこのタイミングで使うとは、彼も私との戦いを所望しているから私以外に攻撃をする――という訳ではなさそうだ。なにせ私にもバチバチに電撃が来てるし、普通に敵意を感じる。対ティー君用に対策済みの魔力障壁を使ってやっと動ける程度だ。やっておいてよかった模擬戦闘。こんな形では使いたくなかったけど。
――さて、彼の今の状態は、と。
鎧は元の身長より三十センチほど高く、鍛えている割には細身な身体がまるで戦闘マシーンかのような体格へと変貌している。無駄に角ばった装飾もあって体当たりだけでもこっちが大ダメージを受けそうだ。
「■■■■■■■!!」
「おっと」
顔色は分からないが、声色はなんと言うか狂戦士の如き声を発している。普段の優しくも力強い良い声はほとんど見られず、喉がつぶれて元の声が出せなくなる前にどうにか叫ぶのをやめて貰わなくてはいけないな、と思う。
――魔力の量は向上、質は異質化……ではないか。
彼が雷神剣を振るい、赤色の電撃が私に襲い掛かって来る。魔力障壁を通しても私にダメージを与え、地面を余波で砕き地形を壊し、周囲に居る皆が下手に近寄れば攻撃の対象としていなくても戦闘不能のダメージを受けかねない高威力。まるで雷神を相手しているかのような雷嵐の災害だ。ある意味では嵐を巻き起こすという彼の母であるコーラル王妃に似ているのかもしれない。向こうは風がメインだそうだが。
――王族魔法の影響かな。
砕けた地面を錬金して武器とし、打ち合って、雷に対抗する魔法を放ち、力強くなった腕力を受け流したりしつつ私は“見る”。
彼の魔法の質は変わっている。異質化して別の物になった、のではなく割合が変わっているようだ。
元々彼は王族魔法というよく分からないのに強い、専用の魔法を使う事が出来る。基本は意識して使わない限り表には出て来ない魔法なのだが、何故か今はそれが表に出ている。だからと言って今使っている魔法が王族魔法という訳ではない。
どうやら“王族魔法を魔力に転換して雷魔法に変えている”という感じのようだ。理屈は分からないが、そんな感じでとにかく高威力の雷魔法になり、雷神剣も王族魔法に呼応して相応しい姿にパワーアップした、という感じのようだ。
「んー、なんというか」
そして荒々しい雷撃とは別に、彼の繊細な剣技がさらに研ぎ澄まされて攻撃をしてくる。雷撃も合わせてちょっとやそっとではこの剣技は躱せない。
機動方面も落ちていない。鎧があってただでさえ攻撃が通りにくいというのに、鎧の重さなんて関係無いかのような動きをする。めっちゃ素早い。エクル兄さんが眠っていた場所から離れた位置まで戦闘がもつれ込んだな、という疑問が解消されるレベルで素早い。高機動は私の売りだというのに、それをあげて来られたら私の強みが無くなるじゃないか。王族魔法でそんなところまで上がるのか。許すまじ王族魔法。なんなんだろう王族魔法。
「あはは、やっぱり」
彼が強くなる事は喜ばしい。私はティー君が強くなると良い戦いが出来て楽しいし、負けたくないという気持ちも強くなる。これは恋とかとは別の、互いを尊重するライバル関係のようなものだ。
「――駄目だコレ。早く戻そう」
だけどコレはつまらない。初めは操られているとはいえいつもと違うティー君との戦いを楽しめるかとも思ったが、これは駄目だ。操られているのではなく、強制的に引き上げさせられている。
ティー君の巧さが死んでいる。これじゃ強いだけだ。
「シアンちゃん、確かカラスバ先輩が国王からなにかを取り出したんだよね」
ティー君の雷神剣にワザと身体ごと弾かれ、空中で翻って着地した瞬間に近くに居たシアンちゃんに確認をする。急な言葉に驚くシアンちゃんは私の言葉に返答しようとするが、その前に私は言葉を続けた。
「多分それ、さっきの罠の認証にもなってる王族の中に作られる特殊な物だと思う。それを今取り出すから、確認後ティー君の処置をお願い」
そして私は再び自分の足で地面を蹴ってティー君との距離を詰める。
雷撃が襲い掛かる。居合のような一撃が私を襲う。マトモに受ければ私なんて粉々に砕けそうな力が振るわれる。
「下手だね、ティー君」
雷撃は全て相反する魔法で中和する。居合の一撃を見切る。マトモに受けずに撫でるように受けて力を無効化する。見えていればそう難しい事でも無い。
「ちょっと痛いかもだけど、我慢してね」
無効化して力の行き場を失った体勢のままのティー君に接近する。雷神剣を受け止めた左手とは逆の右手に力をこめ、貫手の形を作る。
「――そこか」
私の右手は鎧の“穴”を通して中に居るティー君に刺さった。手から人間の肉独特の感触が伝わって来る。そしてそのまま中にある結晶のようなものを見つけると、それを取り出した。
「へい、シアンちゃん。よろしく」
「え、あ、わっ!?」
その掴んだ物をシアンちゃんに投げて渡す。多分アレがティー君の現状の原因だ。
後は回復してくれれば良いのだが――
「■■■■……!」
残念ながらすぐには回復しないようだ。
ならばシアンちゃんによる回復の目途が経つまで戦おうじゃないか。今までのままならばつまらなくはあるが、それでも結晶を取り出した以上は少しは元の巧さに戻るだろうと思ったのだが。
「クリームヒルトさん――愛しています! そして私の中に入った責任を取って結婚してください!」
「はいっ!?」
なんか精神攻撃をして来た。
くっ、まさか別の方向に変質するとは、厄介な事になったものである!
「いつものバーガンティーめに戻ったな」
「いつものティー君に戻りましたね」
「いつものバーガンティー殿下に戻ったと言えるな」
「……アプリコット様、グレイ様、ネロ様。アレが普段のバーガンティー様なので?」
「大体そうである」
「大体そうですね」
「大体そうだよ」
そこ、うるさい。




